青い空を背景にイエローやグリーンの鳥が生み出す鮮やかなコントラストをグラフィカルな視点で切り取った作品「Tokyo Parrots」が初期代表作となり、ヨーロッパを中心としたさまざまなメディアで注目を浴びた。2014年にFoam Talentを受賞するなど、最初に彼の名前を知ったのは海外メディアから、という人も少なくないほど国際的な活躍が特に目覚ましい若手写真家・水谷吉法。2013年と2014年の「LUMIX MEETS BEYOND 2020 BY JAPANESE PHOTOGRAPHERS」に参加し、SNSを起点にメディアで取り上げられ、国際賞などを経て海外で活躍…と現代ならではのキャリアの築き方で知名度をあげた水谷に、自身のキャリアについて聞いた。
インタヴュー・構成=深井佐和子
写真=高橋マナミ
―まず、これまでの活動を振り返り、どこかご自身にとって海外の観客の方々を特に意識するようになったターニングポイントやきっかけはありましたか?
東京綜合写真専門学校の学生だった頃、FlickrやTumblrなどの写真共有サイトで日々撮影した写真をアップしていました。そんな中、作品を見た海外の人からコメントや掲載依頼がくることが多かったため、写真を始めた当初から海外のことを意識していたと思います。また、同時期に、海外の出版社やオンラインマガジンなどに向けて、メールで作品掲載依頼や写真集の企画提案、売り込みも積極的にしていました。多くはスルーされましたが、いくつかの海外の写真サイトやカルチャーサイトでは実際の掲載に繋がりました。スイスのBoa booksという出版社は、持ち込んだ写真集の企画を出版してくれました。
―日本から海外へ活躍の場を拡大していく過程で、自分にとって苦労したことなどはありましたか?
海外の方やメディアからの依頼が徐々に増えてきた頃からIMA galleryの所属作家となり、マネージメントを行っていただいています。そのため特別苦労していた点はありませんが、英語力があれば活動の幅をもっと広げられると思っています。
―ご自身のこれまでを振り返り、海外での展示や活動で特に印象に残っているものはありますか?
2013年に参加した東京とパリでのグループ展「Beyond 2020(当時「LUMIX MEETS JAPANESE PHOTOGRAPHERS 9」)」は、すべてが初めてのことづくしということもあり、とても印象に残っています。学校を卒業後間もない時期にお声がけいただいて参加したのですが、海外での作品展示も、写真のコミッション仕事としても初めての経験でした。LUMIXのカメラを使用して一週間足らずで新作を作ってください、といわれたときはさすがに焦りましたが、いまとなっては良い思い出となっていますし、とても有意義な経験でした。
―海外での活躍が広がるきっかけのひとつとして、ご自身の写真集がとても大きなツールとしての役割を果たしたようにも思います。自分の作品が特に海外で受け入れられた背景や理由をご自身でどのように分析しますか?
「Tokyo Parrots」という作品をキャリアの初期段階で制作できたことも一因だと考えています。この作品がきっかけで「Foam Magazine Talent Call 2014」を受賞し、新聞や雑誌などさまざまなメディアへの作品の露出が増えました。またこの作品が初の写真集として出版されたことで、海外のギャラリーともこの作品を通じて知り合うことができました。これまでに多くの作品を制作してきましたが、いまだに最も問い合わせが多いシリーズのひとつです。それから、インターネットによる影響も大きいと考えています。比較的短期間で作品が世の中に知れわたったことは、明らかにインターネットの効力で、十数年前ならあり得ないスピード、状況だったと思いますし、その意味では運が良かったとも考えています。
Untitled from the series Tokyo Parrots, 2013 © Yoshinori Mizutani Courtesy of IMA gallery
―過去に「Beyond 2020」に参加してみて、どのような機会になりましたか?
上記と重複してしまいますが、とても価値ある経験となりました。グループ展だったため、ほかの作家の方との交流はとても良い刺激となりましたし、また「Beyond 2020」を通じて、作品制作や展示などに関しての作家としての覚悟みたいなものができたと思っています。
―国内と海外のオーディエンスは、どのような点で異なりますか?またご自身の写真プリントのコレクターの方々の傾向は国内と海外でどのように違うのでしょうか?
作品の見方はあまり変わらないように思いますが、海外の方はとても積極的にアプローチしてくると感じています。展示や掲載などの依頼の多くは海外の方からですし、作品購入に限れば9割近くが海外コレクターの方です。いまやオンラインで作品が売れる時代となり、メールやSNSを通じて頻繁に海外から作品への問い合わせがあります。それと比較すると日本国内では、写真作品への関心やマーケットの規模がまだまだ、というのが実感としてあります。
―写真家としての活躍を目指す方々に、オススメのアワードやアートブックフェア等ありましたら教えてください。
私が受賞した「JAPAN PHOTO AWARD」、「LensCulture」、「Foam Talent」では、受賞特典として展示や出版物、メディアでの紹介などがあり、それらのおかげで作品の認知度はとても広がったと思っています。また作品募集をしているウェブサイトはいろいろありますので、海外の写真のオンラインマガジンなどに作品を送ってみるのも良い方法だと思います。
―これからチャレンジしたいことなどがありましたら教えてください。
現在新作を製作中ですが、これまでと比べてコンセプチュアルな作品になると思います。まずはそれを完成させたいと考えています。
水谷吉法|Yoshinori Mizutani
1987年、福井県生まれ、東京在住。日本大学経済学部卒業後に、東京綜合写真専門学校で学ぶ。2013年にJAPAN PHOTO AWARD、2014年にFoam Talentを受賞。IMA galleryでの2回の個展のほか、ロンドン(Webber gallery)、チューリッヒ(Christophe Guye Galerie)、アントワープ(ibasho gallery)、北京(aura gallery)、ミラノ(mc2 gallery)、パリ(パリ日本文化会館)など世界各地で個展を開催。IMA photobooksより『Tokyo Parrots』(2014)、『Colors』(2015)、『YUSURIKA』(2015)、『HANON』(2016)を刊行。
http://www.yoshinori-mizutani.com
2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。