2018年はどんな写真集が売れたのだろうか? 毎月4店舗のおすすめ写真集を紹介しているこのコーナーでは、年末特別号として2018年の売上ベスト3と、来年注目のアーティストを紹介。今年の写真集のトレンドが見えるラインナップに注目してみよう。
セレクト・文=築根ひろ子(銀座 蔦屋書店)
世界を旅し、自らの足で歩くことを通じて、古代より綿々と続く自然と人間の営みと関係、それらが紡ぎ出す文化について向き合い続けてきた写真家・津田直の写真集です。バルト海に面する緑豊かな小国リトアニアへの4年間にわたる旅の中で津田直が目にした情景が記録され、雪残る冬から始まり、春から夏への移り変わりとともに太陽の日差しが強まり、徐々に森が緑に包まれていく様子が静寂の中に描かれています。シンプルで抑制された装丁とグレーとグリーンの色調によって、「雷の神様がグレーの重たい空から雷を落として、植物に命が吹き込まれ、動物たちが目を覚まして春が始まる」というリトアニアの神話が見事に表現されています。
初夏に刊行され、「夏を感じる、また夏に読みたくなるような、おすすめ写真集」でもご紹介した本書ですが、秋、冬と季節をめぐり、お客様を魅了し続けています。リトアニアと日本との共通点を写真家自身が指摘しているように、リトアニアの豊かな緑と人間との関係が紡ぐ情景が、わたしたちの風土との類似性によってどこか懐かしさを感じさせるからかもしれません。夏には木陰の爽やかな風を感じ、冬には草花の萌芽と息吹によって春の到来が待ち遠しくなる、一年を通して自然の深い豊かさを感じることができる1冊です。
タイトル | 津田直『Elnias Forest エリナスの森』 |
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出版社 | handpicked |
価格 | 5,500円+tax |
発行年 | 2018年5月 |
仕様 | ハードカバー/200mm×297mm |
URL |
2015年にアルル国際写真祭に出品し、海外でも高く評価され、ヨーロッパのみならず中国をはじめとするアジアのアートシーンでも急速に人気を高めている写真家・深瀬昌久。刊行と同時に瞬く間に完売となった本書は、深瀬昌久アーカイブのディレクターであるトモ・コスガの監修によって実現した謎多き写真家・深瀬昌久の40年にわたるキャリア全体を俯瞰し、その多様な写真表現の全容を明らかにしようと試みる初めての全集です。深瀬については、『鴉』など幾つかの写真集が不屈の名作として認知される一方で、断片的に語られることも多く、その全貌の多くは謎に包まれていました。全26章で構成された本書は、それぞれの作品を時系列で整理し、手記や撮影記録なども合わせて作家の意図や制作背景も入念に探っていきます。グラフィカルで余白を多用した装丁によって、カラーやモンタージュなどさまざまな表現方法を採用していた深瀬の多彩さが表現されています。初めての深瀬の1冊としても、コレクションの1冊としてもオススメの写真集です。フランスの出版社Editions Xavier Barralから英・仏語版も刊行されています。
タイトル | |
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出版社 | 赤々舎 |
価格 | 8,000円+tax |
発行年 | 2018年 |
仕様 | ハードカバー/195mm×260mm×45mm |
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2015年に刊行され、瞬く間に完売となった初版の『Pastel wind』は、広告やエディトリアル、CDジャケットの撮影など多彩に活躍するフォトグラファー・今城純が、ポルトガルへの旅の中で出会った風景や人々を撮影した写真集です。2018年12月、今城の名作写真集『Pastel wind』が、銀座 蔦屋書店限定で待望の再販となりました。ブックデザインは初版に引き続き、デザインプロダクション DRAFT出身の天宅正が担当。装丁も初版からリニューアルし、表裏、上下左右、6面で全て異なるポップなデザインも楽しく、数冊並べればまるでカラフルな積み木のようです。ポルトガルの何気ない日常の情景が、今城ならではの美しいペールトーンで描きだされ、写真集を開くとまるでおとぎ話の世界に入り込んだような気持ちになります。12月に刊行したばかりの本書ですが、オリジナルのプリント2枚がセットになった特装版とあわせて、多くのお客様からお問い合わせを頂いています。大切な人への贈り物に、どこか遠くへ行きたい時に、一年走り続けた自分と向き合う1冊に、大変好評をいただいている写真集です。
タイトル | 今城純『Pastel wind』(Second edition) |
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出版社 | sky blue books/銀座 蔦屋書店 |
価格 | 3,800円+tax |
発行年 | 2018年 |
仕様 | ハードカバー/140mm×230mm/スリーブケース付き |
URL | https://store.tsite.jp/item-detail/art/14983.html |
2019年注目の書籍・アーティスト
フランスに拠点を置く出版社『Wombat』は、アルフレッド・スティーグリッツが編集に携わった写真雑誌の『カメラワーク』やアンディー・ウォーホールが編集したBOX形式の芸術雑誌『Aspen Vol.1 No.3 : Andy Warhol Fab Issue』にインスピレーションを受け、ウィリアム・クラインやJRなど、世界的な写真家や気鋭の芸術家のBOX形式の作品集を刊行しています。各作品集には作品プリント2枚と、ポストカード10種を収録。各エディションは1,000以下に限定されており、コレクション性も高いシリーズです。
『Wombat Box No.29』は1985年にフランスで生まれ、VOUGE、New York Times等の一流誌で活躍しながら、ヨーロッパのみならず中国でも精力的に展示を開催している写真家ポール・ルストーの作品集です。ポール・ルストーは、2016年、17年と2年連続でパリ・フォトに出品し、同年、フランスのイエールで開催されたFestival de Mode et de Photographieでは10名の才能ある写真家の一人として選出され、現在高い注目を集めています。小鳥や花、裸婦などのモチーフと水彩画のような揺らぎ、鮮やかで美しい色合いによってつくられる彼のイメージは、白昼夢のような幻想的な世界を描き出します。プリントは額装してオフィスやお部屋に飾ったり、ポストカードは大切な方へ贈るメッセージを書いたり、ルストーの美しい写真を生活の中で堪能することができる作品集です。
タイトル | ポール・ルストー『Wombat No.29』 |
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出版社 | Wombat |
価格 | 8,800円+tax |
仕様 | 205mm×265mm(プリントサイズ:180mm×240mm)/ケース入り/カラープリント2枚・ポストカード10枚 |
URL |
銀座 蔦屋書店
アートと日本文化の2つのテーマに掲げ今年4月にGINZA SIX6階にオープンした大型書店。 6万冊以上のアートブックが並ぶ書店だけではなくギャラリーやカフェなどを併設し 銀座カルチャーの新たな中心となっている。
〒104-0061
東京都中央区銀座6丁目10-1 GINZA SIX 6F
tel: 03-3575ー7755
9:00~23:30(不定休)
https://store.tsite.jp/ginza/
2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。