ジャック・デイヴィソンのポートレイトは、人物を写すという写真のもっとも古典的な形式に立ち返りながら、静かにその前提自体を揺さぶる実践である。彼の関心は、一貫して被写体の社会的属性や個性の描写にはない。人物を 「誰であるか」として描き出すことよりも、むしろイメージが「どのように立ち現れ、どのように変わりうるのか」という、写真のあり方に向けられている。
全文は『IMA Vol.45』に掲載。
デイヴィソン自身、制作について「私は人物、建築、動物、オブジェ、風景や街並みなどを撮影しているけれど、主題は被写体というより写真そのものです」と語るように、本作《Portraits: 14th to 16th of November》もまた、撮影後の光と影の極端な操作によって、視覚的な現象として出現させることを重視している。そこでは個人のアイデンティティやキャラクターは後退し、代わりに前面に押し出されるのは、陰影や質感といった要素だ。陰影の強いコントラストは、人物の顔のパーツを立体的に浮かび上がらせると同時に、その一部を黒い闇に沈み込ませて、断片化し、情報を欠落させ、匿名性を強める。結果としてイメージは、記録と抽象のあいだで揺れ動く。これは単なる技法の好みというよりも、写真が本来持っている再現性への懐疑の表明のようにも思える。

一方で「顔のごく小さなディテールに集中するのが好きで、単純な手法で多くのことを語るポートレートに強く惹かれている」という彼の言葉からは、断片の中に言語化できない何かを見出そうとする、一見矛盾した姿勢も窺える。
2024年にロンドンで撮影された本作について、彼はその撮影背景を教えてくれた。「私はポートレート制作に野心的で、やや乱暴な方法で取り組みたいと思いました。3日間で111人を撮影するという目標を立てて、それぞれの被写体に対して、自分がどのように関われるのかを試してみたかった」。その試みは秩序だった体系では
なく、むしろ偶然性や逸脱を積極的に取り込むプロセスとして構想されたようだ。ロンドンでの3日間の撮影で掲げられた「111人を撮る」という目標もまた、量的な挑戦であると同時に、個々の顔をいかに異なるイメージへと変換しうるかという実験だったようだ。

さらに彼は、そのプロセスについてこう続ける。「それぞれの人に対して、自分はこの人と独自の方法で関わることができるだろうか、変容させることができるだろうか、と常に考え、自問していました」。ここでの「変容」という言葉は極めて重要だ。彼にとってポートレイトとは対象を主体の本質に迫り、それを定着させる行為ではなく、イメージの操作を通じて新たな知覚を生み出し、再構成する写真行為である。顔はもはや個人の指標ではなく、視覚的な出来事として提示されている。
このとき、イメージは時間的文脈からも切り離される。彼の写真はしばしば、特定の時代や場所に帰属することを拒む。古典的な光の扱い方やプリントの質感は、20世紀初頭の写真を想起させる一方で、その構図や断片化は極めて現代的である。本作の中の人物はまるで中世の人びとのようにも見えるし、逆に最先端のファッション写真誌に載っていてもおかしくない。この時間に縛られない表現は、写真を歴史的な証拠としてではなく、普遍的なイメージとして機能させるための戦略のように思える。
「自然光や人、動物など、自分には完全にコントロールできない要素に強く惹かれている」と語るように、彼はポートレイトを写真家の制御の効いた創作である以前に、予測不可能な「出来事」であるということを忘れない。

さらに、デイヴィソンの実践を支えるのは、その強い物質性だ。フォトポリマー・グラヴュール(感光性樹脂を使った版画技法)を用いたプリントについて、「スクリーンで見る以上の、肉眼でこそわかる強烈なイメージを作りたかった」と言うが、そこでは顔のイメージは光だけでなく、インクや紙の質感によっても形づくられている。写真を単なる視覚情報ではなく、触れることのできる物質的な存在として現すことも重要と考えている。
制作過程そのものに対しても、「時に、制作途中で生じる偶然やミスが、イメージをより面白くすることがある」と偶発性を歓迎し、完成されたイメージよりもその生成プロセスに価値を見出す。こうした態度からも、彼が写真を固定された成果物ではなく、変化し続けるものとして捉えていることがわかる。

Jack Davison | ジャック・デイヴィソン
1990年生まれ。イングランド出身。ウォーリック大学英文科卒業。14歳からカメラを手に取り、独学で写真を学ぶ。その後、『DAZED』や『British Vogue』などのファッション誌で活躍。2019年に初の写真集『Photographs』を刊行。2021年には、招かれた32人のアーティストが『Photographs』の写真上にペインティングやアートワークを自由に施した『Photographs Annotated Artists Edition』を発表。近年の重要な著作『A is for Ant』(2024年)は親としての視点から作り上げた、自然や遊び、創造性を祝う作品集。

