東京には、個性的なセレクトが光るブックショップが数多く点在する。その中で、アートに力を入れる大型書店や個性的なアートブックやZINEを扱うインディペンデントブックショップなど、写真集を扱う4店舗の書店員が、毎月おすすめの写真集を3冊ずつピックアップ。
セレクト・文=錦多希子(POST)
先月の買い付けで仕入れたオススメ3選
写真家のアンネ・ジーネの取り組むプロジェクトは、主題こそ異なれど、いずれも生態系へのあくなき探究心に溢れています。本作では、不条理で実験的な果樹園、あるいは木・低木・草本植物が科学的・教育的な目的から栽培されている場所について、一連の提案を示すことを試みました。その始点となったのは、1977年の苗木の育苗圃カタログに掲載された、9種の最も人気の高い品種です。どうやらそれらの人気の理由は、季節による落葉、サイズ、密度、土壌の必要条件、そして風、塩、あるいは病気や虫類の攻撃に対する過敏さに依拠するそう。ノスタルジックな風合いのある印刷技法を採用して繰り広げられる9つの品種に対する探索は、見た目、文化的地位、地理、そして木ごとの習性について幅広い洞察をもたらすことでしょう。
タイトル | アンネ・ジーネ『Arboreta』 |
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出版社 | 私家版 |
価格 | 5,400円+tax |
発行年 | 2018年 |
仕様 | ソフトカバー |
URL |
18世紀後半、測量士たちはアメリカ中西部を正確に1マイル四方の正方形に分割しました。しかし地球は丸いので、その分割線は北に向かうほどに細くなるため、区画されたグリッドを修正する必要が生じました。20マイルごとにグリッド補正があらわれます。
2016年、パイロットで航空写真家のゲルコ・デ・ライターは、カンザス州の滞在中にこのまっすぐでほこりっぽい道路を運転したとき、それ以外は完全に幾何学な道路網のなかに、小さな曲がり角とT字路を発見します。これを機にデ・ライターはGoogle Earthの助けを借り、何千にも及び多様なグリッド補正をつぶさに調べました。
世界的に定評のあるイルマ・ボームがブックデザインを手がけた本書では、この衛星画像を使った百科事典的なアートプロジェクトを通じて、ランドスケープをデザインしたいという人間の欲求、そして自然がその欲求に呼応する多くの方法に対する証言があらわれます。
タイトル | ゲルコ・デ・ライター『Grid Corrections』 |
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出版社 | nai010 publishers |
価格 | 7,700円+tax |
発行年 | 2019年 |
仕様 | ソフトカバー |
URL | https://www.nai010.com/en/publicaties/gerco-de-ruijter-grid-corrections/240707 |
ブラック・マウンテンは、その急峻な山腹のために、登頂不可能であり不滅であろう山の典型だと言われています。過去と未来は、その山の秘める力や不朽性に影響を与えることはできません。
写真家のアネリス・デ・メイは、山の絶対性を尊重してきました。彼女は出逢いの瞬間を信じて、月、太陽、そして雪を待ったのです。
「ブラック・マウンテンとの対話」とのタイトルを付された本書では、3つの異なる方法で本を見る体験をもたらします。この本を前から後ろにめくったとき、ブラック・マウンテンしか見えまぜん。しかし、今度は後ろにめくったら、柔らかい青い空しか見えません。ただ本をめくるだけでは、山と空のイメージは交互にあらわれるだけです。不可思議な現象に、ついパラパラとめくる行為を続けてしまいます。もうひとつの方法、それはぜひ、本書を手にとって見出してほしいです。
タイトル | アネリス・デ・メイ『Black Mountain Conversations』 |
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出版社 | Art Paper Editions |
価格 | 3,900円+tax |
発行年 | 2018年 |
仕様 | ソフトカバー |
URL | https://artpapereditions.org/product/book/black-mountain-conversations/ |
POST(limArt Co., ltd)
恵比寿にあるブックショップ。定期的に取り扱っている出版社が変わり、出版社の個性を感じる事の出来るセレクトになっている。また書店だけではなく、トークショーや展覧会なども開催、本の売り場のコーディネートや本のアーカイブ作成も手がけている。
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