今年もあっという間に3カ月が経ち、新生活が始まるシーズンがやってきた。やってくる春に胸を踊らせながら、写真集を通して新しい作家に出会ってみたい。今回は国内外の書店3店舗に、今年注目したい若手作家の写真集を3冊ずつ紹介してもらった。第2弾は、福岡県福岡市のヴィンテージビルの一室をリノベーションし営業するLIBRIS KOBACO。「本と写真」をコンセプトにしたブックストア&フォトギャラリーで、店主のセレクトした写真集が並ぶ書店としての期間と、作家が在廊する写真展示の期間が互い違いにオープンする。その独自のスタイルで写真と触れ合う機会を与えてくれるLIBRIS KOBACOが選ぶ、注目したい写真集を見てみよう。
セレクト・文=増田みさ(LIBRIS KOBACOオーナー)
富澤大輔『字』
富澤大輔がモノクロフィルムで撮り下ろした数千枚の写真の中から、デザイナーの浅田農と共に1年をかけて作り上げた写真集。「字」という変わったタイトルからは想像もつかないのですが、日本各地のどこにでもあってどこでもない風景を、富澤ならではの目線で見ることができます。目の前の風景や事柄ばかりに目が行きがちな写真表現を、写真とはこうあるべきという枠組みを越えた作家独自の視点で再解釈されていて、読み解くために何度も読み返したくなる1冊です。このとらえどころのない感覚の答えを、今後の作品で見つけることができたらと楽しみにしています。
タイトル | 『字』 |
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出版社 | 南方書局 |
価格 | 4,950円 |
発行年 | 2022年 |
仕様 | 糸かがりハードカバー(函入り)/112mm×169mm/336ページ |
URL |
リュウ・イカ『The Second Seeing』
中国内モンゴル出身のリュウ・イカが、さまざまな場所、被写体をスナップ写真で構成したパワフルな1冊。写真集を見ているはずなのに、まるで自分がたくさんの視線に晒される感覚に陥ります。ページをめくる度に何度も手を止めて、本を閉じて、そして深く息を吸って……そんなことを繰り返しながら最後のページに辿り着いたときには、言葉にできない達成感のようなものを感じました。紙のざらつく感覚が指からなかなか消えず、余韻とはまた違うなにかを肌でずっと感じる写真集です。エネルギーあふれる作家なので、表現方法が今後どのように広がっていくのかとても注目しています。
タイトル | 『The Second Seeing』 |
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出版社 | 赤々舎 |
価格 | 5,500円 |
発行年 | 2021年 |
仕様 | ソフトカバー/297mm×223mm/292ページ |
URL | http://www.akaaka.com/publishing/ryu-ika-thesecondseeing.html |
吉田志穂『測量|山』
デジタルネイティブ世代である吉田志穂がインターネット上で山を検索・撮影し、さらに実際に現地に赴いて撮影を行い、独自の視点で山にアプローチした1冊。現実と仮想の境界の曖昧さをより深く覗き込みながら、実際の山の写真と、インターネット上にあるデジタル世界の山の写真が自分の中で交差し、デジタルの点の集合体の向こうに現実があるような感覚になっていきます。そして、写真集を見ていること自体があやふやで不思議な感覚を与えてくれる、とても美しい本です。写真集だけでなく、今後の展示もとても気になっていて、個人的に必ず見に行きたいと思っている作家のひとりです。
タイトル | 『測量|山』 |
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出版社 | T&M Projects |
価格 | 4,950円 |
発行年 | 2021年 |
仕様 | コデックス装+ビニールカバー/200×297mm/128ページ |
URL |
LIBRIS KOBACO
福岡県福岡市にある「本と写真」をコンセプトにしたブックストア&フォトギャラリー。ブックストアとフォトギャラリーは同時にオープンするのではなく、交互にオープンする独自のスタイルで営業する。のんびりとした時間が流れるヴィンテージビルの落ち着いた空間で、写真と向き合うことができる。
福岡県福岡市中央区大手門3丁目2-26
田中ビル 401号室
http://libris-kobaco.com/index.html