東京には、個性的なセレクトが光るブックショップが数多く点在する。その中で、アートに力を入れる大型書店や個性的なアートブックやZINEを扱うインディペンデントブックショップなど、写真集を扱う4店舗の書店員が、毎月おすすめの写真集を3冊ずつピックアップ。
セレクト・文=錦多希子(POST)
テーマ:Fw: Books
「Fw: Books」はアムステルダムを拠点とする写真やそれに関連する本を手がけるインディペンデントの出版社。写真というものはユニークなメディアで、それ自体を明らかにするための確固たる方法というものは存在せず、それはスクリーンにも、プリントにも、スライドに投影することにも、あるいは本にもなりえるとしている。本を作るということを、新しい作品を作るため選択肢としてとらえている。
オランダ出身の写真家、マリー=ジョゼ・ヨンゲリウスは、「我ら人間はどのようにして世界を形作り、適切にコントロールしようとしているか?」という疑問に対して、都市と自然の景観と、それが抱く文化的、経済的、社会的、政治的影響に目を向け、視覚的な答えを見出します。
本作の主題は、ロサンゼルスの街中で見かけるエキゾチックなヤシの木。1932年のオリンピックのために都市の美化を目的として植樹されたものがほとんどで、戦後エンタテイメント産業がこぞってヤシのそびえる場面を起用したことにより、いまやこの街の象徴的な存在となりました。ヨンゲリウスはもっとも印象深い場所を再訪し、ヤシの木を収めます。
そもそもヤシの平均寿命は70年から100年。ありふれた情景もほどなくして消滅してしまうかもしれないと思うと、途端に物寂しさがこみ上げてきます。
タイトル | マリー=ジョゼ・ヨンゲリウス『Los Angeles Palms』 |
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出版社 | Fw: Books |
価格 | 6,000円+tax |
発行年 | 2017年 |
仕様 | ハードカバー |
URL |
コントロールと権力をテーマに掲げるエスター・ホーバースによる本作で着目するのは、「False Positives(フォールス・ポジティブス=偽陽性)」という高度な監視システム。この機能を搭載したカメラは、身体言語のサインのうち犯罪の意図を示す可能性のある動向を「異常」と判断し、それによりアルゴリズムが構築され、公共空間内での異常行動を検出することができるのです。このプロジェクトのためにホーバースに協力した専門家らによって指摘された8つの異なる異常に基づき、規範的行動に対する問題提起を試みます。
蛇腹製本の片面には前述のカメラで撮影された写真が、その裏面には異常とみなされた対象のシルエットと画角内での軌跡が収録されています。
タイトル | エスター・ホーバース『False Positives』 |
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出版社 | Fw: Books |
価格 | 6,000円+tax |
発行年 | 2017年 |
仕様 | ハードカバー |
URL |
写真家のネールチェ・テン・ウェスティネントは、同じく写真家のステファン・ケッペルとともに、オランダの地方都市・ユトレヒトを訪れ、その州境を完全に記録しました。実はこの州境線、1300年に最初に引かれてからというもの、幾度も変更されてきました。彼女は歴史的・建築的なランドマークや都市計画の成果に焦点を置くのと同じように、道中で偶然に遭遇したものや砂山、変化する気候条件といった自然現象を見つめています。
観測し記録すると聞けば、いかにも厳密さが求められるであろうと想像してしまいがちです。それに対して、その記録を為すのは機械ではなく人間です。それゆえ、そのひとなりのいわば「フィルター」を通せば、一様の結果にはならないこともあるし、個人的な視点が反映されることもあるでしょう。こうしたゆらぎが織り交ぜられ、標題のとおり「輪郭」となってあらわれるのです。
タイトル | ネールチェ・テン・ウェスティネント『Contour』 |
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出版社 | Fw: Books |
価格 | 2,600円+tax |
発行年 | 2013年 |
仕様 | ソフトカバー |
URL |
POST(limArt Co., ltd)
恵比寿にあるブックショップ。定期的に取り扱っている出版社が変わり、出版社の個性を感じる事の出来るセレクトになっている。また書店だけではなく、トークショーや展覧会なども開催、本の売り場のコーディネートや本のアーカイブ作成も手がけている。
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