Interview
Takeshi Mita

LUMIX MEETS BEYOND 2020 BY JAPANESE PHOTOGRAPHERS展 作家インタヴュー vol.8
あらゆる出来事が間接的に経験されるいま、われわれはどのように応答するべきか

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三田健志インタヴュー「あらゆる出来事が間接的に経験されるいま、われわれはどのように応答するべきか」 | 三田健志インタヴュー 01

「経験」をテーマに実験的な作品を発表する三田健志。「LUMIX MEETS BEYOND 2020 BY JAPANESE PHOTOGRAPHERS #6」にて撮り下ろした新作では、現代のメディア環境を介して起こりうる、ひとつのパースペクティブでイメージを見てしまう経験を巧みに写し出した。あらゆる出来事がメディアを経て間接的に経験されるいま、そういった状況に対してわれわれはどのように応答するべきか。彼が制作プロセスを通じて考える世界との向き合い方とその展望について聞いた。

インタヴュー・構成=酒井瑛作
写真=ダスティン・ティエリー

―写真を始めたきっかけは何だったのでしょう?

もともと大学4年間は版画を学んでいました。カメラを使って何かを見せるという手法は、もっとあとからです。それまでは、金属の板に薬剤を塗って感光・腐食させて、像を浮かび上がらせるようなことをやっていました。なので、当時は写真をやっているという意識はあまりありませんでしたね。

―その後、なぜカメラを使って写真を撮ろうと思ったんですか?

僕たちの経験とはどういうものであるのか、ということを表現するときに、カメラを利用するメリットを感じたからです。一般的な「写真ってこういうもんだよね」という期待を土台にしてそれをひっくり返すことができる。版画の場合も面白いことはいっぱいあったのですが、写真と比べてそもそも一般性が低いですよね。金属が溶けて像になるといわれても「ん?」みたいな(笑)。

―実際に見てみないとわからないかもしれないですね。

写真であれば誰でも撮ったことがあるし、写真に囲まれて暮らしているから、実感がありますよね。

―見る人にとっては、カメラでの撮影を通して培われたある種の常識のような経験がある。

そうですね。使ったことがあるというのはすごく大きいですね。僕たちの経験は、デジタル以降のコストがかからなくなった状況と深い関連があると思います。僕自身、自分用にはじめて買ったのはデジタルカメラでした。

―三田さんは「経験」にフォーカスを当てていますよね。その点について教えていただけますか。デジタル以降の環境とも関係があるのでしょうか?

経験と体験を分けてお話するのがいいかもしれません。もちろん言葉なので、ここから漏れてくる部分はあると思うのですが、出来事の現場にいて五感で得るもの。それが体験です。

対して経験は、そこに自分がいなくても得られます。とりわけ間接的な経験は、自分以外の体験が、ある程度体系化されたり、知識となって洗練されたり、そういうフィルターがかかったものだと思うんですよね。

それで僕が思うのは、こうした体験と経験が、いまの情報社会の中では不可分なものになってきている、ということです。たぶん活版印刷が登場したときからそうだったのですが、SNSや画像の共有サイトによって、その状況が非常にわかりやすくなったというか。自分たちは何を体験しているのか、経験しているのか。あるいは、直接的に体験しているのか、間接的に経験しているのか。そういう基準が曖昧になってきた。その中で僕たちがどう振る舞うのか、というのがテーマのひとつですね。

―ウェブを見れば間接的な経験に溢れていますよね。例えば、旅行をするなら観光の情報を見ますし。

見ますよね。それで現地に行って、答え合わせみたいな写真ばっかり撮って帰ってくる、みたいな。最近はそういった経験を考えるとき、「想像力」について考えることが手掛かりになるんじゃないかと思いはじめています。

―それはどういうことでしょうか?

いまって僕たちが直接体験していないことに応答しなくてはいけない場面が、とても増えていると思うんです。例えば、先の大戦についてもそうですが、どんどん当事者がいなくなってくる。そこで残ってくるのは責任と証拠です。あるいは、出来事の根拠とされるもの。それこそ1枚の写真とか。そういうものに対して僕たちはどう振る舞うか……そこには、ある程度の無責任さのようなものが、これまでと違った形で発生してくる。

端的にいうと、過剰に1枚の写真を信じてしまうがあまり、その写真にそぐわない現実の方の辻褄を合わせようとしてしまうような。ここ数年のエビデンス主義への批判とも通じる問題だと思うのですが、個別で具体的な世界そのものよりも、残された写真の方が重要になってしまう。そのような社会の中で、現実世界と証拠の齟齬を埋めるように働く想像力が、同じような仕方で今日の私たちの体験と経験を結びつけているのではないかなと。

―当事者ではない人たちにとっては、証拠と現実世界の齟齬を検討することが想像力につながる気がします。今回の「Tracing」ではその齟齬を見せる、というのがゴールになるのでしょうか?

今回の展示のテーマが、不確実な世界にどう応答するかということだったので、こういう応答があり得るというか、そうした応答が抱えている可能性と限界を提示したいなと思っていました。この作品では、1枚の写真がかつてある場所で撮られたものであるということを確かめに実際にその場所へ行く、というようなことをしています。でも、当たり前ですが、波の姿は一回性のものなので、写真と同じかどうかは確かめようがない。合っているかどうかはもう信念の問題でしかなくて。おまけに、照合すべき対象は写真の裏に隠れて鑑賞者からは見えなくなってしまっている。ここに、かつてと今をひとつのパースペクティブで見ようとする時に起こりうる事態が比喩として現れてくる。

Tracing, 2018

Tracing, 2018

Tracing, 2018


―「過剰に1枚の写真を信じてしまう」状態ですね。

その通りです。さらに、1点1点には全体の整合性を破綻させるような細部がしかけられています。例えば、作品は実際の風景を背景にして、画面の中心に写真を置いて撮っているように見えますが、なかには周囲の背景に見える方が写真で、真ん中が窓状に切り抜かれているものもあるんですよ。ここでは、写真を見て正しく理解することができるという期待を、どれだけ裏切れるか示そうとしているんです。

―素朴に見ることが信じられなくなってきますね。写真というビジュアル表現を使っているからこそ、当然「見る」という行為に限定されるとは思うのですが、見ることで間接的に経験が達成されること自体に対して、三田さんはどう考えていますか?

いまの社会は視覚の経験が優位なので、それを反映して視覚的な作品をたくさん作っているのですが、もちろん触感や香りから何かを思い出したりと、経験は五感すべてから成っているはずです。以前の「等高線を登る」という作品では、視覚のほかに、聴覚、触覚、味覚や嗅覚に訴えるものを用いて、僕たちの経験に関する素朴な感覚の寄せ集めとして、冒険家の旅を束ねる試みをしているんです。

「等高線を登る」2016

「等高線を登る」2016

「等高線を登る」2016

「等高線を登る」2016


―経験について掘り下げていくと、やはり視覚以外の話にもつながってきますよね。

そうですね。ただ、どこか視覚優位の価値観をまだ自分の中に感じています。視覚以外が音痴になり過ぎているので、どうにかしたいなと。来年の3月から海外に行くのですが、そこでは身体を異なる環境に置いて現れてくる、視覚以外の経験も掘り下げてみたいと思っています。

―実際に自分の身を置く。冒頭の経験と体験という整理だと、体験ということになりますね。

そうですね、体験です。いままで僕は、経験も体験も不可分だし、どっちがいいといっていてもしょうがないから、ないまぜになった世界の中をどうポジティブに生きてくかを考えてきましたが、そういいながらも、ここ数年は間接的な経験ばっかりになっているんですよ。なので、今度は体験の側に身を置いて、間接的な経験の方を眺めてみたい。

ハワイに行くのですが、そこがかなり適切な場所に思えていて。僕にはハワイって舞台の書割のように見えるんです。よく名前を聞くけれど、実際にどういう場所かはわからない。

―そういう見方でハワイを見るのは面白いですね。

徹底的に観光地化されているから、与えられた情報から表面だけが見えている。すごく間接的な場所です。でもその書割の裏には当然生活があるわけですから、そこに行って、今度は日本がどう見えるかを確かめてみたくて。

―具体的にはどんなことをするのでしょうか?

いろいろ考えていますが、例えば、ハワイの日系移民の人たちには、もう日本の記憶はないわけです。下まで行くと8世くらいになっていて、日本語を喋れないくらい。だけど、話をうかがってみると、かつての出来事はそれぞれの家庭に少しずつ伝わっていて、体験が経験として洗練されてきていることがわかる。特に戦中は日系であることで難しい振る舞いを強いられてきたわけですが、そうした出来事を理解するために個人の体験を消費しようとするのではなくて、もっと素朴に、一人の人間そのものに光をあてたリサーチをしてみたいんです。その上で、日本と同様に当事者が不在となりつつあるかつての出来事が、歴史的資料とは異なる角度から見えてくるといいなと思っています。

「LUMIX MEETS BEYOND 2020 BY JAPANESE PHOTOGRAPHERS #6」アムステルダムでの展示風景(撮影:大谷臣史)

「LUMIX MEETS BEYOND 2020 BY JAPANESE PHOTOGRAPHERS #6」アムステルダムでの展示風景(撮影:大谷臣史)

三田健志|Takeshi Mita
1979年広島県生まれの美術家。2004年多摩美術大学大学院美術研究科修了。「経験」を巡る思考を主軸とした活動を展開。社会に遍在する情報を独特な仕方で束ねる作風で知られる。主な受賞にTOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD グランプリ(2014年)、キヤノン写真新世紀優秀賞(2015年)、JAPAN PHOTO AWARD(2016年)などがあるほか、2018年度には五島記念文化賞(美術部門)を受賞。近年の主な個展に「Bundle of LIFE」(2017年、京都、Media shop gallery)、「The fictitious」(2017年、中国、Ying Gallery)がある。
https://mita-takeshi.tumblr.com/