ハンブルク美術工芸博物館の展覧会シリーズ「写真の新しい秩序」の一貫として、デュッセルドルフを拠点とする写真家カティア・ストゥーケ&オリバー・ジーバーの作品と、彼らが選んだ同館の写真コレクションで構成した展覧会「Reconsidering Photography: Japanese Lesson」が開催中だ。ジーバーは、パンクスやゴスの若者のポートレイトを撮り続けた『Imaginary Club』で「Paris Photo Aperture Photobook Award 2014」を受賞し、高く評価されている。ストゥーケも社会現象やアスリートのポートレイト写真など、独自の作品を展開している、二人での共同制作も多く、90年代からは幾度と日本を訪れ、近年では日本の政治的なランドスケープをとらえた作品にも取り組んでいる。ハンブルクの展覧会に彼らを訪ね、彼らの重要なテーマのひとつである“日本”についてインタヴューした。
文=浦江由美子
―2005年から日本での撮影をスタートし、2011年以降に「Japanese Lesson」というシリーズとして再編集し、映像や写真集を発表されています。そもそも、日本に興味を持ったきっかけは何だったのでしょう?
オリバー・ジーバー(以下、ジーバー): 僕の生まれ育ったデュッセルドルフは日系企業が多く、日本からの駐在員とその家族も住んでいたので、ほかのドイツの街に比べると、小さい頃から日本文化は身近なものでした。合気道を習っていたけれど、日本の武道という認識はなくて、範士の先生が日本人だと知らなかったくらいです。
自分たちが育っていく中で、欧米の文化と同じくらい日本のポップミュージックや、コスプレといったサブカルチャーにも触れてきました。奨学金をもらって、2006年に日本を訪れて以来、だんだんと深い部分、つまり歴史的な部分に、自然と興味を持つようになってきたのです。
―二人は共同制作による作品を発表されているほか、写真展のキュレーションやレクチャーなど、いろいろなことに携わっていますよね。
ジーバー:自分のプロジェクトだけに集中している写真家もいますが、僕らは大きなテーマやメディアとしての写真集、そしてほかの写真家の視点や観点にもすごく関心があります。写真は非常に大きな可能性を秘めているメディアです。もちろん自分の写真集制作も重要ですし、単純にいろいろなことに興味があるのです。
―この美術館での展示もユニークですね。
カティア・ストゥーケ(以下、ストゥーケ):写真とニューメディア部門のキュレター、エステア・レルフスに美術館の日本写真コレクションと、私たちの作品を一緒に展示することをオファーされました。ハンブルク美術工芸博物館では19世紀からの日本写真を約75,000点収集しています。その中から作品を選ぶためにコレクションを閲覧していると、1960年代に雑誌『Stern(シュテルン)』のために日本を撮影していた写真家ロバート・レーベックの作品に出会いました。彼は1961年、日本初の原発やデモを取材、撮影していたのです。ちょうど、お話をいただいた頃の私たちの関心ごとが、日本のプロテスト(抗議)運動だったので、レーベックの写真も多く展示に加えました。
―最近は日本のアクティビストのポートレイトなども撮影していますよね。
ストゥーケ:2011年の東日本大震災以降、デュッセルドルフで震災関連の募金や署名活動をしているうちに、現地の日本人の友人たちと共通の関心や新たな関係性が生まれたと思います。あの頃、ヨーロッパでは日本人はデモや抗議をしないと噂になっていたので、そんなことはないと伝えたくて調べ始めました。
それから、日本で反原発デモ、LGBTへの人権を訴える東京レインボープライドや、対在日韓国人へのヘイトスピーチデモにも行きました。ヘイトスピーチでは、私たち外国人にはただデモを見ているだけでは、日本人の誰がナショナリストなのか、わかりません。ただ、英語表示を入れるなど、誰が反対しているのかを外国人にも知ってもらうための工夫がされていました。いまでは日本の主要なアクティビストの存在も認識しています。60、70年代に起きた過去の闘争などをリサーチしているうちに、1920年代にパリ郊外のサン・ドニで演説をし、日本に戻り殺害されたアナキストの大杉栄の存在も知りました。こうした資料や文献も、今回の展示ではブースを設けて紹介しています。歴史を遡り、日本でも常に何かが起きているということを表現したかったのです。
カティア・ストューケ
―最近では渋谷や銀座などの中心街ではなく、誰も行かないような場所でも撮影していますよね。
ジーバー:初めて大阪を訪れたとき、何代も同じ商売をしている人がいたり、デュッセルドルフの駅前とどこか似ているような気がしました。最初はすべてが新鮮で珍しいけれど、もっとディープな日本を見たいという好奇心がどんどん湧いてきて、普通の人なら行かない釜ヶ崎などの場所に興味が移っていきました。そこから日雇い労働者の歴史を知り、東京では、箕輪や山谷でも撮影をしています。昨年は1985年のドキュメンタリー映画「山谷」もデュセルドルフの映画館で上映しました。
オリバー・ジーバー
―展示では西成のビデオ作品も紹介していますね。
ストゥーケ:「Walking Meditation」は西成を毎日ひたすら何時間も歩き、街角の風景をとらえた作品です。私たちが訪れていた短い間だけでも、商店街の変化や、土地が買収されてビルが建つなどの変化がありました。街がどのように変わって行くかにもとても関心があります。日本は島国だけれど、さまざまな共通認識で皆が気持ちの部分ではつながっていますよね。写真雑誌も多様で刺激的です。ロシアやパリでも日本人と知り合うことが多く、国外からの日本という視点に触れる機会があります。日本は私たちのアイデンティティへの影響がとても大きいのです。
「JAPANESE LESSON: Nishinari」© Katja Stuke/Oliver Sieber
タイトル | Katja Stuke/Oliver Sieber「Reconsidering Photography: Japanese Lesson」 |
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会期 | 2018年12月7日(金)〜2019年5月26日(日) |
会場 | ハンブルグ美術工芸博物館(ドイツ) |
時間 | 10:00〜18:00(木曜は10:00〜21:00) |
休館日 | 月曜、5月1日(水) |
料金 | 【一般】12ユーロ【大学生】8ユーロ【18歳以下】無料 |
URL | https://www.mkg-hamburg.de/en/exhibitions/current/katja-stuke-oliver-sieber.html |
カティア・ストューケ|Katja Stuke
オリバー・ジーバー|Oliver Sieber
デュッセルドルフを拠点に、1999年よりコラボレーションBöhmKobayashiを継続。トロント、大阪、ロッテルダム、パリ、東京でレジデンスプログラムに参加。2010年より、アート写真へのアンチテーゼを掲げた「ANT!FOTO」の展示、活動をスタート。2014年にはシカゴ現代写真美術館のサポートによりシカゴ・ゲーテ・インスティチュート、サラエボ・ゲーテ・インスティチュートで「You and Me」展のキュレーションを行う。以来、世界中で展示、レクチャーやワークショップを行う。 ベッヒャー・スクール後のデュッセルドルフの写真シーンを大きく変え、精力的に活動するデュオ。
http://ks68.de/about/
http://oliversieber.de/
2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。