東京には、個性的なセレクトが光るブックショップが数多く点在する。その中で、アートに力を入れる大型書店や個性的なアートブックやZINEを扱うインディペンデントブックショップなど、写真集を扱う4店舗の書店員が、毎月おすすめの写真集を3冊ずつピックアップ。
セレクト・文=錦多希子(POST)
新しい生活をスタートする時に読みたい1冊
実験的な写真的実践を重ねるジェフ・ウェーバーが始動したのは、ギャラリースペースという形態をとるプロジェクト「クンストハレ・ライプツィヒ」。これは自身の写真的実践を拡張したものである一方で、この空間を訪れる他者が活発に関与することで生まれたものごとと交差することで、コンセプチュアルな枠組みとしても機能しています。古いアパートをリノベーションする過程を記録した一連の写真は、最小限の手段で創造され、自由に運用されるこの場所への願いを反映しています。この空間にやってきた来訪者によって生まれる活動や行為によって新鮮な風が吹き、思いもよらない方向へと有機的な発展を遂げてゆく。こうした作用の重なりによって醸される新しい気運を、視覚的観点からも見事にとらえています。
タイトル | ジェフ・ウェーバー『An Attempt At A Personal Epistemology | Kunsthalle Leipzig』 |
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出版社 | Roma Publications |
価格 | 4,000円+tax |
発行年 | 2018年 |
仕様 | ソフトカバー |
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鳥が群がって羽ばたく姿を見つけると、その勇敢さに励まされ、そして生命の壮大さに心打たれます。アーティストで教育者でもあるルーカス・フェルツマンもきっと、そんな渡り鳥の姿に魅せられ、その予測もつかない動きをファインダー越しに捉えたのでしょう。まるで空中で繰り広げられるバレエのような優雅さをはらみ、まるで全体でひとつの生物になったかと見紛うほど。上方へ向かうときには爆発するかのように、下方へと向かうときには滝のようなダイナミックなリズムがあらわれます。ときに炸裂したかのように、花が咲くように、もしくは地球を覆う皮膚のように、あるいは花火のように外側へ拡張する。一定の動きをしたかと思いきや、星座を写したネガ像のようにゆっくりと漂う。群れがなすフォルムの純粋な美しさだけでなく、複雑さや多様性に富んだバリエーションに圧倒されます。
タイトル | ルーカス・フェルツマン『Swarm』 |
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出版社 | Lars Müller Publishers |
価格 | 8,000円+tax |
発行年 | 2011年 |
仕様 | ソフトカバー |
URL |
フランス出身のアーティスト、セバスチャン・ルージによる本作に登場するイメージは、いずれもアメリカのロードトリップを写したもの。その雄大で素晴らしい景色にすっかり息を呑みますが、実はルージ自身が実際に旅先で撮り納めたものではありません。読者は、これらのイメージを集積した作家の視点に立つことが求められます。すなわち、架空の軍用ドローンのパイロットのひとりになったかのように、この心理的な風景のなかで繰り広げられる漂流旅行へと誘われるのです。この架空の写真エッセイは、アメリカの写真史を通じてその伝統を鑑みるとともに、色の意味について熟考の機会を与え、時間と場所に関する体験をもたらし、そして暗室でのアナログな現像作業の可能性を探ります。
タイトル | セバスチャン・ルージ『Colorblind Sands』 |
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出版社 | Art Paper Editions |
価格 | 5,800円+tax |
発行年 | 2018年 |
仕様 | ソフトカバー |
URL |
POST(limArt Co., ltd)
恵比寿にあるブックショップ。定期的に取り扱っている出版社が変わり、出版社の個性を感じる事の出来るセレクトになっている。また書店だけではなく、トークショーや展覧会なども開催、本の売り場のコーディネートや本のアーカイブ作成も手がけている。
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