11 June 2019

Interview
Kotori Kawashima

川島小鳥インタヴュー
被写体と“ぐるん”となる感覚からポートレイトが生まれる

AREA

東京都

11 June 2019

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川島小鳥インタヴュー「被写体と“ぐるん”となる感覚からポートレイトが生まれる」 | 川島小鳥

今年、熱海で写真家の川島小鳥と画家の小橋陽介の二人展が開催された。「飛びます」と題されたこの展示の会場となったのは、建設会社ビルの6階。普段は使われていないビルの空間を、自分たちでDIYしながら作り込んだおもちゃ箱のような展覧会には、東京近郊からも多くの人たちが訪れた。廃墟のような場所を舞台にしたからこそ、作品は自由な発想で飾り付けられ、絵と写真は生き生きと見る者に語りかける。ユニークな写真体験を提示する一方で、自ら編集デザイン、発行までを手がけた作品集もまた遊び心にあふれている。写真ファンのみならず、多くの支持を集める川島がこの展覧会に込めた想いと、写真家としての現在を聞く。

文=IMA
写真=萬砂圭貴

―いまは使われていないビルの6階を自分たちで飾り付けしていて、とても川島さんらしい展示でした。この場所で二人展をやるきっかけをまず教えてもらえますか?

小橋くんとは以前、梅佳代さんら8人でやっていたアーティストユニット「ハジメテン」としては、一緒に展示をやったことはありましたが、二人だけで何かをやったことはなかったんです。ふと小橋くんと何かをやりたいと思ったのが最初で、同じ時期に一昨年の冬から熱海に部屋を借り始めました。その頃に今回一緒に企画をしてくれた熱海でお店をやっている「論LONESOME寒(ロンサム)」の二人にも出会って、彼らがこの場所で去年の夏に音楽イベントをやって、すごく楽しかったという話を聞いて、そういう場所があるなら見てみたいと。実際に見せてもらったらすごく面白い場所で。ここで小橋くんと展示をやりたいというイメージがすぐ湧いて、決めました。

―「飛びます」という今回の展示テーマも、この場所からインスピレーションを受けたんですか?

そうですね。タイトルは小橋くんが決めたんです。熱海でやると決めたので、小橋くんも熱海に朝日の絵とかを描きに来たり。借りている部屋からも朝日が見えるので、僕の朝日の写真も熱海で撮りました。展示全体を熱海っぽいものや、熱海で撮った写真を中心にまとめていきました。

―小橋さんが川島さんの写真からインスピレーションを得て、絵を描くこともあったんですか?

ありましたね。

展示風景

―川島さんも逆に、絵からインスピレーションを受けて写真を撮りましたか?

それはなかったですね。小橋くんの作品は昔からすごく好きなんですけれど、ちゃんとした本になったことがないので、今回は最初の段階から本に2人の作品をまとめたようという話しをしていました。これまで10年以上の小橋くんの作品データを全部送ってもらって、悩みながら熱海の場所に合いそうで僕が好きな作品を独断で選んでいきましたが、結果的に昔の作品はほとんど選びませんでした。

―今回はホワイトキューブじゃないからこその空間の面白さがありますが、川島さんは以前から展覧会の見せ方にはオリジナリティがありますよね。

僕は本を作るのが1番好きだったのですが、展示は後から好きになりました。空間に対してどういう風に見せるかとか、こういう空間だからこそできることがあるということを考えるのが楽しいですね。今回だったら熱海のような少し来づらい場所に、時間をかけて来てもらう。しかも建設会社の6階って想像がつかないと思うのですが、迷いながらこの場所に来て、見てもらう体験が絶対に面白いんじゃないかなと思って。でもこう展示しようっていうのは、事前には決められなかったんです。ここは窓が多くて、来てみないとわからなかったので。

―熱海の少し寂れた昭和感にも合っていました。展示の見せ方も川島さんが率先して決めたんですか?

アイディアはあったのですが、小橋くんも展示にこだわりがあるから、まず僕がごちゃごちゃ加えて、小橋くんは引く係で、二人で相談しながら決めていきました。

―仕事の撮影で撮ったというよりは、プライベートで撮り溜めた写真ですか?

僕の写真はほとんど熱海で撮ったものですね。熱海の部屋に滞在中、散歩や図書館、神社に行くときなどに撮った風景や、熱海にいるというと遊びに来てくれる人もいるので、そのときに撮ったりとか。水着になっている子は、受付をやってくれている女の子だったり。本を作るためではなく、自然に撮り溜めていきましたね。

川島小鳥


―川島さんにはポートレイトのイメージが強いですし、今回もいろんな人を撮っていますよね。俳優の人も一般の人も撮っていますが、被写体によって撮り方や撮るときの意識の違いってありますか?

ありますね。俳優さんと、普通の人とぱきっとわかれているのではなく、「人」によって違います。自然にその人に合わせていくと、結局一人一人全部違うかもしれません。

―それは撮り方の違いなのか、気持ちの違いなのでしょうか。例えば太賀さんだったら、撮影する前提で来るから、川島さんの中でも撮る意識が強いですよね。熱海の友だちとかは、ふとした瞬間とかに撮っていることもあるかもしれません。そのふたつの間には撮るときの違いはないのでしょうか?

根本は全然違わないというか、変わっていない気はします。

―被写体の選び方も川島さんらしさが出ていますが、どんなときにこの人を撮りたいって思うんですか?

本当に感覚ですね。一目惚れのように、パッと見て撮らせてください!というような感じで。

―そこは写真と直結しているんですね。

滅多にないのですが、直結していますね。ときめきとイコールみたいな。太賀くんとかは一緒にいるときずっとときめいています。

―太賀さんは撮られることが仕事でも、川島さんの前では仕事では見せないような表情を見せているから、それが川島さんの引き出す力なんですよね。こういう瞬間を引き出そうとか、自分では、意識してないんですよね?

ないですね、そのときにいいなと思った瞬間を撮っています。撮影のときは行き当たりばったりですね。


―一人の人を継続して撮ったりもしていますよね。

ずーっと撮るか、お互い何も知らない最初の瞬間だけ、撮る場合もあります。仲良くなる前を撮るのは僕も好きですし、そこを越えても、撮り続ける人もいるますし。太賀くんは、毎回初めましての恥じらいがあるので、それはすごいなと思います。皆年齢もあるのかもしれないけれど、毎回会うたびに心境が変わっていたりして、仲の良い心地よさもありつつ変わっているから、撮りたくなるんです。

―今回は熱海という場所を感じる風景写真も効いています。風景を撮るときのまなざしと、人物を撮るときのまなざしに違いはありますか?

アイドルのみなさんを撮るときは、半分自分がその子になっているそういう気がしています。自分がその子を二項対立で撮っているというよりも、自分の意識が“ぐるん”って向こうにいっているというか。ひとつになるというと語弊があるけれど。例えば太賀くんと朝日の写真も、太賀くんが朝日を見ているような意識になる。撮っている自分が、風景を撮っているときにはなくなる感じなんです。

川島小鳥


―風景を撮っているときは自分がなくなって、被写体を撮るときには自分がその人になっているということですか?

そんな感じです。自分と被写体の関係性や距離感にも寄ると思うのですが、願わくば“ぐるん”としたいですね。私とあなたがひとつになるというか。その人になりたい願望があるのかもしれない。

川島小鳥

―その人になりたいという気持ちで撮っているから、こう見せたい、こう撮りたいという撮影者の意図があまり感じられなくて、見る人によっていろんな見方ができる写真なのかもしれません。写真を始めた頃からそういう感覚なんですか?

そうですね。特性かもしれない。この間、撮影したあのちゃんというアイドルの子と話していたんですが、撮影のとき自分があのちゃんになっていて、あのちゃんの嫌がることは1ミリもしたくないと思っていて。後から考えたらめっちゃくちゃ愛がすごい人みたいな(笑)。

―依頼されて撮っているのに、そこまで思えるのがすごいですね。

人を撮影することは、いまでもまだ勉強中で、悩みつつなんですけど、その人の貴重な時間や瞬間をもらっているというか、共有しているということだと思っています。被写体に出会うタイミングのようなものが、僕にとってすごく重要で、感じるものが毎回あります。

―写真集のお話もお聞きしたいのですが、今回はデザインや印刷所とのやりとり、販売まで全部ご自身でされたんですよね?

ロンサムの2人と、3人でやりました。今回は小橋くんとの作品集なので、どうなるかわからないし、それを舵取りできるのは自分しかいないだろうから、自分でやりたいと素直に思いました。デザイン作業では、僕はPhotoshopしか使えないので、友だちがInDesignに落とし込んでくれました。

作品集『飛びます』

作品集『飛びます』

作品集『飛びます』

作品集『飛びます』


―本にも小さなこだわりがたくさん詰まっていますね。そういう部分は、沼田さんのところでアシスタントをしていた影響もあるんでしょうか?

沼田さんによく招集されて、袋詰め作業をやったり大変でしたが、沼田さんの気持ちがだんだんわかってきましたね(笑)。今回も5、6人でここの和室で写真集を両面テープで貼る作業をひたすらやっていて……。セロファンとか色々な素材を使っているのですが、印刷所から納品された状態から5、6工程くらい踏まえないと完成しないんです。大変ですが自費出版だからできる部分ですよね。

―小橋さんと長い付き合いだと思うのですが、彼の絵のどういう部分に惹かれますか?

単純にすごいなって思います。写真は何か写すものが必要だけれど、絵は「無」から作る作業だから、絵を描く人をそもそもすごく尊敬しているということもあります。今回は彼の絵の中でも、特に好きな絵をピックアップしました。100枚くらい壷を描いた絵のシリーズがあるのですが、以前に大阪の国立国際美術館で展示していたものを見てすごく感動して。今回絶対使いたいし、自分の写真と合わせて見せたい!と思って、写真も同じ大きさでパネル貼りして、小橋くんの絵と混ぜて構成しました。

写真左が小橋の壷の絵を、川島の写真と組み合わせた展示インスタレーション。

写真左が小橋の壷の絵を、川島の写真と組み合わせた展示インスタレーション。


―小橋さんの絵はひとつひとつは日常的なモチーフですが、こういう組み合わせをこう絵に落とし込むとか、普通は思いつかないような自由な発想がありますよね。DMのイルカの絵は、この場所から見えるイルカの絵に関係しているんですか?

実は絵は先に描いていたんですが、この場所とシンクロしましたね。

―すごい偶然ですね!今回の展示では写真と絵に親和性があって、お互いの作品がぶつからず、魅力を引き出し合ってくれていますよね。

言葉にできないって思いながらずっと喋っていましたが、こういう感じのものがやりたいと思っても、言葉にならないようなことってありますよね。それを作品にしたいと思っていたとして、写真って現実に基づいて作るものだから、どうしてもぼやっと言葉にできないような気持ちを形にするのが難しい。だからこそ予想外なものができるという面白さもあるんですが。でも絵は本当にそれをビジョンにすることだから、すごく憧れや尊敬の気持ちがあるんです。

だから今回、写真をわたしてその上に絵を描いてもらうというのは1枚もやっていません。向き合って作るのではなく、同じ方向を向いて、ひとつの展示のために進んでいったから、そう感じるのかもしれませんね。

タイトル

「飛びます」

会期

2019年6月4日(火)~6月23日(日)

会場

UTRECHT(東京都)

時間

12:00~20:00(16日は17:00まで)

休廊日

月曜

URL

https://utrecht.jp/blogs/news/tobimasu

小橋陽介と川島小鳥

川島小鳥|Kotori Kawashima
1980年生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科卒業後、沼田元氣に師事。第42回講談社出版文化賞写真賞 、第40回木村伊兵衛写真賞を受賞。写真集に『BABY BABY』(2007)、『未来ちゃん』(2011)、『明星』(2014)、谷川俊太郎との共著『おやすみ神たち』(2014)、『ファーストアルバム』(2016)、『20歳の頃』(2016)、『道』(2017)、台南ガイドブック『愛の台南』(2017)、『つきのひかり あいのきざし』(2018)がある。

■川島小鳥のIMAGRAPHY(オンラインギャラリー)はこちら

2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。

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