21世紀に入ってから「再発見」されたカラー写真のパイオニア、ソール・ライターの日本初となる回顧展が開催されている。ファッション写真のみならずさまざまな分野で活躍しながらも人から注目されることを拒み、一人で淡々と撮影を続けてきたライター。「ライター流」ともいえる彼独特の世界との向き合い方からは、一体どんな写真が生まれるのか?そしてそこにはどんな哲学が秘められているのだろうか?
文=石神俊大
20世紀のニューヨークを生きた写真家、ソール・ライター(1923〜2013年)の日本初となる回顧展がBunkamura ザ・ミュージアムで開催されている。
1946年、22歳のソール・ライターは画家を志してニューヨークへやってきた。その後写真家に転向したライターは、1958年に『Harper’s Bezaar』のアートディレクターに就任したヘンリー・ウルフに写真を認められたことでファッション写真の撮影をはじめ、60年代から80年代にかけてファッション誌を舞台として華々しい活躍をおさめる。
また、ライターが1952年に引っ越してから2013年に逝去するまで60年にわたって住み続けたアパートのある「ロウアー・イーストサイド」と呼ばれる地域は、かつて移民街だったが20世紀後半に発展を遂げ、いまや数多くのギャラリーが立ち並ぶエリアとして知られている。もちろんライター自身もアンディ・ウォーホルやジャクソン・ポロック、バーネット・ニューマンなど名だたるアーティストらと交流があり、彼らの姿をとらえた写真も残されている。
ソール・ライター《カルメン、『Harper’s Bazaar』》 1960年頃 発色現像方式印画 ソール・ライター財団蔵 © Saul Leiter Estate
商業写真家として活躍をおさめ、20世紀を代表するアーティストとの交流があり、MoMAでの展覧会でも写真が選ばれるなど、ライターのことを知れば知るほど、彼はさぞ歴史的にも高く評価されてきた写真家なのだろうと思うに違いない。画家としても数多くの作品を残し、プライベートでは日本美術を愛好しとりわけ北斎や俵屋宗達を好む、才能に満ち溢れた「伝説」の写真家なのだろう、と。
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