千葉市美術館で個展「水平線を捲る」を開催したアーティストデュオ ネルホル。彼らは写真を重ねて積み上げ、それを彫ることで、本来一枚の写真からは溢れ落ちてしまう時間や記憶、さらには背景にある歴史や社会的背景を浮き上がらせていく。ネルホルが描く波立つ水面のように歪むイメージは、複雑で単一的ではないこの世界のメタファーのようだ。肖像写真、帰化植物、韓国や別府で展開されたフィールドワークからパブリックドメインの写真素材まで、被写体となるテーマや素材を拡張させながら、紙との深い関わりを軸に我々に写真の新たな可能性を提示するネルホル。彼らはどこから来て、これからどこへ向かうのか。17年間の活動の痕跡を振り返りながら、ネルホルの現在と未来を探る。
PRICE:3,300円(税込)
Contents
ネルホル、潜在する記憶
Nerhol の現在地点 対談:田中義久×飯田竜太
文=深井佐和子
かつて写真は紙だった
文=布施英利
積層
文=若山満大
彫刻と教育、飯田竜太の原点 対談:飯田竜太×鞍掛純一
日本写真史をめぐる対談 レスリー A・マーティン×アイヴァン・ヴァルタニアン
ボリビア先住民のガールズスケーターたち ルイーザ・ドル
文=小原一真
東京都写真美術館で開催中 アレック・ソス個展「部屋について」
文=青山南
スポーツ写真における5/3000 の矜持 金野孝次郎
文=阿久根佐和子
生誕100年記念『安部公房写真集』 近藤一弥
インタビュー・文=若林恵
注目の写真家 矢島陽介
Selected Articles
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Nerholの足跡
千葉市美術館で開催された個展「水平線を捲る」のインスタレーションビューを含む、Nerholのこれまでの作品を、シリーズごとに掲載。帰化植物を題材にした「Naturalized Plants」や、戦後の日本とGHQの多層的な関わりを紐解いた「Affect」などNerholを知る上で欠かせない重要な作品群から17年間の活動の痕跡を振り返る。
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Nerholの現在地
Nerhol二人の対談に加え、紙と向き合う過程で田中が出会った徳島・阿波紙ファクトリーへの取材や飯田と恩師・鞍掛順一による対談を収録。さらに布施英人、若山満大の評論と多角的な角度から、Nerholの現在と未来を探る。
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“女性”と“雑誌”を通して、日本の写真史を編み直す
2024年に発行された日本写真における特異な分野を扱う2 冊の重要な書籍『I’m So Happy You Are Here』と『日本写真史 写真雑誌 1874 ‐ 1985』。日本の写真史をめぐる重要な本が英語圏へ向けて、ほぼ同時期に刊行されたことは、きっと大きな意味があるのではないだろうか。各書の編者である、レスリー A・マーティンとアイヴァン・ヴァルタニアンにその背景を語ってもらった。
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1973年の安部公房 近藤一弥『安部公房写真集』を語る
戦後日本の文芸界において特異な存在であり続けた作家・安部公房。生誕100周年を迎えた今年、その活動を再評価する動きが活発となっている。そのひとつが、カメラ好きとしても知られた作家が遺した未発表作を含む、初の本格写真集の発売。安部公房全集や文庫の装丁を手がける近藤一弥が編集した。偉大なる作家は、レンズの向こうに何を見ようとしたのか?