写真家・深瀬昌久(1934-2012)のライフワークは、作家が不慮の事故によって活動を休止してから、20年以上もの間アクセス不能な状態にあった。彼の死後、長年のときを経て徐々に明かされ始めたそのアーカイブは、謎めきと魅力に溢れていた。
アムステルダムのFoam写真美術館では9月7日(金)から12月12日(水)まで、深瀬昌久アーカイブス所蔵のオリジナルプリントを展示する大規模な回顧展「Private Scenes」を開催する。展示には深瀬の代表作「鴉」(1975-1985)に加え、1960年代から1992年の間に制作された主要な写真シリーズや出版物、資料等も含まれている。
Kanazawa 1977 from the series Ravens © Masahisa Fukase Archives
深瀬は写真の中で、自身が抱える不安や喪失感を時に物憂げに、またときに驚くほど遊戯的に表現してきた。1986年に写真集が出版された『鴉』は、妻と別離し悲しみに暮れていた深瀬の心境のメタファーだ。あまり知られていないが、深瀬は『鴉』をカラーのポラロイド写真でも撮影しており、それらは今回Foam写真美術館で初めて国外で公開される。そのほかに展示される「家族」は70年代、深瀬が北海道に帰郷した際に撮影した家族の記念写真シリーズ。皆がカメラに背を向けていたり、ブリーフ姿で撮影したりと、遊び心を感じられる写真もあれば、老化が進む両親の姿など、悲しみや切なさを感じさせる真剣なものも混在する。
深瀬の作品には元妻の洋子、死にゆく父、そして最愛の猫サスケが主なモチーフとして登場するが、深瀬は常にその被写体に自分自身の姿を投影させていたともいえるだろう。実際彼は写真家人生が終盤に近づくにつれて、カメラを自分自身に向けはじめた。現代のセルフィーの先駆けとも言える膨大な数のセルフポートレイトは、写真を撮るという行為が彼にとって彼自身の正体探るための唯一無二の手段であったことを証明している。
タイトル | 「Private Scenes」 |
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会期 | 2018年9月7日(金)~12月12日(水) |
会場 | Foam写真美術館(オランダ) |
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