Photobooks: Evolving by Rebirth

復刻によって蘇る写真集 vol.2
信頼の構築が、写真集を現代に蘇らせる 中島佑介(POST)インタヴュー

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『Screen Test / A Diary』Gerard Malanga, Andy Warhol(POST、2017)

『Screen Test / A Diary』Gerard Malanga, Andy Warhol(POST、2017)

名作の復刻は歴史を受け継ぎ、再考し、また掘り起こす行為でもある。復刻によって写真集は何度でも生まれ変わり、そして蘇る。何をもって名作とし、復刻されていくのだろうか。その背景と意義を探る。

石神俊大=インタヴュー・文

出版社というくくりで書籍の特集を行っていることで知られるブックショップ、POSTは近年、写真集の復刻にも積極的に取り組んでいる。IMA Photobooksと共同でスタートした出版レーベルFoci Pressからは、オランダの写真家ヨハン・ファン・デル・クーケンの写真集『Wij zijn 17』を発行し、今年はPOSTとしてアンディ・ウォーホルとジェラード・マランガによる写真集『Screen Tests / A Diary』を手がけたばかり。代表の中島佑介は「優れた写真集なのに、いま手に取れなくなってしまったものを見る機会を作りたい」と語る。

「最初に復刻したクーケンの『Wi j z i jn 17』は、個人的な思い入れが強い写真集でした。大学生の頃に見て衝撃を受けて、同時にオランダの文化に興味をもつきっかけにもなった一冊なんです。1955年に発行されて以降、この写真集自体は何度も復刊されていましたが、毎回売り切れて絶版の状態が続いていました。写真家として国際的に有名ではないけど時代を超えて常に売れているというのは、写真集が優れている証拠。そこでこの写真集は僕にとってもすごく重要だということを、クーケンの作品管理を担う彼の元妻ノシュカ・ファン・デル・レリーと、オランダ写真界を牽引するギャラリストであり、ノシュカの現在のパートナーであるウィレム・ファン・ゾーテンダールに説明したところ、復刻の許可をいただけたんです」

『wij zijn 17』Johan Van Der Keuken(Foci Press、2015)

『wij zijn 17』Johan Van Der Keuken(Foci Press、2015)

『wij zijn 17』Johan Van Der Keuken(Foci Press、2015)

『wij zijn 17』Johan Van Der Keuken(Foci Press、2015)

『wij zijn 17』Johan Van Der Keuken(Foci Press、2015)


一方で、『Screen Tests / A Diary』は美術評論家・河添剛の紹介によって写真集の存在を知り、復刻を決めたのだという。「マランガ自身が写真集に関する権利を保持していたのですが、河添さんはマランガとも交流があり、この写真集の重要性をすごく理解されていました。復刻作業にあたっては、河添さんの知人がもっていたオリジナルをお借りできました。復刻版の造本はオリジナルにかなり近づけていますね。本来は凸版印刷だったのですが再現するのは難しかったため、オリジナルのデータをスキャンで取り込んで、にじみやかすれも再現しています。当時の製本はかなりラフで水平垂直がきっちりとられていないところも多いため、バランスを取りながら微妙な傾きも残すようにしました」。

『Les Copains』Johan Van Der Keuken(Foci Press、2015)

『Les Copains』Johan Van Der Keuken(Foci Press、2015)


どの写真集もレイアウトや写真のトーンが忠実に再現されているが、決して「複製」ではない。クーケンの場合はウィレムから造本を改良したいという申し出があったため紙や製本を一部変えたほか、トリミング前の写真や別カットをまとめた『Les Copains』も同時に出版している。マランガの場合は河添が同書の美術史的な意義について解説したテキストが付録として付け加えられている。

『Les Copains』Johan Van Der Keuken(Foci Press、2015)

『Les Copains』Johan Van Der Keuken(Foci Press、2015)

『Les Copains』Johan Van Der Keuken(Foci Press、2015)

『Les Copains』Johan Van Der Keuken(Foci Press、2015)

『Les Copains』Johan Van Der Keuken(Foci Press、2015)


「復刻では出せない時間の重みがあるのは事実ですが、それを追い求めて懐古的になるのは避けようと思っています。たとえばSteidlが復刊させているロバート・アダムスの写真集などはとても丁寧につくられていて、復刻版ならではの価値がある。現代になって技術的に進歩している部分もあるので、作り直すときは、きちんと現代の本として成立させることは意識しています」。では、写真集史においても重要な写真集の復刊をどうやって可能にしたのだろうか。「写真集の復刻においては、個人的な信頼がすごく重要なのだと感じました。クーケンのときは、ノシュカやウィレムを紹介してもらい、直接会って写真集を介しながら自分と価値観を共有できたことが重要だったんです。マランガは河添さんの存在が大きかったですね」。

『The New West』Robert Adams(Steidl、2016)

『The New West』Robert Adams(Steidl、2016)


単にオリジナルを複製するのではなく、現代に即した付加価値を与えるのが真の「復刻」なのだと主張するのはたやすいが、ときには死去していることさえある作家の意図をくみ取りながら「復刻」を行うのは、そう簡単なことではない。「復刻」とは強固な信頼関係があって初めて成り立つものであり、その信頼関係とは対象への深い愛なしには生まれ得ない、かけがえのない作業なのだ。

POSTから刊行された復刻写真集を紹介

『Screen Test / A Diary』
Gerard Malanga, Andy Warhol(POST、2017)


アンディ・ウォーホルとジェラード・マランガが、16ミリカメラで彼らの制作スタジオ「ファクトリー」を訪れた人々のバストアップを撮影した映像作品「Screen Tests」のフィルムからプリントされた写真と、その写真に合わせてマランガが綴った散文詩からなる写真集。1967年に発売されたときは全く注目されず、その後もコレクターズアイテム化していたが、「いま見てもポートレイトとして新しい。表情を繕えない映像から写真を切り出すことで、普通は写真に写らない表情がとらえられている」と中島が語るように、美術史においても重要な意味をもっている。ミック・ジャガーやサルバドール・ダリなど錚々たる面々が被写体に名を連ね、60年代のアメリカ文化をとらえたポートレイト集としても貴重な一冊。

オリジナル版『Screen Test / A Diary』
Gerard Malanga, Andy Warhol(Kulchur、1967)


原書は50年前である1967年にKulchurから刊行された。同年に出版されて高い評価を得た『Andy Warhol’s Index (Book)』とは対照的に、当時はほとんど売れず、刊行から数年後も在庫を抱えていた出版社は断裁処分をしてしまった。そのため市場に出回る部数が極端に少なく、オリジナルの価格も高騰した。

Yusuke Nakajima

中島佑介|Yusuke Nakajima

1981年生まれ。2002年にlimArtをスタートし、2011年にPOSTをオープン。恵比寿の店舗では常に出版社が入れ替わる本棚に加え、ドイツのSteidlの主要刊行物が並ぶ。現在はPOSTのディレクターとして、ブックセレクトや展覧会の企画、書籍の出版のほか、Dover Street Marketのブックシェルフコーディネートも手がける。2015年からはThe Tokyo Art Book Fairのディレクターに就任。