18 April 2026

「感じること」は写真でどこまで可能か?写美「Don’t think. Feel.」展

18 April 2026

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第3室「川内倫子〈Illuminance〉」

第1室「Don't think. Feel.」

第1室「Don't think. Feel.」

第2室「家族写真の歴史民俗学」

第2室「家族写真の歴史民俗学」

第2室「家族写真の歴史民俗学」

第3室「川内倫子〈Illuminance〉」

第4室「記憶の部屋」

第4室「記憶の部屋」

第4室「記憶の部屋」

第5室「イメージの奥にひそむもの」

第5室「イメージの奥にひそむもの」

第5室「イメージの奥にひそむもの」

被写体のモチーフを再現したブース

東京都写真美術館で開催中の「TOPコレクション Don’t think. Feel.」は、写真というメディアの根幹にある「見る」という行為を、揺さぶる展覧会だ。タイトルが示す通り、本展の主題は「感じること」。これは俳優にして武道家であるブルース・リーから引用したもの。単なる視覚的理解ではなく、触覚や記憶、身体感覚を含んだ広義の“感触”へと射程が拡張されている。

AIの進展によって、イメージの生成や認識が加速度的に機械へと委ねられつつある現在、写真における人間的経験とは何か——その問いが本展の底流にある。約39000点に及ぶ収蔵作品から選ばれた約160点は、5つのセクションに分かれ、短編オムニバス小説のように断片的でありながらも通してみると何かを”感じさせる”構成をとる。

第1室「Don’t think. Feel.」はタイトル通り本展を最も象徴するセクション。マン・レイやエドワード・ウェストンといった古典的作家から、細江英公など日本の戦後写真に至るまで、触覚的な視覚表現が並ぶ。ここで強調されるのは、写真が単なる光の記録ではなく、質感や重み、温度といった感覚を呼び起こす媒体であるという点だ。例えば田村栄の小さな生命を写したイメージは、そのサイズや被写体の脆弱さゆえに、視覚を超えて“触れたくなる”衝動を喚起する。

続く「家族写真の歴史民俗学」では、写真が社会的制度としての家族をいかに形作ってきたかが提示される。ここでは感触はより社会的な次元へと移行し、写真が共有されることで生まれる関係性や規範が浮かび上がる。植田正治や深瀬昌久の家族写真は個人の記録であると同時に、共同体のイメージを規定する装置でもある。

展示の中核をなす川内倫子のセクションは、本展における「感じる」というテーマを最も繊細に体現している。光の粒子のようなイメージは、明確な意味を結ぶことなく、見る者の内側に沈潜していく。そこでは理解よりも先に感覚が立ち上がり、意識と無意識のあいだを漂うような時間が生まれる。

「記憶の部屋」に至ると、写真はさらに内面的な領域へと入り込む。スナップショットや都市風景は、特定の出来事を記録するというよりも、見る者の記憶を呼び覚ます装置として機能する。写真は過去を固定するものではなく、現在において再び生成される感覚のトリガーなのだ。

そして最終章「イメージの奥にひそむもの」は、写真の意味が常に表層にあるとは限らないことを示唆する。安井仲治のモノクロ作品や森村泰昌の映像などここでは作家の感性や思考の痕跡が、イメージの背後に潜むものとして提示され、「感じること」は単なる感覚ではなく、想像力や解釈へと接続されていく。

展示が終わると、写真のモチーフになった被写体が再現され、触れられるブースがある。最もわかりやすく本展の狙いを感じることができる。そして本展を通して明らかになるのは、写真がもはや「見る」ためのメディアにとどまらないという事実だろう。それは触れ、思い出し、想像するための装置であり、身体全体で経験されるべきものとして再定義される。

「Don’t think. Feel.」という言葉は、一見すると反知性的なスローガンにも見える。しかし本展においてそれは、思考を放棄することではなく、思考以前にある感覚の層へと立ち返るための方法論として提示されている。AIが高度化する時代において、なお人間に固有のものとして残りうるもの——それは、感じることそのものなのかもしれない。

タイトル

TOPコレクション Don’t think. Feel.

場所

東京都写真美術館 3階展示室(東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内)

会期

4月2日(木)~6月21日(日)

時間

10:00〜18:00(木・金曜日は20:00まで)
※入館は閉館30分前まで

休み

毎週月曜日(月曜日が祝休日の場合は開館、翌平日は休館。ただし5月4日は開館。5月7日は休館)

料金

一般700円、学生560円、高校生・65歳以上350円

URL

https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-5415.html 

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