「シュール」「プレイフル」と形容される作品を制作する中村健太は、複数の撮影手法をミックスし、事実と虚構をないまぜにしながら、写真に深い意味付けが与えられることを回避しようとする。そういったある種のイメージとの戯れとも言える行為から何を読み取れるだろうか?今年の「LUMIX MEETS BEYOND 2020 BY JAPANESE PHOTOGRAPHERS #6」に参加した、彼のユニークなイメージとの付き合い方を聞いた。
インタヴュー・構成=酒井瑛作
写真=ダスティン・ティエリー
―今回、「BEYOND 2020」でアムステルダムとパリの展示では「Your Story」と「Offerings」というふたつのシリーズを展示されています。それぞれどんなきっかけから生まれた作品なのでしょうか?
「Your story」は、たまたま親戚のおじさん二人に3Dメガネをかけてもらったら面白くて、そこからどんどんと広がっていきました。「Offerings」は、海外のある雑誌からオファーをもらったときに、「神秘性」というテーマをいただいて撮り下ろすことになり、それがもとになっています。
―どちらの作品も、スナップ的な写真やスタジオで撮影したセットアップの写真など、いくつかの撮影手法を混ぜているのが特徴です。そういった方法にはどんな意図があるのでしょうか?
写真が持つ記録性に関しては、僕の作品ではあまり意識せず、撮った日にちや場所もあまり重要ではありません。そこで何が起こっているかという事実を正確に伝えるよりは、ストリートスナップ、ドキュメンタリー、セットアップなどの手法をミックスした状態で、見てくれる人がどういうふうに感じるか、そのための曖昧さや余白を与えたいと思っています。
―ストリートスナップやドキュメンタリーは事実で、セットアップは虚構というような見方が一般的にありますよね。それらを混ぜることで生まれる余白とはどういったものなのでしょうか?
「Offerings」では架空の儀式をセッティングして撮影しているのですが、儀式って僕たちが生まれる前から存在していて、例えば地域の祭に疑いもなく参加することがありますよね。そこには見えない力だったり、磁場だったり、神様に対する畏敬の念がある。でも、もともとはそれらも人が作ったもので、なら自分が勝手にでっちあげて撮った写真とどう違うんだろうという部分に興味があったんです。
―儀式と写真の間に通ずるものがある、と。
それで、いろいろと自分の中で気になるものを撮ってみました。例えば、体にキスがたくさんある写真は、6歳になったらああいう儀式をしないといけないとか(笑)。料理がお皿に載っている写真も、フレンチのシェフにお供え物をするための料理を作ってもらったんですよ。
こういった写真を100年、200年後に見てくれた人が信じるか、もしくは、深く調べていったら「やっぱり嘘じゃん」って分かったり、そういうことが起こったら面白いだろうなと思って、写真を発表しています。ファウンドフォトとは逆の意味で「ベリードフォト(Buried Photo)」と自分で勝手に名付けているのですが、埋められた写真ですね(笑)。将来、掘り起こしてもらうのを待つような。
―本当か嘘か、この先写真を見る人にとって分からないような部分に余白があるんですね。写真を撮る際、事実というものをどうとらえていますか?
普段、仕事で写真を撮るときには事実というものをずっと意識して撮っているんです。例えば、結婚式の写真や家族の写真を撮影するのですが、そういう写真って事実が最重要じゃないですか。
―みんなの顔がちゃんと写っているかどうか、とか。
そんなことを考えているので、逆に自分の作品の写真ではそこを薄めようとしているのかもしれないです。仕事のときによく思うのは、ガチガチにライティングが決まり過ぎると、その人物らしさが出てこないということ。結婚式の写真でいうと、最近は綺麗でドラマチックなものが多過ぎて、高い技術で撮影をやっているとは思うのですが、そこに写る二人じゃなくても成立するようなものになってしまっています。そういうことに陥らないよう、いかにその人らしさを出すかを考えることが多いんです。
―なるほど。反対に作品の方では、シュールというか、少し笑えるような雰囲気が一貫してあるように思えます。作品として撮る際に、被写体に対して意識していることはありますか?
異物を混ぜちゃうことはよくありますね。これが入ったら面白そうだとか、そういう感覚で撮ってますね。
「LUMIX MEETS BEYOND 2020 BY JAPANESE PHOTOGRAPHERS #6」アムステルダムでの展示風景(撮影:大谷臣史)
―ある種の異化効果のようなものですね。
知り合いのフォトグラファーから、別の惑星のようだといわれたことがあります。パラレルワールドの写真みたいな。それを聞いて、逆にそういうふうに見える感性が素敵だなと思ったんです。
―僕もそう見える部分はありました。でも、中村さんは特に意識しているわけではない?
そこに寄せ過ぎると、異世界という別の正しさに囚われて写真が面白くなくなってしまうと思うんです。
―中村さんにとっての面白さがどういうものか気になります。そういった感覚で何か影響を受けたものはありますか?
漫画家の岡田あーみんが描くぶっ飛んだシュールな感じは大好きで。一般常識や世間的からちょっと離れているような感覚に影響は受けていますね。あとは、ラジオです。伊集院光の空脳アワーというのがあって。空耳アワーってあるじゃないですか。その脳版みたいな。脳が記憶してるんだけど、実際にはなかったこととか、そういうなんだかモヤモヤするけど、気になることが好きですね。
―一般常識や世間からのズレというのは、3Dメガネが入っているなどちょっと不思議なシチュエーションの写真にも垣間見える気がします。中村さんの写真の場合は、そうすることで、日常の機微がより際立って見えてくるように思えました。
なるほど。僕自身、写真で何かを伝えたいということはあまりなく、鑑賞者にとって普段考えない頭を使ってもらう、ということを意識しているんです。例えば、ステートメントもちょっと考え方を変えていて。作品の説明をするというよりも、ルールブック的にとらえています。ステートメントがあることによってイメージが深まるというより、イメージとイメージの間をポンポンと飛んで見ていけるような感じがいいなと思っています。
―それは写真がある正しさに囚われてしまって面白くなくなるという感覚に通ずるものですか?
そうですね。いま、時代として共感が重視される流れにあるじゃないですか。それは、その人がやっていることに共感できなかったらダメなわけですよね。自分の場合は、共生というか、それぞれの場所でそれぞれが生きていて、あなたのやっていることはいいんじゃないかと認め合う。そういうふうにできた方がハッピーになれるんじゃないかと思っていて。そのために写真にはあまり意味を持たせずに、異なる価値観の間の橋渡しのようなことができればいいと思っています。
中村健太|Kenta Nakamura
1981年生まれ。2016年イタリア版『VOGUE』が選ぶベストフォト100、「PHOTO VOGUE」のフォトグラファーベスト30に選出された。3Dメガネを使ったシリーズ「Your story」が注目を浴び、『It’s Nice That』をはじめ、さまざまなメディアで取り上げられた。主な個展に、2017年「Your story」(Nizhny Tagil Museum of Fine Arts 、ロシア)などがある。
http://kentanakamura.com/
2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。