川島小鳥インタヴュー
オリンパスOM-2、ニコンF6……出かけるときに決めます

私と愛機 vol.5 ~旬のフォトグラファーとカメラの関係~

22 December 2020

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川島小鳥インタヴュー「オリンパスOM-2、ニコンF6……出かけるときに決めます」 | 川島小鳥

被写体の魅力的な表情を引きだし、日常のかけがいのない瞬間を鮮やかに切る撮る川島小鳥。デビュー作『BABY BABY』を撮影した初めて購入したマニュアルカメラと、出世作『未来ちゃん』で活躍したオートフォーカスの一眼レフに加え、最近は、さまざまな種類のカメラを並行して使用しているという。作品とカメラとの関係と、今年4月に発売された、風景写真だけを20年分集めた作品集『おはようもしもしあいしてる』について話を聞いた。

文=小林英治
写真=川合穂波

オリンパスOM-2とニコンF6

―今日は2台のカメラをお持ちいただきましたが、自分で最初に買ったカメラは何でしたか?

川島小鳥(以下、川島):写真を始めた高校生の頃は、コンパクトカメラとか、家にあったカメラを使っていたんですけど、大学に入ってから、このオリンパスのOM-2を中古で買いました。当時カメラの本とか雑誌がたくさんあって、OM-2は絞り優先のオートで撮れて、セルジュ・ゲンズブールとアンディ・ウォーホルが使っていたと書いてあって、ふたりとも大好きだし、見た目も可愛いいから。単焦点レンズを初めて使ったら、こんなに奇麗に写るんだとびっくりしましたね。

川島小鳥

―このカメラで初めて自分の写真が撮れたと手ごたえを感じた瞬間を覚えていますか?

川島:はい。最初の『BABY BABY』(2007)という写真集は、大学のときに4年間撮った女の子の写真をまとめたものですが、そのときはずっとこれを使ってました。繊細な写りをして、光も奇麗に撮れるんです。

―いまでも使うことはありますか?

川島:もう1台持ってきたこのニコンを買うまでは、ずっとメインで使っていました。でも、いまでもたまに使ったりします。

―ニコンのカメラに変えたきっかけは何かありましたか?

川島:これは『未来ちゃん』(2011)を撮る時に買ったんです。オリンパスはマニュアルフォーカスだから、それこそ花とかを撮るときに、自分のペースでピントを合わせたりできるんです。でも、未来ちゃんは子どもだからすばしっこくて、撮りたいと思った瞬間がホントに一瞬で、それを逃したら撮れないことに気づいて、オートフォーカスじゃなきゃ駄目だなと。それでネットで検索して、当時最新のオートフォーカス機だったニコンのF6を買いました。すごくフォーカスが早くて、佐渡島の友人宅に居候しながらで撮影していたんですけど、雨の中でも雪の中でも全然壊れなくて頼りになりました。35mmで、ニコンのフィルム一眼レフの最後の機種ですね(2020年11月に生産終了が発表された)。

川島小鳥

―それからいままでずっと使いつづけてるんですね。

川島:はい。でも、最近はいろんなカメラを使っています。来年3月に梅佳代さんと福岡で二人展をやるので、その撮影のためにこの前まで福岡に行ってたんですけど、今回はカメラを5台ぐらい持っていきました。

―ちなみにどういうカメラを?

川島:このニコンと、もう少し簡単に撮れる一眼レフと、6×6、あと6×7、4×5、それにデジタルまで。ブレがすごいですね(笑)。

―フォーマットもバラバラですが、どういうふうに使い分けているんですか?

川島:撮るものに対して、その日の気分で決めています。『未来ちゃん』はニコン1台って決めていたんですけど、いまは撮るものが幅広いから逆に決めずに、その日の朝、出かけるときに決めています。

―女優やアイドルなど、仕事の依頼があって撮影するときはどうですか?

川島:ニコンが一番多いですが、そのときの撮りたい感じによって変えています。

―カメラによって撮るときの気持ちも変わるものですか?

川島:変わりますね。だからわざと慣れてないカメラを使うこともあります。例えば、初めての仕事の場合はやらないですけど、(仲野)太賀君とか何回も撮ったことある人だったら、メルカリで買ったカメラで撮ってみたり。

―カメラによって自分を変えてもらうみたいな?

川島:自分の意志で全部コントロールできたら、写真ってそんな面白くない。被写体も偶然出会うこともあるし、カメラは機械だから扱う技術も必要だし。完璧に上手くできないのが、ずっと面白いのかもしれません。

―川島さんにとって、フィルムカメラとデジタルカメラの一番の違いは何ですか?

川島:色の発色や、奥行き感とか、フィルムは独特で好きですね。あと、写真は撮るものだけど、撮れないことも多い。瞬間を逃してしまったり、現像したら写っていなかったり。その中で撮れたものが写真ですよね。福岡で4×5の大判カメラ使ったときも、引き蓋を上げ忘れて撮れていなかったことがありました(笑)。でも、「写るか写らないかわからない、でも写ってた!」という感覚が、自分にとっての写真の原点だと思います。そういうスリルは写真を始めたときからいつも感じていて、だからこそ感覚を研ぎ澄ますことができます。

川島小鳥


無意識に撮っていた20年分の写真をまとめた1冊

―今年4月に発売した写真集『おはようもしもしあいしてる』についても聞かせてください。400ページの分厚い写真集で、しかも人物以外の写真だけで構成されていることが大きな特徴ですね。

川島:そうなんです。T&M Projectsの松本さんから、「人以外を撮った写真はないんですか?」って聞かれたことがきっかけで作りました。こういう写真ってスナップ? 何て呼んでいいかわからないですけど、散歩してたり、例えば今日もここに来るまでの道とかで撮ったりすることが多いんですよね。ほとんど無意識に撮っているものなんですけど、高校の頃に撮ったものから20年分くらい全部かき集めたらキリがなくなってしまって、デザイナーの米山菜津子さんに最初に見せたときは何千枚という数がありました。

『おはようもしもしあいしてる』川島小鳥(CCCアートラボ)

『おはようもしもしあいしてる』川島小鳥(CCCアートラボ)

―そうやって無意識に撮っていたものを集めてみて、気づいたことはありますか?

川島:撮ったことも覚えてないものばかりでした。でも無意識に、同じ被写体を毎回新しく出会ったかのように、何度も何度も、何十年も撮っていることに自分でも驚きました。飽きないで、花を見たら撮るし、猫に会ったら撮るし。意外だったのが電車をたくさん撮っていること。高田馬場付近の西武新宿線が特に多くて(笑)。

『おはようもしもしあいしてる』より

『おはようもしもしあいしてる』より

『おはようもしもしあいしてる』より

『おはようもしもしあいしてる』より


―個人的には、スナップというよりは心象風景の集積のように感じました。光のとらえ方とか、ちょっと寂しい感じとか。

川島:これまでの写真集では人物がメインのものが多かったので分からないかもしれないけど、基本的には極度に内向的な性格なので、カメラがなかったら本当に引きこもりだったかもしれません。

―あと、俯瞰で撮った写真も多くて、こういう視点もあるんだなと。

川島:特に昔は、カメラを持って散歩しながら、高いビルがあったら勝手に昇って撮ったりしてました。

―同じモチーフや場所で何度も撮ってはいますけど、たぶん毎回切っているシャッターは少ないですよね。

川島:そうですね。どこかの道の途中でパッと撮ったりしてるから、人物を撮ったときのフィルムの最初の2コマとかに紛れてて、探すのがめちゃくちゃ大変でした(笑)。

『おはようもしもしあいしてる』より

『おはようもしもしあいしてる』より

『おはようもしもしあいしてる』より

『おはようもしもしあいしてる』より

『おはようもしもしあいしてる』より


―20年分ということは、カメラもいろんな種類を使っていますか?

川島:最近のデジタルもあれば、昔のハーフサイズとかコンパクトもあります。それを1冊にまとめるのは結構大変だったんですけど、最終的に1冊にできたのが、けっこう自信になったかもしれない。カメラによって写真が変わるじゃないですか。だけど、変わる部分とそれでも変わらない部分があるのが、面白かったですね。

―時系列もバラバラだと思いますが、編集する上でコンセプトはありましたか?

川島:音楽の名盤アルバムって9曲入りとかですよね。そういうイメージで、デザイナーの米山さんと相談しながら、ここはこういう感じっていうふうに章立てして、でも全体でひとつみたいなイメージでまとめました。あとは2020年だから、「東京」というテーマもありました。8歳から東京に住んでいる、自分にとっての東京です。

―なるほど。このスリップケースもいいですね。

川島:そうなんです。最初は、自分の暗部じゃないけど、ネクラなのがバレるとか(笑)、極端にいうと「これは誰が見たいんだろう?」っていう不安な気持ちもあったんです。でも、米山さんと何度もやりとりしながら、だんだん形になってきたときに、そのデザインが送られてきて、すごい感動しました。今回、個人的な感じは出しながらも、物語っぽくはしたくなかったんです。それが、この白いスリップケースがあることで自分がなくなったというか、もう少しフラットな写真集になった。僕がやりたいと思っていたことを、米山さんが僕以上に理解してデザインしてくれました。

―これは新たな代表作だと思います。

川島:自分が見て新鮮だった写真がいっぱいありました。撮った自分とはまた別の視点に立って、いろんな時代の写真を結集させることができた、時空を超えた作品になりました。

川島小鳥

川島小鳥|Kotori Kawashima
1980年生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科卒業。主な作品に『BABY BABY(2007)、『未来ちゃん』(2011)、『明星』(2014)、谷川俊太郎との共著『おやすみ神たち』(2014)、『道』(2017)、小橋陽介との共著『飛びます』(2019)など。第42回講談社出版文化賞写真賞 、第40回木村伊兵衛写真賞を受賞。