Interview
Charles Fréger

シャルル・フレジェインタヴュー
ユーモラスな仮装の肖像が描き出す現代の世界地図

1 November 2019

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シャルル・フレジェインタヴュー「ユーモラスな仮装の肖像が描き出す現代の世界地図」 | シャルル・フレジェ

世界各地の民族・部族が現在も大切に守っている伝統的な民族衣装や儀式用コスチューム。それを纏った姿を撮影し、世界中を旅する写真家シャルル・フレジェ。ここ日本でも、なまはげで知られる秋田や鹿児島など、さまざまな場所で撮影を行い、写真集『YOKAI NO SHIMA』では大きな話題を呼んだ。そんな彼が手掛けた最新作『CIMARRON』の大型インスタレーションが、浅間国際写真フェスティバルにて展示されている。民族の移動を繰り返すことで作り上げられた現在の世界地図。歴史の証人としてその地にたたずむ仮装した人々の肖像の連なりが、その果てしない移動の歴史を描き出す、そのオリジナリティ溢れる作風について話を聞いた。

文=深井佐和子
写真=清水はるみ

―「CIMARRON」という言葉に初めて触れた観客がほとんどだと思います。

そうですよね、知らない人が大半でしょう。これはスペイン語で、奴隷貿易でアフリカから拉致されたのち、散らばるように世界各地に売られた場所から、さらに逃亡した黒人奴隷を指しています。特にアメリカ大陸にわたった人々が多数いたため、南北アメリカ大陸にはいまも彼らの子孫がおり、その人たちが祝祭の際に身につけている衣装を撮影しているんです。

―もう何世代も経っていますが、彼らにはそのアイデンティティが残っているんですね。

彼らのたどり着いた地はアメリカ、メキシコ、ペルーなど北米から南米に大きくまたがっています。そこの土着文化と、彼らの祖先がもたらしたアフリカ文化が時間をかけて融合し、独自の美的感覚や文化を築き上げた。そんな彼らの自分たちの祖先を祭る衣装は実にさまざまです。ビニールなどの新しい素材を取り入れたカラフルな物や、そのローカルのデザインを取り入れたりと、華やかな変化を遂げてきているんです。

「CIMARRON」より

「CIMARRON」より

「CIMARRON」より

「CIMARRON」より

「CIMARRON」より


―彼らが祝祭を継承し、着飾ることで表現したいものは何なのでしょうか?

やはり植民地ならではの混在したメッセージがまずあります。植民地主義への反発や、民族の誇り、神への祈り。生きることへの賛歌もあり、もちろん悪魔や死など、呪術的な要素も多々あるでしょう。

―でもなぜか、コミカルな部分を感じてしまうのは、あなたの作風といえるのでしょうか?

実際皮肉なところやユーモラスなところがあるとも言えるでしょうね。白い肌をわざと黒く塗ったり、自分たちを白く塗ったりすることで支配する側とされる側を大袈裟に強調するなどシアトリカルな要素もあると言えるでしょう。サーカスティックなアプローチは、こういった儀式の中には常に感じられるところです。

浅間国際写真フェスティバルでのインスタレーション風景(撮影:宇田川直寛)

浅間国際写真フェスティバルでのインスタレーション風景(撮影:宇田川直寛)


―これまでは、ある場所とそこに従来生息してきた民族、そしてコミュニティの中に伝わる伝統の表出としての衣装を被写体にすることが主でしたが、今回はアフリカから世界各地に散らばった民族の足取りを辿るというか、結果的に民族学的視点から壮大なアプローチをされたことになりましたね。

そうなんです。知れば知るほど面白く、また仮装した姿をタイポロジー的に見ていくと興味深い点がいろいろありました。彼らは極めてハイブリッド。それがいまの世界の象徴でもあるのです。複数大陸の人種だけではなく宗教も何もかも混ざって、ねじれた結果が現在の姿であり、その複雑性を受けいれ、誇りに思い祝福すること。決して外的な強制力で受け継いでいるのではなく、自分たちでそのような伝統を残すというのはとてもポジティブなエネルギーですよね。つまるところコミュニティとは、ある人たちが別のグループを見ることで、自分たちの伝統とは、文化とは何かと見つめ、とらえ直すことなのだと気付きました。伝統や、ある文化というものは突然変異的に誕生したりはしないものです。長い時間をかけ、ゆっくりと醸成されていくものなのだと思います。

シャルル・フレジェ

―儀礼の式というのはコミュニティの核の部分ですし、撮影するという行為を行うのには、コミュニティに深く入り込まなくてはいけないのではないかと想像します。それにかかる時間を考えると、とても作品数が多いことに驚かされます。

実は現地での撮影にはそれほど長い時間をかけないんです。いわゆるコミュニティに入り込む、という撮影方法とはちょっと違いますね。もう少し客観性というか、距離を保つようにしています。

―CIMARRONの人々を知るきっかけはなんだったのですか?

偶然リサーチをしている途中で見つけたんです。アシスタントを使って世界中の部族について常にリサーチを行っているんですよ。

―ではこの分野のエキスパートというわけですね。

いえいえ、とんでもない。僕は自分のことを民族学者だというつもりは全くないんです。ですが写真家として、世界の民族について僕なりの視点を持って分析しています。

―ではこの次に向かうのはどこなのでしょう?

次のプロジェクトはインドになります。細かくは秘密なのですが、すでに取り組んでいて、今年撮影することになると思います。楽しみにしていてください。

タイトル

「浅間国際フォトフェスティバル 2019 PHOTO MIYOTA」

会期

2019年9月14日(土)~11月10日(日)

会場

御代田写真美術館予定地|MMoP (旧メルシャン軽井沢美術館)周辺エリア(長野県)

時間

10:00~17:00(最終入場は閉場の30分前まで)

入場料

【一般(当日)】1,500円(現地販売のみ)【中学生以下】無料
*一部無料エリアあり/メイン会場となるMMoP内のエキシビジョン棟、ラウンジ棟1F、美術館は当日に限り何回でも再入場可

URL

https://asamaphotofes.jp/

シャルル・フレジェ|Charles Fréger
1975年、フランス、ブールジュ生まれ。フランス、ルーアン在住。ルーアン美術学院にて芸術を専攻。写真家として初期より一貫して肖像写真を追求し、スポーツ選手や学生、兵士などの社会的集団を、詩的かつ人類学的な視点から撮影している。ヨーロッパおよび、世界各国のギャラリーで展覧会を多数開催、アルル国際写真祭にも出品されている。日本へと旅し、相撲部屋の若手の相撲取りと訓練生を撮影した一連の作品は、2005年に横浜美術館での個展「RIKISHI」で展示された。近年の主な個展に「WILDERMANN」(国際先史遺跡センター、レ・ゼイジー=ド=タヤック、2015年/バスク博物館、バイヨンヌ、2014年/MEM、東京、2014年)、ブルターニュに伝わるレースの被り物を着けた女性たちを撮影した「BRETONNES」(レ・シャン・リーブル、レンヌ、2015年/MEM、東京、2016年)、「YÔKAÏNOSHIMA」(銀座メゾンエルメス フォーラム、2016年/アルル国際写真祭、フランス、2016年)。今年、写真集『CIMARRON』を青幻舎から刊行した。