3 July 2017

Photographer's Table

写真家の食卓(後編)
川内倫子×テリ・ワイフェンバック

3 July 2017

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写真家の食卓 川内倫子×テリ・ワイフェンバック(後編) | 川内倫子×テリ・ワイフェンバック

写真家は料理上手が多い?そんな噂を解明すべく、写真家の食卓を訪問。川内倫子の食卓を訪れたのは、アメリカから来日していたテリ・ワイフェンバック。プライベートでも親交の深い二人が、写真と料理の話に花を咲かせる。後編では、現在開催中のテリの個展「The May Sun」を通して、二人の写真の根底に通じるものについて語る。

文=深井佐和子
写真=齋藤圭吾

>前編はこちら

川内倫子(以下“川内”):今回のテリの個展「The May Sun」は本当に美しくて、とても感動しました。IZU PHOTO MUSEUMでの滞在制作で撮影された色彩豊かな新作「The May Sun」と、政治的なメッセージも読み解けるモノクロの作品「The Politics of Flowers(以下“PF”)」、対照的なふたつの花のシリーズを組み合わせるアイデアは、どのようにして浮かんだのですか?

テリ・ワイフェンバック(以下“ワイフェンバック”):滞在制作中に館長の岡野晃子さんが「PF」を気に入ってくれたのですが、そのときは展示のアイデアが思いつきませんでした。ですが、彼女が隣接しているヴァンジ彫刻庭園美術館に連れて行ってくれ、その庭に感銘を受けました。すべての花が美しく「生かされて」いて、枯れ始めた花は切られているので、そこにあるのは、「生」と「美」のみ。対して「PF」の花は枯れています。対極にあるようですが、ある点では一緒だという結論に至りました。それはどのような生であっても、写真がとらえられるのは、ひとつの瞬間のみであるということ。同じ花という題材ですが、ひとつは生きている時間で、もうひとつは硬直した時間、そのふたつの瞬間が向き合っている。すべては死に向かっているという真実、そして写真は、その長いプロセスの一瞬だけを写しだしています。

「The Politics of Flowers」は、2003年に最愛の母を亡くしたワイフェンバックが、紛争の絶えないパレスチナに咲く花を採集して作られた19世紀の押し花帳と出会ったことで生まれた。

IZU PHOTO MUSEUMでの長期滞在の際に制作された「The May Sun」。庭の木花の美しさに包み込まれる。

川内:会場に入ったとき、ある強さを感じました。私の好きなテリの世界だけど、同時にとても新しい。

ワイフェンバック:早朝や深夜、美術館の閉館後も、何度もたった一人で静かな時間を庭園で過ごしました。私はあの空間と花たちを表現する言葉を持たないので、写真にしたのかもしれませんね。時として、撮影する瞬間の経験は、写真そのものにも勝るときがあるとも感じます。

川内:全く同感です。なぜ「The May Sun」のプリントを大きくしたのですか?

ワイフェンバック:観客にイメージの世界に入り込んでもらい、庭にいるかのように感じさせたかったのです。「PF」では、紙の色をできるだけ壁の色に近づけて、押し花が視界に大きく入ってくるようにしました。

川内:「PF」には、いくつものレイヤーが存在していますよね。美しさや悲しみや、衝突も含まれているけど、私たちには常に希望がある。それを見せてくれました。

ワイフェンバック:うれしいです。「PF」は、私を新境地へと導いてくれた重要な作品。自分の作品が自分を新しい場所に連れて行ってくれて、また新しい挑戦ができる。美しさは世界にとってとても重要なこと。倫子の、このお皿に盛られた料理にも美がある。皮肉なことに、アートの世界では美は十分に理解されていないと感じるんです。本当の美しさは、また別のレベルの知的な理解をもたらしてくれます。

川内:本当の美とは何かを考えることは重要ですね。難しいけれど、私もその問いを追い続けたいと思っています。

ワイフェンバック:それが私が倫子の作品の好きなところ。あなたは作品を通して問い続けている。

川内:世界はそういうものですよね、答えはどこにもないんです。

ワイフェンバック:その通りです。それでも私たちは、その問いの答えを追い求める。

川内:テリの展示を見て、「PF」は現代社会が抱える問題を反映し、「The May Sun」では、逆説的に人の手によって美しく咲く花を写しだしている。そこに人の持つ力という希望を見いだすことができるし、この展示はひとつの祈りのようだと思いました。私は、『あめつち』で阿蘇を撮影したときもそう思ったんです。野焼きは緑を保つためのもので、人の力で自然が保たれ、人と自然が共生している。

ワイフェンバック:祈りというよりは、瞑想かもしれません。「祈り」はより言語的なものですが、瞑想は、ある状態を指しています。私は人にひとつの考えを押し付けることは望んでいなくて、むしろある瞑想空間を提供するよう心がけているんです。

川内:作品を通してその空間を共有しているんですね。

ワイフェンバック:そうですね。「PF」は聖地の花なので、スピリチュアルかつ政治的な要素を孕んでいます。宗教の複雑さ、信仰の是非、変化し続ける人類の難しさと、そこから見いだす希望を、見る側に、気づくことをそっと促す作品なんです。

川内:静かに問題提起をしているんですね。

ワイフェンバック:指さして何かを責めるのではなく、そっと手を差し出して問題を提示している感じ。倫子の写真も同じですよね!わめき立てるのではなく、小さな声で「ほら、見て」って。

―二人の『Gift』は、まだ続いているのでしょうか?

ワイフェンバック&川内:そうですね、ゆっくりと。でも、それは私たちだけの秘密です(笑)。


旬の食材を生かしてワイフェンバックのために作られた、川内によるメニューを紹介

酢の物

酢の物
「いつも作っている家庭料理のひとつです」と川内も話す、おなじみの酢の物。戻したわかめときゅうり、同じ大きさに丁寧に切り揃えられた切り干し大根とタコを酢と醤油と出汁で和えた。いろいろな食材が混ざり合うことで生まれる触感も、楽しみのひとつ。マイルドなお酢の味わいが優しく、大きめの鉢にたっぷりと盛って、サラダ感覚でたくさん食べられる。これからの季節にますます食べたい、爽やかなメニュー。

塩豚のロースト

塩豚のロースト
豚のかたまり肉に塩と蜂蜜をすり込み、ローリエと一緒に糸で巻いて冷蔵庫で1週間寝かせた塩豚を、厚めにスライスしてフライパンでソテーしたもの。たっぷりのお湯で茹で、一晩寝かせてあるため、火を通しても硬くならず、タレをつけなくても十分おいしい。シンプルにレタスで包んで手で食べると、フレッシュなレタスと、ボリュームある豚肉のコントラストに思わずワイフェンバックも舌鼓。柑橘類が名産の天草で買った晩柑塩をアクセントに振りかけて。

中華炒め

中華炒め
「予定より一品増えちゃった」と即興で作られたのは、スナップエンドウと干しタケノコ、豚肉をさっと炒めたもの。素材の歯ごたえを残すよう強火で炒め、ナンプラーや唐辛子、豆豉の風味で「ちょっと中華風」に味付けした、エスニックな一品。柔らかい薄切り肉、みずみずしさが残るエンドウ、かみごたえのある干しタケノコなど、歯触りの違いが楽しい。「親しい人たちとお酒を飲むのが好き」と語る川内らしい、ビールに合いそうな一品。

ハマグリのお吸い物

ハマグリのお吸い物
再会を祝福してくれるような、大きなハマグリのお吸い物。「ちらし寿司とハマグリの組み合わせは、とても春っぽいですね」と川内。丁寧にとられた出汁にハマグリの旨味が重なり合うハーモニー。お吸い物を赤いお椀に注ぎ、適量の三つ葉を散らすと、ハマグリが透けて見え、なんとも可憐。台所に広がる磯の香りが、春を感じさせる。7品すべてにおいて、展覧会で多忙だったワイフェンバックへの、川内の心遣いが染みるメニューとなった。

テリ・ワイフェンバック|Terri Wei fenbach
1957年、ニューヨーク生まれ。ワシントンD.C.在住。メリーランド大学でファインアートを専攻。初の写真集『In YourDreams』(Naz raeliPress 、1997年)で注目を集め、独特の風景描写と美しい装丁からなる15冊の写真集は、これまで高い評価を受けている。現在はジョージタウン大学で教鞭を執る。2015年にはグッゲンハイム奨学金を獲得。

川内倫子|Rinko Kawauchi
1972年、滋賀県生まれ。2002年『うたたね』『花火』の2冊で第27回木村伊兵衛写真賞を受賞、2013年に第63回芸術選奨文部科学新人賞を受賞。個展、グループ展は国内外で多数。国際写真賞プリピクテの最終候補に選出され、ヴィクトリア&アルバート博物館(ロンドン)を皮切りに世界巡回するグループ展に参加中。写真集『Halo』(HeHe)の出版に合わせて、6月27日(火)から森岡書店、6月30日(金)からPOSTにて個展を開催予定。

2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。

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