2 September 2019

How They Are Made

vol.6 横田大輔(IMA 2016 Winter Vol.18より転載)

2 September 2019

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横田大輔「写真の物質性を追求するために、絶えず進化し続ける」 | Daisuke Yokota Solo Exhibition“Matter /      “ September 2016, G/P gallery, Tokyo

Daisuke Yokota Solo Exhibition “Matter / “ September 2016, G/P gallery, Tokyo

数々のアワードを受賞し、国内外の出版社から立て続けに写真集を刊行する横田大輔は、いま世界で最も注目を集める若手日本人写真家といっても過言ではない。今年は、大規模な個展やあいちトリエンナーレへの参加など国内でも活発な動きを見せ、ワックス加工された約10万枚のプリントを使った巨大インスタレーション「Matter /   」で、次なるステージへと進化を遂げる姿を見せつけた。東京にある自宅兼スタジオを訪ね、新作に込めた思いと、次なる展望について話を聞いてみた。

IMA=文
宇田川直宏=写真

写真の物質性を追求するために、絶えず進化し続ける

写真の物質性を追求するために、絶えず進化し続ける


―生活空間であるアパートと、その裏にある小屋とで制作されていますが、どう使い分けているんですか?

最近は、大きく分けて二つ制作方法があって、撮った写真を素材として使う制作は、自宅にあるパソコンやスキャナーを置いている部屋で行います。スタジオとして使っている小屋では、写真を撮らない作品――つまり、印画紙に光を当てずに直接乳剤をかけ、それを乾かして現像するだけの作品を作っています。

―写真を撮らない作品は、いつ頃から作り始めたのですか?

1年半前くらいから。これまで熱湯現像で作っていた作品の延長ですね。だんだんとフィルム自体がかっこいいと考えるようになって、イメージをいっそのことなくしてしまった方が、フィルム自体がよく見えるようになると思ったことがきっかけです。ここにあるのは試作品ですけど、乳剤の上にさらに乳剤をかけることでムラが出たり、乳剤をのばすのに使うアクリル板を剥がすときに、乳剤も一緒に剥がれたりしているんです。

横田が住む自宅の裏にある小屋を、スタジオとして使っている。室内は、10畳ほどのスペース

唯一飾ってあった自身の作品。

自宅の台所にある窓から、一度外に出て、小屋へと移動。制作中は何度も行き来する。

複写による作品を作るときは、デスクトップ2台、ノートパソコン2台、スキャナー4台をフル稼働させるという。A0ノビまで出力できるプリンターを使って、「Matter /    」に使用したプリントも制作した。


―限られたスペースで「Matter /   」のような巨大作品を作るのは、大変だったのでは?

大きなプリントを現像するには、完全に真っ暗な部屋とプリントをフラットに置ける広いスペースが整っている必要があります。そんな環境はないけど、やりたい。じゃあ、全部無視しようと発想の転換をしたんです。光を扱う機械も部屋もない。そしたら、写真を焼き付けるときに光を当てるのをやめよう。現像するときにシワや傷が入ったりする可能性がある。じゃあ、入れちゃえばいいやって。いわゆる写真におけるタブーをすべて気にしないことにした結果、こうなったという感じですね。

―エラーが生み出した作品ともいえますね。

そもそも、この部屋がエラーですね(笑)。東京では、大きい作品を作るための広いスタジオを探すのも大変だし、金銭的な問題もある。でも逆に、制限された中で無理矢理作ることで、想定をこえるものができる可能性があると考えました。

―独自のスタイルを築けたのも、エラーを受け入れたことが肝なのではないでしょうか?

写真学校で教えられたことは、何かをドキュメントするとか、ある特定の場所に意味を見いだしてそれを掘り下げることでした。昔から外側の世界に興味がなかったので、それができない俺ってまずいなって。でも、ある時点から「もういいや、向いてないし、やりたくもない」と思って、引きこもって、継続できると思ったことだけをやり始めました。それが、いまにつながっているのかもしれません。

リビングルームの壁一面を覆う、写真集コレクション。国内外の同世代の写真集も多く揃える

異なる種類のコンパクトカメラがずらり。毎日違うカメラを使って撮影することに挑戦していた時期があるという。

Harper’sBookから刊行した『Color Photographs』に収録されている作品のフィルム

現像、定着、水洗に使う容れ物は、自作したそう。小屋には水道が通っていないので、自宅の台所からホースを引いて水を満たす。


―「Matter /    」の制作プロセスを教えてください。

この小屋で、ロール状の印画紙を現像、定着、水洗いし、家に移動して再度きれいに水洗。ワックスを使っているので、その後しばらく家で乾かしてからギャラリーに送ることの繰り返し。もはや肉体労働で、クリエイティブな作業ではないですね(笑)。

―そのような制作過程は、作品を作る上で重要ですか?

この作品を作る前は、自分の中でリミットを感じていたんです。マンネリ化し始めてしまったというか。食欲はあるけど食べられない満腹状態のようなものです。古いものを全部吐き出して、また新しいものを取り入れるために空っぽにしたいと思いました。自発的に吐く行為って、苦痛じゃないですか? そのために嫌気が差すような負荷が必要だったんです。身悶えてるうちに、何かがそこに生まれているような状況を作りました。こんな制作は二度とやりたくないですね(笑)。でも、それくらいうんざりしたかったんです。この場所で制作できることを限界までやって、もう二度とやりたくないと思えば、次に行ってもいいだろうと。制作が終わった後、ちょうどここの取り壊しの話も出たので、いまは次のステップに進むタイミングだと思っています。この部屋でやりたいことは、もうないですから!次は、倍くらいの広さの場所に移りたいと思っているので、きっと制作する作品も変わってくるでしょうね。

Daisuke’s Tools

Daisuke’s Tools
まず最初に取り出したのが、ガラス面を取り外したスキャナー。フィルムを直接乗せて、そのままスキャンすることで、質感をよりリアルにとらえられるという。現像時に熱湯や薬品を使う横田にとって、やかんと手袋は必須アイテム。硫黄成分が含まれる入浴剤は、今年のアルル国際写真祭で発表した作品に使ったものだ。自分でアクリルマウントをすることもあり、接着剤も常備。映像のキャプチャ画像を使った制作にハマり、最近はビデオカメラの使用頻度が高いとのこと。飽き性でカメラを定期的に替える横田は、フィルムもさまざまな種類を取り揃える。そして「最近カメラよりも使っているかも」というのが、音楽制作に使う録音機。「本当は楽器も入れたかったな」と笑って話す。

横田大輔

横田大輔|Daisuke Yokota
1983年、埼玉県生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。Outset|Unseen Exhibition Fund(2013)、第2回写真「1_WALL」展グランプリ(2010)など受賞多数。主な写真集に『MATTER / BURN OUT』『Color Photographs』など。写真家の北川浩司、宇田川直宏とともに「Spew」を結成し、ZINEの制作や音楽パフォーマンスなど幅広い活動を行う。

  • IMA 2016 Winter Vol.18

    IMA 2016 Winter Vol.18

    特集:ストリートスナップの魔力

*展示情報などは掲載当時のものです

2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。

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