13 July 2021

リトアニアの写真文化を牽引するギャラリストのビジョンとは?ギンタラス・シーゾナスインタヴュー

13 July 2021

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リトアニアの写真文化を牽引するギャラリストのビジョンとは?ギンタラス・シーゾナスインタヴュー | Photograph: Lidija Kaleinikovaitė

Photograph: Lidija Kaleinikovaitė

リトアニアのカウナスに拠点を置く写真ギャラリー、カウナス・フォトグラフィー・ギャラリー(Kaunas Photography Gallery)は、展覧会企画だけでなく出版活動も行う。先日IMA ONLINEでもレヴューが掲載されたジョアン・フォンクベルタの展覧会および図録をはじめ、日本の写真ファンにとっても興味深いプロジェクトやアーティストを1979年から紹介している。ギャラリーディレクター兼チーフキュレーターである、ギンタラス・シーゾナスにリトアニアの写真文化、ならびにギャラリーの特色ある活動について聞いた。

文=村上由鶴

―カウナス・フォトグラフィー・ギャラリーは1979年にオープンした老舗のギャラリーですよね。まず、ギャラリーの特色から教えて下さい。

ここは写真をベースとしたアートを専門とする協会を母体とするギャラリーです。ギャラリーでは、世界中の写真プロジェクトをさまざまな形式やスタイルで展示しています。それぞれのプロジェクトの制作時期も幅広いのですが、できれば今日の視点や傾向に関連したものであることが望ましいと考えています。

私たちは、リトアニアにおける長い出版の伝統を発展させ、単に写真家を紹介するだけでなく、リトアニアの写真に関する研究を継続的に行ってきました。出版活動が功を奏して、リトアニアの写真はこれまで以上に高い評価を得ています。国際的なシーンでも徐々に認知されるようになり、主要な国際写真集イベントで取り上げられるようになりました。ギャラリーが行うプロジェクトのひとつであるカウナス・フォトグラフィー・ギャラリー・レジデンシーは、リトアニアの写真シーンに新たな視点をもたらすと同時に、ギャラリースペースや出版活動において、より豊かな空間と時間に関連したプログラムを構築するという重要な役割を担っていると考えています。

―カウナス・フォトグラフィー・ギャラリーに関係しているリトアニアの写真芸術の特色や著名なアーティストについて教えて下さい。

1960年代以降、写真はリトアニアのアートシーンにおいて重要な役割を果たしてきました。リトアニア各地の写真に関するギャラリースペース、展覧会の数、出版物、国際的に認知されたアーティストなどがそれを示しています。リトアニア写真家協会は、ソビエト連邦が解散するまではこうした組織の先駆者であり唯一の組織でした。最近では、世界の主要な現代アートフェスティバルやビエンナーレでも、リトアニアを代表する写真家が活躍しています。例えば、アンタナス・ストクス(Antanas Sutkus),、ヴィタス・ルーツクス(Vitas Luckus)、アルギルダス・シェスクス(Algirdas Šeškus)、リマルダス・ヴィクスライティス(Rimaldas Vikšraitis)、ヴィータウタス・V・スタニョーニス(Vytautas V. Stanionis)は、国際的なアートシーンで最も頻繁に目にするアーティストでしょう。写真の専門家の中には、リトアニアはヨーロッパで一人当たりの著名かつ重要な写真家の割合が最も高いのではないかというジョークをいう人もいるほどです。

―ギャラリーの出版活動についてお伺いします。現在のように書籍を作り始めた経緯を教えて下さい。また、本を作るときに心がけていることはありますか。

私たちは、フォトブックを作る長い伝統を培ってきましたが、それに先立つ1965年に出版されたアンタナス・ストクスとロムアルダス・ラカウスカス(Romualdas Rakauskas)の写真集『Vilnius daily life』は、当時の本作りのアプローチがいかにモダンで先進的であったか、また、写真、デザイン、印刷会社のコラボレーションがいかに有益であったかを示す象徴的な例といえます。しかしその後、状況は徐々に悪化していって、2000年初頭に、私たちはリトアニアの写真遺産がいかに豊かであるか、そしてそれが本の中で充分に表現されていないことに気づきました。それが出発点となり、去年から少しずつ、現代の写真家に焦点を当て国際的なコラボレーションを模索しています。

―最近の書籍のなかでおすすめ、あるいは売れ筋のタイトルはありますか?

ケール・ガリード(Cale Garrido)が編集した『Urgent Arts of Living』、Algimantas Kunčiusによるリトアニアのビーチを広範囲に撮影した『By the Sea』、Ieva Stankutėによるマタニティに関する新しいハンドメイドブック『Around the Belly Button』などがあります。

『Urgent Arts of Living』

『Urgent Arts of Living』

『Urgent Arts of Living』

『Urgent Arts of Living』

『By the Sea』

『By the Sea』

『By the Sea』

『By the Sea』

『Around the Belly Button』

『Around the Belly Button』

『Around the Belly Button』

『Around the Belly Button』


―IMA ONLINEは日本のアート写真の愛好者向けのメディアですが、日本とリトアニアは写真においては共通項があるのでしょうか?また日本で興味を持っている写真家はいますか?

説明するのが難しいことですが遠く離れた国の間にも何か共通するものがあると考えています。私は、リトアニア人も日本写真に興味を持っていますし、日本人はリトアニアの写真や文化を愛していると信じています。過去に日本で高い評価を受けたリトアニア人写真家は、アルトゥラス・ヴァリアウガ(Arturas Valiauga)、アレクサンドラス・マツィヤウスカス(Aleksandras Macijauskas)、ヴィータウタス・V・スタニョーニスなどがあげられますね。

また、Kaunas Photo Star 2017の受賞記念に行われた鈴木麻弓の素晴らしい写真展は、リトアニアのオーディエンスの記憶に残っています。ギャラリーで片山真理の個展を開催したいと考えています。日本のみなさんとの今後の交流を楽しみにしています。

―先日、IMA ONLINEでジョアン・フォンクベルタ(Joan Fontcuberta)の「Crisis of History」展のカタログを紹介しました。本来は昨年開催の予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で会期が変更になったそうですね。今回の展覧会(2021年7月の半ばまで開催中)の概要について改めて教えて下さい

本展は、これまで知られてこなかったイメージを用いた3つのプロジェクトを紹介するもので、私たちの歴史や芸術に対する考えを広げ、そして注意力や想像力を刺激してくれます。「The Artist and the Photograph(アーティストと写真)」(1994-98年)では、ピカソ、ミロ、ダリの写真による習作を紹介し、絵画と写真の性質の両方に新たな洞察を与えます。「Trepat(トレパット)」(2014年)では、ウォーカー・エヴァンス、アルベルト・レンガー=パッチュ、モホリ=ナギ、チャールズ・シーラー、マン・レイなどの著名な写真家による1930年代のスペインの工場を記録するプロジェクトの結果を検証します。「X, B,」は、若くして夭折したストリートフォトグラファー、キシモ・ベレンゲール(Ximo Berenguer、1947-1978)の忘れられた作品に光を当てました。最近になって再発見された彼の作品は、フランコ時代末期の70年代のスペインのエネルギーと荒々しさをとらえています。

カウナスギャラリーでのジョアン・フォンクベルタ「Crisis of History」展の展示風景

カウナスギャラリーでのジョアン・フォンクベルタ「Crisis of History」展の展示風景

カウナスギャラリーでのジョアン・フォンクベルタ「Crisis of History」展の展示風景

カウナスギャラリーでのジョアン・フォンクベルタ「Crisis of History」展の展示風景


―フォンクベルタの『スプートニク』や『秘密の動物誌(原著:Fauna)』は日本語訳が刊行されているので、日本の観客も手に取りやすい状態です。これらの作品と今回のプロジェクトの共通点や異なる点を教えて下さい。

ジョアン・フォントクベルタは非常に革新的なアーティストであるだけでなく、彼の作品全体が芸術や視覚文化がどのように相互作用し、社会に影響を与えるかを継続的に探求するものとして発展してきました。『Crisis of History』は、美術に関する組織や権威と、観客に疑問を投げかけ、鏡を突きつける作品だといえるでしょう。フォンクベルタの知識の深さが、この知的なゲームを通して人々を導くことを可能にしています。

日本で翻訳されている『スプートニク』と『秘密の動物誌』では、美術機関の壁の向こう側にあるより広い世界のアイデア、事実、物語を紹介しています。前述の本がほかの言語に混じって日本語にも翻訳されたことは、フォンクベルタのアイデアがいかに世界中の人々を感動させるものであるかを証明しています。

―いまは海外に実際に足を運ぶのが難しい状態です。日本の観客がこの展示を見る方法はありますか。

実は、あるんです!展覧会のオープニングに合わせて、本展キュレーターの一人であるケール・ガリードと一緒に展覧会を巡るビデオツアーを行い、公開しています。その後、ジョアン・フォンクベルタ本人とキュレーターのアリソン・ノードストローム(Alison Nordström)によるアーティストトークが行われました。ツアーとアーティスト・トークの様子は、カウナス・フォトグラフィー・ギャラリーのFacebookアカウントで、以下のリンクからぜひご覧ください。
https://fb.watch/61KFDgp_at/

Photograph from Kaunas Photography Gallery archives

Photograph from Kaunas Photography Gallery archives

ギンタラス・シーゾナス|Gintaras Cesonis
写真家、キュレーター、ヴィリニュス美術アカデミー准教授、リトアニア写真家協会代表。ヴィタウタス・マグヌス大学で美術史を専攻し、カウナス写真学校とアルルの国立写真学校で写真を学ぶ。2009年、カウナスにあるリトアニア写真家協会の責任者として働き始め、カウナス・フォトグラフィー・ギャラリーの再建に成功し、ギャラリースペースを教育、レジデンス、出版活動を含む重要な国家的多機能センターに転換した。カウナス・フォト・ギャラリー、および、ギャラリーの国際的なアート・レジデンス・プログラムの責任者として、個展やグループ展を開催し、リトアニアや海外の写真家による約10冊の写真集を制作した。2009年以降、国内外のさまざまな写真イベントでポートフォリオ・レヴューを行っている。2016年からは、リトアニア写真家協会に所属し、国内のギャラリースペースのコーディネートほか、重要な活動を行っている。
https://kaunasgallery.lt/en/

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