17 May 2019

OTANI NIEUWENHUIZE

九州の小さな町、うきはとオランダが写真で繋がるプロジェクト

AREA

福岡県

17 May 2019

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九州の小さな町、うきはとオランダが写真で繋がるプロジェクト | オータニ・ニューエンハウゼ

オランダを拠点とするアート写真ユニット「オータニ・ニューエンハウゼ」による、日本を舞台にした写真プロジェクトが進行中だ。二人は今年4月より、福岡の南東部うきは市でアート・イン・レジデンスを行い、作品を制作。この5月にその成果を町で発表した。アート写真が町から生まれ、再び町中に紛れ込んでいくその様を通じて、写真と人、地域との新しい関係性を考える。

文=馬場亮子

写真家の大谷臣史とヨハン・ニューエンハウゼの二人によるアート写真ユニット「オータニ・ニューエンハウゼ」。それぞれ対照的な出自や経歴、制作スタイルを持つ二人の共同制作の最初の試みは、2015年に折しもオランダ政府が重点的に進めていた「オランダ×九州 2016-17」プログラムと呼応して、前回、日蘭5カ所の著名な観光地を撮るプロジェクトから始まった。エフテリング、ライクスミュージアム、長崎出島、太宰府天満宮そして二国の「中間地点」としてのハウステンボス。オランダと日本-九州の繋がりを象徴するこれらの撮影地において、それぞれが観光客目線でスナップ撮影を行い、ひとつの作品としてまとめていくという作業を通して、二人は「体験の交換」「相乗的記憶」とも呼べるような意識の交流を体験したという。

今回、同ユニットが2回目のプロジェクト拠点として選んだのが、福岡県うきは市。古墳時代から連なる歴史と自然、豊かな生活文化や食文化を持つ人口3万人のこの町は、前回の著名な観光地の数々とは異なる制作へのアプローチを促した。事前のリサーチの結果、「ゲニウス・ロキ(土地の魂)」と「現代日本に残るオランダの影響」をテーマに「オランダ・ロキ」というコンセプトを設定。通りすがりの部外者である観光客になりきって撮った前回までとは打って変わって、今回は撮影地の風土や人、歴史の相互的な繋がりを意識しながら、アーティスト自身も住人の一人となって地域と密接に関わりながら制作するという形をとった。

さらに「最初の共同制作だったこともあり、互いの作風も無意識に歩み寄っていた」と二人が振り返る前回と比べ、今回は互いの方向性もあえてすり合わせず制作を行ったという。

大谷は滞在中に知り合った住人などをキャストに地元色が濃いロケーションを選んで撮影し、ニューエンハウゼは日常の場面で遭遇するアイテムをカメラで直感的に捕獲していくのだが、前者が脚本や人選から演出に至るまでフィクショナルな画面を緻密に構成するのに対し、後者は徹底して「意味」を振り切って、危ういほどに抽象度を突き詰めた作品をぶつけていく。対照的なのだが、制作の間二人は常時議論とコミュニケーションを意識的に行っていた。

どこか劇中の場面のような大谷の作品には、地元の人の見知った面々や馴染みある場所にトマトやバドミントン、コーヒーと言ったオランダ由来のテーマが添えられることで、不思議に拭いようのない違和感が漂う。

ニューエンハウゼ作品は対照に極限までフェティッシュに迫る。見るものに解釈を委ねるという意図があるという。

煉瓦がテーマの作品。煉瓦柄の壁紙を撮影し、町並みの特徴である「なまこ壁」に合わせて一枚一枚カッティングして埋め込まれている。

5月10日の夜に開催されたプレゼンテーション。伝統的建造物群保存地区となっている吉井町の白壁の町並みの随所に作品が埋め込まれており、途中アーティスト・トークを挟みつつ観客は地図を片手に宝探しのように写真を見ながら街を回遊するという趣向。あえて夜間での開催によって、参加者がスマホのライトをかざしながら写真と一対一で対峙する仕掛けを考えた。


1カ月と比較的短めな滞在期間だったが、現地入り後、ロケハンには二週間の時間をかけた。撮影も同時に進めながら、最終週までには作品化や展示構成を行い、地元住民に向けたプレゼンテーションを開催することになる。短い間にも二人の周りには友人の輪ができ、地元民からの熱烈なサポートを得ながら制作は進んだ。

そのような中でアーティスト達が企画した展覧会は、地域や人との繋がりをそのまま形にするようなものとなった。住民をキャストにうきは市の各所で撮られた写真の数々が、町並みそのものをギャラリーとして展示される結果となった。作品を観る人々、撮られた人々、作品が貼られた町並み - それらすべての要素がアーティストの作品を触媒にインタラクティブに関わり合いひとつのライブ作品を作り上げるような展覧会となった。二人のアーティストと、うきはという場所や人との関わりの中でこそ生まれた作品群は、今後写真集となり、展覧会へと形を変えながら、触媒としてのアートの可能性を示し続ける。

Koos Breukel

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