2 May 2022

鷹巣由佳インタヴュー
“イエローページをきっかけに、すべてが始まりKYOTOGRAPHIEへ”

2 May 2022

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鷹巣由佳インタヴュー“イエローページをきっかけに、すべてが始まりKYOTOGRAPHIEへ” | © Yuka Takasu

© Yuka Takasu

KYOTOGRAPHIEとルイナールの6年間のパートナーシップを称え、2021年に新たにKYOTOGRAPHIE インターナショナル・ポートフォリオレビューの参加者の中から1組に贈られる「Ruinart Japan Award」が創設された。記念すべき第一回目の受賞者は名古屋でグラフィックデザイナーとしても活動する鷹巣由佳。フランスでの滞在制作の成果が今年のKYOTOGRAPHIEで展示中だ。グラフィックデザイナーでありながら写真を始め、10冊以上の写真集を制作し、精力的に活動を続ける彼女にとって、今回初となる大舞台での展示となる。今回の展示に至るまでの経緯を聞いた。

文=IMA

受賞のきっかけとなったポートフォリオレビュー

―まず今回のKYOTOGRAPHIEでの展示「予期せぬ予期」の経緯を伺いますが、きっかけは昨年KYOTOGRAPHIEのインターナショナル・ポートフォリオレビューに参加されたことですよね?

はい。昨年KYOTOGRAPHIEとルイナールが合同で開催するルイナールジャパンアワードが始まり、初回を私が受賞しました。受賞すると、フランスへ招待していただき、そこでアートレジデンシーとして滞在制作した作品を、今年のKYOTOGRAPHIEで展示するところまでがセットになっています。

―ポートフォリオレビューに参加する人を対象にルイナールが賞を与える形式で、ルイナール独自の基準で選ばれているんですね。

そうです。作品の資料を提出すると審査対象になります。

―応募作品が展示の元になっていて、フランスで撮り下ろしもされていると。

自分の写真をGoogle Photosに全部入れてその写真をGoogleのロゴの色を基準に検索し再構成する、色別で写真集を作っているシリーズがあります。5冊で1500ページ制作し、抜粋したものをポートフォリオレビューに出しました。今回も同じように色ごとに検索して、基本的にすべてフランスで撮ったものを、展示しています。でも入り口すぐのチェキを多用した壁だけは、日本の写真も混ざっています。並べて組写真にすることで、画像がつながってなくても目が補完して合成ができるので、それを日本とフランスの架け橋のイメージとして展示しました。

鷹巣由佳「予期せぬ予期」Presented by Ruinart  y gion ©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2022

鷹巣由佳「予期せぬ予期」Presented by Ruinart y gion ©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2022


Google Photosで色ごと検索するプロセス

―制作プロセスとしては、最初はイエローページという言葉から着想して、自身のGoogle Photosで「黄色」で検索して出てくる自分の写真を集めたとのことですが、最初にイエローページから「色」に着目しようと思ったきっかけを教えていただけますか?

2019年に、スイスのアートバーゼルと同時開催のアートブックフェアI Never Read Art Book Fair Basel に出そうと思ったんです。でも海外で販売するのは初めてなので、世界で共通認識のものを探していたら、世界中で電話帳が黄色い紙に印刷されているのを発見しました。でもそれは衰退してきていて、検索に変わってきていますよね。インターネットに代わって紙媒体がなくなってきているのに、あえて写真集を作ろうとしていることもつながるんじゃないかって思って。電話帳だと電話番号だけど、写真だと何かを考えたときに、「黄色」で引いてみたらどうかなって思って、10年分の写真が入っている自分のGoogle Photosで検索してみました。そしたら、黄色と思っていなかった金色が入っていたりとかして。名古屋のシャチホコって、ずっと金だと思っていたし、しかもわざわざ撮らないけど、たまたまスマホで撮った写真がピッと出てきて。自分だったら選ばないけど、Google Photosだと全部出てくるし、それが意外で面白いって思ったんです。

―あえて自分で選ばず、Google Photosの検索に選ばせるプロセスは、鷹巣さんにとっては抵抗なかったですか?

一回その作業を挟んで白紙にすることによって、また新しく写真を見れるような気がします。撮影時期が近いと、どういう時にどうやって撮ったかを覚えてしまっているので、それを一旦フラットにした後に、もう一度自分で考えるんです。

―そしてスイスのアートブックフェアに写真集『YELLOW PAGES』を持っていったんですね。

『YELLOW PAGES』を売っていたら、買ってくれた人から「次は何色ですか?」ってすごく聞かれて。だからシリーズにしてみようと思ったんです。そのすぐ後にもアートブックフェアのために台湾やニューヨークへ出展予定があって、2019年は1カ月に1回海外へいっていました。Google Photosを使って作っているから、Googleのロゴの色を模しながらも、もうワントーン明るい色で衰退した紙媒体シリーズを考えました。電話帳、辞書、ノート、ガイドブック、地図というロゴマークの4色と全体の画面の白で5冊作ったんですけど、今回はロゴマークの4色をフランスの伝統色で置き換え、少しまろやかにした4色です。実はもう1冊シークレットカラーをつくる予定です。

ルイナールバーに飾られた写真集。真ん中の大きめの写真集が電話帳の大きさのようにした特別版の『YELLOW PAGES』。右には受賞したシリーズ5冊と、左には今回新たに作った4冊が並べられている。

最初に作った5冊の写真集。


―いわゆるイエローページを模したデザインになっていて、それはグラフィックデザイナーでもある鷹巣さんならではと思いますが、ご自身の中では写真集にまとめることが作品の完成形だと考えられているんですか?

展示は期間も短いし来られる人も限られますが、写真集ならいつでもどこにでも持って行けるので、いつも展示と写真集をセットにして作ってきました。『YELLOW PAGES』は初めてアートブックフェアに向けて本だけを作ったので新しい試みでした。世界の人と共通認識できるもの、言葉が違っても写真なら一緒にわかってもらえるのが、イエローページを選んだ理由だし、ルイナール ジャパン アワードをいただくことにもつながりました。その気持ちが届いたのは本当に嬉しかったですし、自分が写真集を作品として大切にしてきたのは良かったと思いました。

最初に作った写真集『YELLOW PAGES』。

最初に作った写真集『YELLOW PAGES』。

―これまで写真集は何冊くらい作っていますか?

だいたい1年に1冊のペースで、合計11冊作っています。そのほかに部数限定の特別版やZINEもあります。


フランスでのアーティスト・イン・レジデンス

―では展示作品についてお話を伺えればと思います。まずはフランスでの制作の様子について教えていただけますでしょうか。

賞をもらうにあたって、ルイナールがフランスで行うアーティスト・イン・レジデンスに参加することが条件でしたが、コロナ禍に行けるのかなとは思っていました。ちょうど昨年10〜11月はコロナが世界的に落ち着いていて、向こうへ行っても隔離期間なしで動けるので、パリフォトに合わせて渡航しました。

―何日くらい滞在制作されたんですか?

3週間です。最初の2、3日はパリフォトへいって、その後1週間くらいルイナールのシャンパーニュカーヴがあるランスを訪れて、戻ってきて2週間くらいパリにいました。

―撮影はこれまでのように、自由に撮っていたんでしょうか?

はい、自由です(笑)。

―自由だと逆に難しかったり、そういうこともなかったですか?

そうですね。まず、パリフォトでいろいろな情報を得た後にランスへ行って、ルイナール本社に行ったら、これまでルイナールが世界のアーティストとコラボレーションした作品が一面に飾られていてたんです。ここに君の作品も飾られるんだよといわれ、嬉しくもあり嬉しい反面、身の引き締まる思いでした。

フランスで撮影した写真。

フランスで撮影した写真。

フランスで撮影した写真。

フランスで撮影した写真。

ー今回の展示も色をテーマに構成していると思いますが、ステンドグラスのような什器も使っていますよね。

「ミラージュグレア」というシリーズがあって、ミラージュは蜃気楼、グレアは強い光という意味です。自分でカメラの前に光を拡散させるフィルターをつけて、合成せずに光を拡散させて画面に虹を発生させたりさせています。それをやるには強い光のある日じゃないと撮れないんです。什器も移動すると色が変わるものを作ろうということになって、オリジナルで作ってもらいました。

「ミラージュグレア」シリーズより

「ミラージュグレア」シリーズより

「ミラージュグレア」シリーズより

鷹巣由佳「予期せぬ予期」Presented by Ruinart  y gion ©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2022

鷹巣由佳「予期せぬ予期」Presented by Ruinart y gion ©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2022

―壁面も壁紙にも写真を印刷している部分があって、そこにアクリル加工したものを重ねて配置しているんですね。

そうです。今回は、たくさん写真が束になっている写真集の感じをどうやって展示で再現するかが難しかったです。例えば部屋がいくつかあれば黄色の部屋とかそういうふうにもできたんですけど、基本的には1部屋だったので、どう見せるか悩みました。最後のカーヴの写真では、2.5次元みたいにUVプリントで絵柄の部分を厚く印刷しています。

鷹巣由佳「予期せぬ予期」Presented by Ruinart y gion ©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2022

UV印刷を施したカーヴの展示風景とディテール

UV印刷を施したカーヴの展示風景とディテール

カーヴの写真。

カーヴの写真。

カーヴの写真。

―カメラの展示をしている箇所もありますが、撮影で実際に鷹巣さんが持って行ったカメラですか?

それもあります。いつも状況に応じて色々なカメラを使って撮っています。ベースはソニーのα7cというデジタルですが、フィルムカメラなど合計5個くらい持って行きました。フィルムカメラはコンタックスのT2、写ルンです、コダックのM38とか、あとホルガやトイカメラのような軽いカメラを持って行きました。本当はハッセルとか持っていきたかったんですけど、たくさん撮っていると観光客が少ないから目立つかなと思い、なるべくすぐに撮れるカメラを使っていました。

鷹巣由佳インタヴュー


デザイナーでありながら写真で表現すること

―鷹巣さんはいまもグラフィックデザインのお仕事も続けていらっしゃいますよね。だけど写真作品も制作されていて、ご自身の中ではグラフィックデザインと写真は、どのような関係でしょうか?

写真を始めた当初はなるべく離れようと思っていたんです。例えばグラフィックデザインをやっていたら、合成をたくさんやりますよね。写真家の方に依頼するときもラフを作って渡すので、イメージを自分で作る方がやりやすいんです。でも、だからこそそうしないために、偶然出会ったものを撮るのを自分の中では大事にしています。

―それはデザインのお仕事をされている反動とってことですかね。

反動(笑)、そうですね。だけど、編集して本を作っていると、これはデザインじゃないかとも思います。本が賞を受賞したりすると、デザイン力なのかなと思ってしまったり。写真とデザインを切り離そうとしているけど、やっぱり切り離せない部分はありますね。

―鷹巣さんご自身は、今後写真家としてやっていこうと思われたりもしますか?

写真の活動やチャレンジを続けていたら、写真の展示やプロジェクトはどんどん大きなことになったんですけど、もともとはずっと本業があっての活動でした。今回は本当にすごいステージに立たせていただいたと思っています。でも、作品のことだけを考えられる日々はすごく楽しかったです。だからそれはやって行きたいけど、生きていくために生活もしないといけないですし。

―では、いまのところスタンスは変えずに活動されるってことですね。

そうですね。でも、比率は段々と写真の方が増えているし、新しいジャンルというか肩書きがあればしっくりくるのではと考えています。日本はもちろん海外の芸術祭を見に行っていたことが少しずつ役に立ってきていると思います。そこで感じた自由を考えると、デザインよりアートの方が合っているかなと思います。デザインだとどうしてもクライアントがいますからね。今回もルイナールがスポンサーだったので似ている部分はあるとは思いました。でもルイナールはかなりアーティストファーストでした。ルイナールが一番初めにコラボしたのはミュシャで、そこからの歴史が長くあるから、いいものを作ってもらうためにその人が自由にできるフィールドを作ってくれるんですよね。

―鷹巣さんはIMAが主催していた写真集制作のワークショップやポートフォリオレビューに参加してくださっていて、今回の受賞もKYOTOGRAPHIEのポートフォリオレビューへの参加がきっかけですが、これまでこういうワークショップやポートフォリオレビューに積極的に参加されてきたんですか?

あまり積極的ではなかったです。ただ、KYOTOGRAPHIEのサテライト展示には毎年出すということだけは決めていたんです。2017年からKG +に参加すると決めていて。だからその流れでポートフォリオレビューにも参加していました。京都は海外の人たちもたくさん見に来てくれて、海外ではないけど海外の国際芸術祭のようです。だからこそ、毎年そこに出す意味がある。出すことによっていろんなことを考える機会になったり、力がついていくのかなと思います。

―レビュアーの人もKYOTOGRAPHIEだと海外の方が多いですが、それによって自分が成長できたり、第三者の方に見てもらうことで得られたことも大きいんでしょうか。

はい、そう思います。自分が尊敬する人たちに自分の作品がどう見えるのかとか、いいにしても悪いにしても、フィードバックをもらえるのはとても素晴らしいチャンスだと思います。自分で思っていたことがどこまで伝わるのかへの挑戦としてもすごくいい機会です。

―大きな展示が始まってその渦中だとは思いますが、今後の展望を聞かせてください。

いままでずっとKYOTOGRAPHIEに出るのを目標にやっていましたが、KYOTOGRAPHIEってまた出たいといっても出れるものじゃないんじゃないかなと思っていて(笑)。今回世界に向けて作った作品が実際に届いて日本に戻ってきたので、今後は海外でも展示をしたりしたいですね。そして、自分だけじゃなくて誰かと本を作りをしてみたいと思っています。

タイトル

「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2022」

会期

2022年4月9日(土)~5月8日(日)

会場

京都市内各所(京都府)

URL

http://www.kyotographie.jp/

鷹巣由佳|Yuka Takasu
愛知県生まれ。グラフィックデザイナー。ヨーロッパとアジアを中心に、旅と日常の境界線や言葉にできない何かを様々な視点での表現を試み、紙を中心に布やアクリルなど様々な素材を用い、AI等の身近な先端技術と、偶然や確率考現学的観点から「予期せぬ予期」を探る作品制作をしている。2021年に創設されたKYOTOGRAPHIE×Ruinart「Ruinart Japan Award」初代受賞。2021年秋フランスに滞在し、ルイナールのアート・レジデンシー・プログラムに参加。第55回富士フイルムフォトコンテストフォトブック部門審査員特別賞など受賞。デザイン事務所 211design-meme-主宰。撮ったあとの楽しみかた「写真にまつわるエトセトラ」講師。写真集として『kiitos』(2014)、『NEW ANGLE PHOTOGRAPHY』(2015年)『◯(maru/circular)』(2016)『KIASMA』(2017)『Omonpacal』(2018)『mille-pèlerille,YELLOW PAGES、RED PAGES,BLUE PAGES』(2019)『GREEN PAGES』(2020)『WHITE PAGES』(2021)などがあり、世界各国のアートブックフェアで販売・展開している。

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