高い技術を駆使し、圧倒的なエネルギーを注ぎ込んだ作風で知られ、欧米でも高い人気を誇る横田大輔のロンドンにおける初個展。ロンドンのローマン・ロード・ギャラリーでは、横田による3つのシリーズを見ることができる。
個展「Emergence」では、カメラを使わずに写真印画紙に感光性のゼラチンを塗布したものを感光させて作った大判の写真作品のシリーズも含まれている。黒で占められた画面を近くから見つめていると、その中に微小なヴァリエーションが見えてくる。また作品全体からは、複層的で実験的な横田の作品ならではの引力と不可思議で夢のような雰囲気が漂ってくる。
また、横田のインスタレーション作品、『Matter/ Vomit』(2016年)からインスピレーションを受けて制作された映像作品も含まれている。ギャラリ―内の5つのモニターで映し出されているこの作品の素になっているのは、10万枚のインクジェット・プリントをワックスでコーティングした写真作品だ。横田はこれを映像に変えるために、まず写真作品の制作プロセスをデジタルフィルムに収め、それをコピーしたものを再度デジタル化することで、その過程で起きたイメージの劣化を作品に取り込んでいる。
3つ目の作品は、横田の非常にパーソナルなシリーズである『垂乳根』(2015年)から選び出された53の写真作品をグリッド状に配したもの。そのタイトルを日本北部で母乳の出が良くなると言い伝えられているイチョウの古木からとったこの作品は、自分の母親とガールフレンドに対する横田の抒情詩である。至近距離で撮影されたぼやけたイメージは、まるで電気を帯びてでもいるように、理屈抜きで訴えかけてくるものがあり、忘れがたい美しさを湛えている。
『Emergence』では、若いアーティストのユニークな世界観と、世界を記録するという写真の役割に対する考えを垣間見ることができた。
Text: Gemma Padley
タイトル | 「Emergence」 |
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会期 | 2017年9月28日(木)~11月11日(土) |
場所 | ROMAN ROAD(イギリス) |
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