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ニューヨークの若手写真家ファイル
#01 デヴィット・ブランドン・ギーティング

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デヴィット・ブランドン・ギーティング

写真専門書店Dashwood Booksに勤め、出版レーベルSession Pressを主宰する須々田美和が、いま注目すべきニューヨークの新進作家たちの魅力をひもとく新連載。世界中から集められた写真集やZINEが一堂に揃う同店では、定期的にサイン会などのイベントが開かれ、アート界のみならず、ファッション、音楽などクリエイティブ業界の人たちで賑わいをみせている。ニューヨークの写真シーンの最前線を知る須々田が、SNSでは伝わりきれない新世代の声をお届けする。

インタヴュー・文=Miwa Susuda

新連載第1回でフィーチャーするのは、デヴィット・ブランドン・ギーティング(1989年生まれ)。路上で見つけたありふれたモノ、友人や身近な人たちを主な被写体とするストレートフォトに斬新なデジタル加工を施す作風で人気を博す気鋭のアーティストである。アディダス、リーバイス、MACコスメティックスを始めとするファッション、ビューティ業界のクライアントや『T Magazine』『Vogue』などの雑誌からのコミッションワークと平行して、パーソナルワークも精力的に制作し、コマーシャル、エディトリアル、アートの分野で躍進を遂げている。ここでは、ギーティングのバックグラウンドや、遊園地をテーマにした新作「Amusement Park」に込めた思いや制作などについて話を訊いてみた。

COMMISSIONED / SÜDDEUTSCHE ZEITUNG MAGAZIN - SMART DEVICES

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―写真を始めた経緯を教えてください。

僕は、ありふれた中流家庭の3人兄弟の次男として生まれ、ペンシルバニア州のベツレヘムという田舎町で育ちました。10代の頃は、パンクバンドのドラマーとして友人たちとバンドを組んでいましたが、音楽の道に進もうとは考えていませんでした。16歳のときに、友人が高校の暗室でモノクロ写真を現像しているところを見て写真に興味を持ち、それから高校で写真の授業を受け始め、写真を撮ることにのめり込んでいったんです。

その頃は、尊敬する作家や目標にするスタイルを意識することもなく、気持ちの赴くままに写真を撮っていました。それは、自分の好きなミュージシャンのコピーバンドをしていたときとは違ったとても新鮮な経験で、それが楽しくて、カメラを片時も離さずに持ち歩くようになったんです。何の制約もなく、誰のためでもなく、自分の琴線に触れたものを自由に撮影する喜びでいっぱいでした。高校では写真のクラスが一番楽しかったので、大学では写真学部を専攻しようと決め、2007年にニューヨークのスクール・オブ・ビジュアル・アーツに進学しました。


『Infinite Power』(Pau Wau Piblciation、2015年)

『Infinite Power』(Pau Wau Piblciation、2015年)

『Infinite Power』(Pau Wau Piblciation、2015年)

『Infinite Power』(Pau Wau Piblciation、2015年)

―スティルライフとポートレイトが巧みに組み合わさる手法は、ロー・エスリッジからの影響を感じます。

大学2年生のときに、Andrew Kreps Galleryでエスリッジの作品を初めて目にしました。そのときの衝撃は、いまでもよく覚えています。それは、感動したとかいうレベルではなく、物語性や主観的な方向性のようなものが不在で、作品全体にあるべき「秩序」が見出せなかったからです。写真を選ぶ基準を提示しなくてもシリーズが成立することに感銘を覚えました。それ以来、写真の並びやシークエンスに対してより意識的になったと思います。あるべきだと思っていた「秩序」から離れたところで写真の流れを作ることで、全く違った意味合いを作品に与えられると気付いたためです。エスリッジは、いわゆる一般的な写真のあり方から逸脱した方法論を提唱した第一人者であり、多くの若い世代の写真家に影響を与えていると思います。


『Amuseumet Park』(Lodret Vandret、2017年)

『Amuseumet Park』(Lodret Vandret、2017年)

『Amuseumet Park』(Lodret Vandret、2017年)

ロンドンで開かれたブックフェア、Offprintでのサイン会の様子

ロンドンで開かれたブックフェア、Offprintでのサイン会の様子

ロンドンで開かれたブックフェア、Offprintでのサイン会の様子

ロンドンで開かれたブックフェア、Offprintでのサイン会の様子

ロンドンで開かれたブックフェア、Offprintでのサイン会の様子

ロンドンで開かれたブックフェア、Offprintでのサイン会の様子

ロンドンで開かれたブックフェア、Offprintでのサイン会の様子

ロンドンで開かれたブックフェア、Offprintでのサイン会の様子

―最新作「Amusement Park(遊園地)」は、作品タイトルに反して、どこか暗い印象を受けますが、どういった意図があるのでしょうか。

遊園地は楽しい場所というイメージがあると同時に、不安や不吉さも孕んでいると思います。さまざまなアトラクションは、来場客の気を引くために競い合っているかのようですし、ジェットコースターなどの乗り物からは緊張感も感じます。見方を変えれば、遊園地は幸せを象徴するユートピアというより、悪夢だらけの世界に映りませんか?本作は、表層的には明るい色で覆われていますが、よく見ると騒音や乗り物のスピード感、ジャンクフード、イライラしている来場客の様子が際立つようにデジタル加工を施しています。また、一見、平静を装っていて、順風満帆な社会に映るアメリカという国も、吐き気がするほど異常な問題を抱えています。本作を通して、いまのアメリカの情勢やライフスタイルも表現したいと思いました。


Amusement Park

Amusement Park

Amusement Park

Amusement Park

Amusement Park

―本作の制作過程についてもう少し詳しく教えてください。

コンセプトを表すものとして「Amusement Park」というタイトルをつけましたが、同シリーズに収録されている作品は、実際に遊園地に行って撮影したものよりも、自分のスタジオで制作した写真が多いです。ニューヨーク近郊にあるふたつの遊園地に行って撮影したほか、クレイグスリスト(情報掲示板サイト)で動物のかたちをした風船を作れる人を探してスタジオで撮影したり、ヴィンテージカーのカレンダーを使ってコラージュし、それをさらに複写したりしました。それらの写真を、最終的にデジタル加工を施して仕上げています。

―昨年、Lodret Vandretから写真集『Amuseumt Park』を刊行し、今年の2〜3月にブルックリン橋の麓のダンボ地区にあるギャラリー、Janet Borden Inc.で同作の個展を開かれています。それぞれのメディアとどのような姿勢で向き合っていますか?

Janet Borden Inc.は、マーティン・パーやジャン・グルーバーなど大御所作家の展示をすることで知られています。自分のような若手作家を扱うことは稀なので、個展を開催できたことは光栄に思っています。僕も含め若いアメリカの写真家は、インターネットで作品を発表することに力を入れていますが、展覧会というかたちで作品を見せることも、とても重要だと思っています。

今回の展示では、デジタルCプリントをホワイトキューブの壁に貼るだけでは、十分でないということを学びました。今後はもっとインスタレーションなどを積極的に取り入れて、違う見せ方を模索したいです。ただ、僕の場合は、デジタル加工を多用していて平坦な印象のイメージが多いので、写真集の方が作品の見せ方において工夫し易いですね。例えば、種類の異なる紙を混ぜ合わせたり、印刷や装丁で工夫したりすることで、作品に抑揚をつけることができますから。


―2~3年前から、ニューヨークの地価高騰の影響で、多くのアーティストがアップステートやロサンゼルスに移る傾向があります。今後も、ニューヨークを拠点に活動する予定ですか?

ニューヨークが持つ特別なエネルギーは、アメリカのどこに行っても得られないと思うので、ここから離れることは考えていません。実際のところ、ニューヨークは、天国とは真逆ですが(笑)。多くのニューヨーカーたちが、この街を皮肉と愛を込めて受け入れているように、僕もここが大好きなんです。物事が猛スピードで進み、多様なライフスタイルがある。常に前を向いて突き進んでいるニューヨーカーはとても魅力的で、僕もその一人でありたいと思っています。僕が作家として一番気をつけていることは、一人よがりにならないこと。自己満足に浸らないようにするためにも、自分自身をより客観的に見ることができる環境、つまりニューヨークに身を置くことは、僕にとって重要なんです。

―次に予定しているプロジェクトは?

9月のNew York Art Book Fairでリリース予定の写真集『Neighborhood Stroll』を、ロンドンの出版社Self Publish, Be Happyと制作中です。本作は、2015年から3年間にわたり、僕が住んでいるブルックリンのグリーンポイントで撮影したスナップショットが軸となる作品です。Instagramで発表するために撮った写真なのですが、本というかたちで発表できることになりとても嬉しいです。Instagramは、ネガティブな側面ばかりが強調される傾向にありますが、うまく活用することで、ひとつの作品が生まれることもあります。今後も、積極的にSNSでも作品を発表していきたいと思っています。

Neighborhood Stroll

Neighborhood Stroll

Neighborhood Stroll

Neighborhood Stroll

デヴィット・ブランドン・ギーティング|David Brandon Geeting
1989生まれ。ニューヨークを拠点に商業写真とファインアートフォトの分野で活動。2011年、スクール・オブ・ビジュアル・アーツ写真学部学士号取得。これまでに刊行した写真集に『Infinity Power』(Pau Wau Publication、2015年)『South Korean Nature Photography』 (自費出版、2016年)『Amusement Park 』(Lodret Vandret、 2017年)がある。2018年にニューヨークのJanet Borden. incにて「Amusement Park」の展示会を開催。コマーシャル・エージェンシーEast Photographic所属。
http://www.dbg.nyc
https://www.instagram.com/davidbrandongeeting/

須々田美和|Miwa Susuda
1995年より渡米。ニューヨーク州立大学博物館学修士課程修了。ジャパン・ソサエティー、アジア・ソサエティー、ブルックリン・ミュージアム、クリスティーズにて研修員として勤務。2006年よりDashwood Booksのマネジャー、Session Pressのディレクターを務める。Visual Study Workshopなどで日本の現代写真について講演を行うほか、国内外のさまざまな写真専門雑誌や書籍に寄稿する。2013年からMack First Book Awardの選考委員を務める。2018年より、オーストラリア、メルボルンのPhotography Studies Collegeのアドバイザーに就任。
https://www.dashwoodbooks.com
http://www.sessionpress.com