24 June 2024

Foam 2024受賞ヒアン・ホアンにインタヴュー“作品は個人的な物語と社会問題の交差点”

24 June 2024

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Foam 2024受賞ヒアン・ホアンにインタヴュー“作品は個人的な物語と社会問題の交差点” | Foam 2024受賞ヒアン・ホアンにインタヴュー“作品は個人的な物語と社会問題の交差点”

Made in Rice, still from the 3-channels performance video, 2021 @ Hiền Hoàng / Performer: Soona
Hwoa Jeong.

第18回Foam Paul Huf Awardがベトナム人アーティスト Hiền Hoàng(ヒアン・ホアン)に贈られることが発表された。東南アジア初のFoam Paul Huf Award受賞者となった彼女の作品は、写真から幅を広げ、映像、彫刻、パフォーマンス、インスタレーション、光、音楽など多様なメディアに拡張しながら重層的な視覚美を持っている。時に西洋文化とアジア文化の歪みの発見者であり、時に現実と想像の間の歪みを埋める調査員となり、平面の静的な瞬間から自由に流れる瞬間へと自由に動き、それらの架け橋となる活動を続けるヒアン・ホアンのバックグラウンドや制作に対する想いについて話を聞いた。

取材・文=岩﨑淳

ーFoam Paul Huf Award を受賞され、今どのようなお気持ちですか?

とても光栄で興奮していると同時に信じられないほど心が温かくなりました。Foam Paul Huf Awardは、私のこれまでの先の見えない制作の日々を肯定してくれるものであり、今後も前進し続けることを後押ししてくれます。

審査員のジョン・フリートウッド、アンナ=アリックス・コフィ、フェリペ・ロメロ・ベルトラン、カトリン・シェーネグ、スンヨン・キム、そして私を推薦してくれたアルデイド・デルガドらには私の作品を信じてくれたことに感謝したいです。また、Foam写真美術館には、素晴らしい瞬間を共有できていることや心強いサポートに深く感謝しています。

ーあなた自身とアートや写真、クリエイティヴィティとの関係を教えてください。どんな風にアートと出会ったのでしょうか?

アートは常に私の人生の原動力でした。幼い頃から、アーティストとして活動していくことはリスクが高いとよく言われていましたから、アーティストになる決断をするのは簡単ではありませんでした。今は自分の決断に満足しています。

幼少時から絵を描くことが好きで、父もその情熱を後押ししてくれました。写真と出会ったのは、叔父のカメラを間違えて開けてしまいフィルムを全部露出させたときでした。なぜか、この瞬間が私の好奇心に火をつけ、ドローイングやペインティングと同じように写真を捉え、創造の手段として発見するきっかけとなりました。

クリエイティヴィティは、挑戦する意欲や自分を信じること、想像すること、そして外界から知識を蓄積することから生まれると私は信じています。何より、失敗を恐れないことではないでしょうか?クリエイティヴィティとは、私たちの内なる世界と私たちを取り巻く世界との共鳴なのです。

ー子供の頃はドローイングやペインティングもされていたのですね。では、なぜ写真を選んだのでしょうか?

写真を選んだのは、人間の目とカメラが似ていると感じたからです。写真の持つ流動性と柔軟性は、私の美学と実践の限界を押し広げてくれました。まず写真からスタートし、徐々に映像、パフォーマンス、インスタレーション、光、音など様々なメディアに拡張していくのは自然なことだと感じ、今はマルチメディアアーティストとして活動しています。

また、私は特に “Körperlichkeiten(物事の身体性)”に興味があります。それは、カメラ本体から始まり、私たち自身の身体、そして自然や宇宙という大きな体の要素を繋いでいます。色々なメディアを使うことで、このアイデアをさらに探求することができることに気付き、私自身のものごとの理解度と芸術的表現をより豊かにすることができると感じています。

ー近年のプロジェクト「Asia Bistro – Made in Rice (2019-2021)」や「Scent from Heaven(2023-)」「Across the Ocean(2024)」では、西洋文化のナラティヴにおけるベトナム人やアジア移民のステレオタイプについて考察し、作品を通じて文化的アイデンティティや人間と自然との相互作用、社会の物語を探究されています。これらの作品を作るに至った背景を教えてください。

Made in Rice still from the 3 channels performance video 2021 C Hien Hoang

Made in Rice, still from the 3-channels performance video, 2021 @ Hiền Hoàng.

私はベトナムの小さな町で生まれ育ちました。幼い頃から、1986年にドイツ民主共和国に移り住んだ叔母の話をよく聞いていたのです。叔母はよく手紙や電話で彼女のドイツ民主共和国での人生がいかに美しいかを教えてくれました。

1986年の叔母の移住から28年後の2014年、私は初めてドイツ民主共和国に住む叔母を訪ねました。その際、彼女の生活環境に驚きました。現実は、手紙や電話で認識していたものとはかけ離れていました。彼女は孤独に暮らし、自分のコミュニティに閉じこもり、手紙や電話では決して口にしなかった苦難に直面していたのです。この話の食い違いは、おそらくドイツ民主共和国(GDR)とベトナム当局による通信の制限と監視に起因するものでしょう。

彼女の死後、死んだ後には何が起こるのか、肉体の存在が消えたときに何が残るのかという問いが自分に覆い被さりました。彼女の現実は、彼女のコミュニティや私たち家族の中で生き続けるのでしょうか?その土地の制度に溶け込むために自分自身を見てこなかった移民労働者の遺産はどうなるのでしょうか?私たちは彼らをどのように記憶するのでしょうか?こうした疑問は、私たち集団がどのようにして現実と記憶を構築しているのかを探求する私の原動力となっています。

さらにこの好奇心を、人間が人間以外の生き物、例えば種や自然とどのように関わっているかにまで広げて、記憶を保存し生かし続けるプロセスに私は魅了されています。自然は私たちの存在に関する物語を保持できるのでしょうか?私たちがいなくなった後でも、私たちの記憶はそこにどのように保存されるのでしょうか?

この背景から影響を受けプロジェクト「Asia Bistro – Made in Rice」では文化的アイデンティティと社会的物語をテーマにしました。この探求はさらに広がり、プロジェクト「Scent from Heaven」では人間と自然の相互作用や人間の虚栄心にまでテーマを広げることになりました。私の最新のプロジェクトである 「Garden of Entanglement」は、数学的データに基づき、樹木と人間の活動の間の共鳴について考察しています。

Under an Ideology, part of Asia Bistro - Made in Rice, digital image, 2020 @ Hiền Hoàng.

Rhey ran’t ro rhe R!, part of Asia Bistro - Made in Rice, digital image, 2019 @ Hiền Hoàng / Performer: KUOKO, photography by Julia Gaes.

Smooth silk, part of Asia Bistro - Made in Rice, UV print on destructed plexiglass, 2022 @ Hiền Hoàng..

ーとても強い体験ですね。今現在、ホアンさん自身も叔母様の住まれたドイツを活動の拠点にされていますが、ドイツに住むことが活動に影響していますか?もしくは他の場所でも活動できるのでしょうか?

私のプロジェクトは常に異なる文化やシステム間の矛盾や共鳴を引き出すことに重点を置いてきました。ドイツに住み、多様な文化とつながることでパーソナルにこれらのテーマを探求することができます。だからドイツに住むことで活動できているという問いへの答えは「イエス」でしょう。しかし、つながりやインスピレーションを見いだせる他の場所で仕事をすることも考えています。

ーでは、土地に縛られずに活動する上で、インスピレーションはどこから来るのでしょうか?

私のインスピレーションの源は様々なところにあり、私自身の経験や文化的背景と深く結びついています。ベトナムで育った私は、豊かな伝統とナラティヴに浸り、それが私の芸術的ヴィジョンの形成に役立ってきたと思います。家族の歴史、特に叔母がドイツで移民労働者として旅したことは、前述のように私自身に大きな影響を与えました。叔母の経験は、アイデンティティ、記憶、文化的変遷というテーマを探求する私の興味をかき立てたのです。

それだけではなく、自然も私に大きなインスピレーションを与えてくれます。例えば、プロジェクト「Scent from Heaven」は、東南アジアと西洋のナラティヴをつなぐ素材である沈香(Agarwood)の文化的・歴史的意義を検証するものです。また、最近はアートと科学の関係性にも魅了されており、私たちがどのように記憶を保存し生かしているのか、自然との相互作用がどのように私たちの現実を形作っているのかを探求しています。

ですので、私のインスピレーションは、個人的な物語、文化的な経験、そして現在進行中のアートと科学の対話のミックスです。

Scent from Heaven - still from the documentary video, 2023 @ Hiền Hoàng.

Scent from Heaven - still from the performance video, 2023 @ Hiền Hoàng.

ーあなたのプロジェクトでは、文化的アイデンティティや差別政策についての批判的な考察が見受けられます。何がそのモチベーションをもたらしますか?社会問題が動機となることもありますか、それとも個人的な事柄が影響力を持つのでしょうか?

私のモチベーションは、常に個人的な経験とより広範な社会問題に起因します。個人的な事柄は、誠実で心のこもった視点を与えますが、しかし私は文化的アイデンティティや差別政策など、より広範な社会問題に取り組みたいという願望にも駆られています。広範な社会問題は、私の個人的な経験やコミュニティ内の他の多くの経験とも共鳴します。これらのテーマを強調することで、批判的な考察を引き起こし、社会に変化を促すことを期待しています。結局のところ、個人的な物語と社会問題の交差点が私の創作プロセスのモチベーションなのです。

ー現代社会はグローバル化により世界の均質化が進んでいますし、 2024年の悲惨な世界では、文化的なアイデンティティが失われるようなシーンも見られます。おっしゃる通り、日本や多くのアジア文化圏は西洋のナラティヴの中でステレオタイプ化されており、個人的には西洋に住むアジア人として戸惑いを感じ、時には自分自身のアイデンティティについて強く考えさせられます。私自身は、アートが深刻な問題を解決する道筋を作ると信じています。
ホアンさんは、自分のアイデンティティと強く関係していると感じている母国ベトナムの文化を守りたいと思いますか?それとも西洋のナラティヴの中で作り変えられてもベトナム文化は失われないと思いますか?消費されるような文化をどうお考えでしょうか?

これは重要な質問です。文化的アイデンティティを探求するアーティストとして、私は自分の役割をベトナム文化の保護者ではなく、ストーリーテラーであり架け橋であると捉えています。ベトナム文化は、他の文化と同様、ダイナミックで常に進化しています。私たちの文化遺産の中核的要素を保存することは不可欠ですが、文化は西洋文化を含む他の文化との相互作用を通じて適応し、成長できると信じています。

ただし、この文化交流には敬意と配慮を持って取り組むことが重要です。文化的な消費は、多くの場合、豊かな伝統を単なる固定概念や商品に貶め、そのより深い意味を剥ぎ取ってしまう危険性があります。個人的または集団的な物語を共有することで、ベトナム文化へのより深い理解と評価を促進したいと考えています。それは静的な形で保存することではなく、その本質と価値が確実に尊重され、理解されるようにすることです。

結局のところ、バランスを見つけることが重要ですね。ベトナム文化は西洋文化と交流するにつれて必然的に再形成されることになりますが、この再形成が相互尊重とより深い理解につながるのであれば、ポジティヴなものになる可能性があります。

ー最後に、今後の展覧会や活動についても教えてください

今後のプロジェクトでは、樹木の知覚メカニズム、特に気候変動と戦うために都市景観に組み込まれた外国の樹木を調査する予定です。私たちの存在が木の記憶としてどのように保存されるのかに興味があります。科学的アプローチと高度なテクノロジーを組み合わせて、私たちが自然環境(都会のアパートに植物を植えるなど)で静けさを求める一方で、自然を理解するためにテクノロジーに依存していることを検証したいと考えています。

展覧会は、Photo Ireland、FotoDOK Netherlands、日本でもT3、そして 10 月の Manifesta Barcelonaが待っています。来年のFoam写真美術館での個展も楽しみにしています。

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