PHOTO MIYOTA 2019

浅間国際フォトフェスティバルレポート「イメージの遊び方、その複数化」

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長野県

5 November 2019

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浅間国際フォトフェスティバルレポート「イメージの遊び方、その複数化」 | ネルホル

ネルホル

イメージの可塑性を愉しんでいる――。「浅間国際フォトフェスティバル 2019 PHOTO MIYOTA」(以下「PHOTO MIYOTA」)の印象を一言でいえば、そう表現できる。アーティストが、オーガナイザーが、そしてこのフェスティバルに関わった御代田の人々が、それぞれの仕方で「イメージを使い倒そう」としていた。イメージには、あるいは写真には、どのような使い方がありうるのか。PHOTO MIYOTAは、この問いに対するいくつかの具体的な答えを示していた。

文=若山満大

PHOTO MIYOTAは今年9月14日(土)に開幕。会期は折り返し地点を過ぎた。メイン会場となるMMoP(御代田写真美術館予定地)を中心に、軽井沢町(PHOTO KARUIZAWA)、群馬県長野原町(PHOTO KITAKARUIZAWA)の3エリアで作品が展示されている。2018年8月にプレイベントとして開催された同名のフェスティバルをさらに広域展開、ボリュームアップさせるかたちでの開催となった。今回のテーマは「TRANSFORM イメージの化学」。写真、映像、インスタレーション、AIによる最新の映像解析テクノロジー(Edge Analytics Appliance)を応用したインタラクティブな展示など、多彩なコンテンツが用意された。

高原の空気は澄んでいて、空が広い。10月の平野部はまだまだ残暑といった感じだが、御代田は真昼でも日差しが心地よいくらいだった。エドワード・マイブリッジの連続写真を横目にエントランスから会場内へ。ネルホルの巨大な6枚のポートレイトが最初に目に飛び込んでくる。その周りには写真を撮る人々。気持ちはわかる。圧倒的なインパクト。そして同時に先に進みたくなる。なるほど、こうやって作品を見せていくのか。この先に待っているさまざまな展示のギミックに期待が高まっていく。

ネルホルのポートレイトのあいだには入り口があり、中ではシャルル・フレジェの作品が展示されている。広々とした空間に、大小さまざまな直方体が所狭しと積み上がっている。その面のところどころに作品がプリントされている。このシリーズに冠された「CIMARRON」は元々、アメリカ大陸の逃亡奴隷を意味する言葉だ。およそ400年になんなんとする離散と定着、そして混交の歴史は、フレジェの写真によってビジュアライズされる。儀礼の場で身にまとう衣装や化粧は、他でもない「彼らの」文化であると同時に、何世代にも渡って重ねられてきた文化のミルフィーユでもある。海を越えて、文化の違いを越えて、その場その時のアイデアが決して交わらないはずの要素をミックスしてきたわけだ。それは不純であるがゆえにユニーク、混ざり合っているがゆえに「ここでしかありえない」形態となって現れる。極彩色の、巨大な写真群。その一枚一枚が持っている圧倒的な情報量、歴史の重層性、表現のバリエーション。気が遠くなるような、おもしろさ。写真集では決して味わえない、この空間だからこそできる「写真体験」があった。

シャルル・フレジェ

シャルル・フレジェ


濃厚な体験にちょっとつかれたら、カフェで休むことができる。フレジェの展示から少し歩いた先にあるIMA Cafeでは、リーズナブルな価格でおいしいランチやコーヒーを楽しむことができる。晴れていたらテラス席をおすすめしたい。心地よい風とコーヒーの香りに包まれながら、ほっと一息。これもPHOTO MIYOTAの楽しみ方のひとつだ。会場内には浅間山をのぞめる絶景ポイントも用意されている。ウィージーの「Coney Island」を大胆にアレンジした記念撮影スポットからは、雄大な浅間山の稜線もカメラに収めることができる。

ウィージー

ウィージー


PHOTO MIYOTAは、フランスの「Festival Photo La Gacilly」やスイスの「Festival Images Vevey」など、大規模な屋外型フォトフェスティバルの一群に連なる企画と言える。その目指すところは、アートフォトの見え方/見せ方の選択肢を増やすことにあるのだろう。メイン会場は、建築家ジャン・ミシェル・ヴィルモットが手がけた美術館の周囲を回遊するような動線になっている。作品の過半数は屋外に展示されており、およそ2ヶ月の会期を耐えられる素材にプリントされ、展示されている。石畳や芝生、ウッドチップを踏みながら歩く中に、あるいは丁寧に手入れされた蔦や木立のあいだに、作品がある。展覧会という形式において、写真は必ずしも額装されている必要はないし、注意深く調整されたスポットライトに照らされている必要もない。それは写真展示における「正解のひとつ」に過ぎない。巨大なターポリンや極薄のポリエステル生地に印刷され、時に湾曲したり揺れ動いたりしながら、直射日光にさらされている写真を「作品」として鑑賞することに抵抗を感じる人もいるだろう。しかし私たちは、写真をそう過保護に扱うべきではないのかもしれない。美術館に最適化された写真のありよう(Picture)だけでなく、さまざまな状態で提示される写真(Image)を愉しむモードを獲得する時、私たちの鑑賞はより複雑化し、より豊かな知的体験へと開かれるはずだからだ。出品したアーティスト、そしてこのフェスティバルのオーガナイザーやディレクターたちが目指すところは、おそらくここにある。彼らはともに、写真という体験を複数化することに賭けている。

ポスチャリング

トーマス・ソヴァン

アレハンドラ・カルレス=トルラ


PHOTO MIYOTAの展覧会は、エドワード・マイブリッジに始まる。「動く静止画」という可能性を提示した彼の作品は、ヴィヴィアン・サッセンやシェルテンス&アベネスの作品とつながり、またそれらをもつないでいく。個々のサインをシークエンスとして認識する生理。見慣れたものをもう一度見直すこと。系譜として、あるいは展開として、それぞれの作品が関係付けられていく。三保谷将史、横田大輔、アンナ・アトキンス、カール・ブロスフェルト、そして御代田南小学校・北小学校の子どもたちの作品が、写真という営みの原初的な歓びや欲望、深化を体現する。畑直幸やインカ&ニクラス、濱田祐史が光学としての写真に遊ぶ。小池健輔、トーマス・ソヴァン、グレゴリー・エディ・ジョーンズが写真の蒐集・分解・再構成を愉しむ。会場にはこれだけにとどまらない、さまざまなつながりが見出せる(おそらく鑑賞とはそのような、一見つながらないもの同士を勝手につなげていくクリエイティブな営みである)。散策型の鑑賞動線になぞらえて言えば、それは遭遇と発見に満ちた体験だった。

シェルテンス&アベネス

横田大輔

畑直幸

芸術としての写真が語られるとき、そこには義務や当為の表現がまとわりつく。写真とは〇〇でなければならない、写真とは〇〇であるべき——。アーティストとは、この偏見に縛られず、写真のあり方を複数化し続ける人々のことをいう。写真とは〇〇であってもいいはずだ——という信念が、写真の可塑性を上げていく。アーティストの営為によって、展示のディレクションによって、鑑賞という行為によって、写真という総体の可塑性はまだまだ上がるはず。PHOTO MIYOTAは、筆者にとってそんな期待を抱かせてくれる展覧会であった。

メイン会場を離れて、街なかを歩くと、そこには水谷吉法の作品がそこかしこに展示されている。言わずもがな、これは周遊する観客のためではなく、御代田に住む人たちのためにある。それらは街の中に「異物」としてあり、ゆえに異界への回路として機能する。来年も同じ場所に、作品が置かれていることを想像したい。そしてそれが多くの人の目に触れることを。PHOTO MIYOTAが回を重ねていくことで、高原の街・御代田が海の向こうともつながっていることに気づく人はきっと増えるはずだ。知らない世界、見たこともないイメージに好奇心を旺盛にする人もいるかもしれない。未知へと向かう動力になりうるという点において、それは極上の「教育」だと言えはしないか。

PHOTO MIYOTAにはアートクラスタはもちろん、地元の人々や家族づれの観光客なども訪れていた。今後、回を重ねながらさまざまな人々が訪れることを期待したい。海外へのプロモーション、展示技術の多様化、テーマ設定など、あらゆるやり方で観客層の拡大は可能だろう。分断された社会のあらゆるところから人が集う、そんなプラットフォームになってほしい。

キム・カンヒ

キム・カンヒ

タイトル

「浅間国際フォトフェスティバル 2019 PHOTO MIYOTA」

会期

2019年9月14日(土)~11月10日(日)

会場

御代田写真美術館予定地|MMoP (旧メルシャン軽井沢美術館)周辺エリア(長野県)

時間

10:00~17:00(最終入場は閉場の30分前まで)

入場料

【一般(当日)】1,500円(現地販売のみ)【中学生以下】無料
*一部無料エリアあり/メイン会場となるMMoP内のエキシビジョン棟、ラウンジ棟1F、美術館は当日に限り何回でも再入場可

URL

https://asamaphotofes.jp/