2018年から全国10会場を巡回してきた、「蜷川実花展―虚構と現実の間に―」の集大成となる東京展が上野の森美術館で開催中だ。これまでの展示作品を半数ほど入れ替えるだけでなく 、書斎を再現したインスタレーションや映像作品も加わり蜷川実花の世界に没入できるエキサイティングな機会となっている。写真で加わったのは、2021年に撮影した桜や藤の写真、ポラロイド作品、女性やパラリンピック選手のポートレイトなど。キャリア初期から最新の蜷川実花までを堪能できる。
蜷川実花といえば、花と女性ではないだろうか。鮮烈な色彩の生き生きとした花、美しさを引き出されたこれまた同様に生き生きとした女性の肖像。どれもその非現実的とも感じる“色気”にほだされてしまう。
花に塗れたい、あの色彩の世界に入りたい。そんな気持ちを抱いた人もいるのではないだろうか。展示前半では、まさに満開の花が迎えてくれる。蜷川実花が撮影する生花の多くは、自然の中にあるがままに咲いている花ではなく、誰かに向けて育てられた花だという。数々の生花がパネル状に展示された通路はまさに花の回廊であり、マジカルな時間でもある。
その美しいマジックはまだまだ続く。造花、色を吸わせた花という人工的な花を撮った作品で空間一面が覆われた展示は蜷川実花の世界に入り込んだかのよう。毒々しく咲く花は、美でありどこか嘘っぽく死を感じさせる。蜷川は、ありのままの美 、 自然の中にある美だけを認めるのではなく、人工物やそこにある人の想いや欲望も含めて世界の美しさと向かい合う。死を思わせるのは、今回展示された造花はほとんどが墓地で撮影されたものだからかもしれない。永遠に枯れず、死者に永遠に寄り添う。現実と虚構の間を繋ぐ花なのだ。
蜷川実花は色彩豊かな印象が強いが、逆の側面も本展では見せてくれる。父である蜷川幸雄の臨終までをとらえたスナップは、蜷川実花とは思えない落ち着いた静かな色で父が逝くまでまでの日常を追っていく。静かな淡々とした1葉に実花の言葉、当時の事情などをドキュメントしていく展示は、死と悲しみが静かであるがゆえに強調され、胸に迫ってくる。偉大な父娘の共作となった。
またセルフポートレイトはモノクロだ。ヴィヴィッドに他者を撮った作品の印象が強い蜷川実花だが、自身は白黒で撮ることでコントラストが付き、耽美的な仕上がり。以前から撮られているシリーズだが、普段の鮮やかな作風のみ知る人からすると意外に映り、彼女の別の側面を見せてくれる。
近作もお目見えする。今年春に撮影した最新作は、桜と藤で構成。露出を多くし光をまとったこれらの花は、未来という虚構をイメージにした蜷川実花の新たなアプローチだ。未来は不定形で虚構である。これから定める虚構は可能性でもあるという。
展示の最後には、蜷川実花の書斎が再現されている。本や雑貨など彼女を作り上げたエッセンスがディスプレイ。ラストスペースできっと蜷川実花の全てを感じられるだろう。
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会期 | 2021年9月16日(木)~11月14日(日) |
会場 | 上野の森美術館(東京都) |
時間 | 10:00〜17:00(最終入館時間は閉館の30分前まで) |
観覧料 | 【一般】1,800(1,600)円【高校・大学生】1,600(1,400)円【中・小学生】600(500)円*平日は日付、土日祝は日時指定制/観覧日前日までは( )内の前売り料金で購入可能 |
問い合わせ | 050-5541-8600(ハローダイヤル) |
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