The plants in the Voynich Manuscript

IMA galleryでは清水はるみ「The plants in the Voynich Manuscript」展を開催いたします。

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The plants in the Voynich Manuscript

旅を重ねながら、そこに暮らすひとびとの生活や歴史文化を独自の視点で切り取り、それらを新しい文脈で再構築してきた清水はるみ。近年も依然として旅を続ける一方で、未知のモノが並ぶ不思議なスティルライフ写真の制作にもその表現を拡げています。その延長線上にある本展は、1冊の古文書『ヴォイニッチ手稿』をテーマにした新作です。

暗号めいた文字の羅列と不可思議な植物や天文図の挿絵が描かれたこの本は、著者もタイトルも謎に包まれ20世紀に発見された1冊。清水はそこに描かれた架空の絵をもとに、実在する植物の写真に加工を施し、あたかもそれらが現在に存在しているような写真を作り上げました。

もしかしたらこの世界のどこかには、私たちの知らないモノやパラレルな世界が存在するのかもしれない—-フィクションと現実が奇妙に交錯する1枚の写真を見ながら、想像の花を咲かせてください。

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“The plants in the Voynich Manuscript”

1912年、アメリカの古物商ウィルフリッド・ヴォイニッチはイタリアの修道院で一冊の古文書を手に取った。元々あった表紙が失われたのか、タイトルや著者の表記もなく地味な佇まいの本だ。しかしその中身は、未知の言語で書かれ、多数の奇妙な挿絵に彩られた他に類を見ないものだった。以後、公開されてから現在に至るまで100年以上にわたり、各国の言語学者をはじめとした多くの人々がこの謎めいた本の解読に挑み、暗号説、人工言語説、古語説、錬金術師によるデタラメ説など様々な可能性が示唆されてきた。研究によって15〜16世紀に書かれたことや何らかの秩序ある文章列であることが明らかになったが、未だ完全な解読には至っていない。

発見者にちなんで『ヴォイニッチ手稿』と呼ばれるこの本は、挿絵から判断して植物、占星術、生物学、天文学、薬草の章に分けられ、そのうち植物について書かれた部分が現存する240ページの約半分を占める。植物はいずれも詳細な説明らしい文章と共に細かく描かれているが、当時の資料を調べても実在は確認できていない。誰が、何のために、架空のものの説明にこんな労力を割いたのだろうか?

本作ではそれらの植物のうちいくつかをモデルにして写真を合成し、現代のシチュエーションの中に紛れ込ませている。フェイクを疑われるまでもなく、これらが作られた写真であることは明らかだ。花と葉のありえない組み合わせや形、不気味な根。しかし部分だけ見れば、既存の種に似た特徴を持つものもある。およそ30万種とも言われる植物の世界では、日々人工的に新種が作り出され既存の種もゆるやかに姿を変えており、未開の領域や過去や未来に似たような種が存在する可能性もないとは言い切れない。時空間の範囲を広げるにつれ、想像と現実の生物の境界は揺らいでくる。これらの写真はいかにも偽だが、私たちの与り知らないどこかで一部は真にひっくり返っているかもしれない。こういった、何の役にも立たない想像を否定しない大らかさがあってもいいのではないだろうか。

『ヴォイニッチ手稿』の内容は、仮に解読できたところで似非科学の域を出ず、かけられてきた苦労に見合うような学術的収穫は得られないかもしれない。しかしこういった科学とフィクションの境界にある非合理的なものをおもしろがり、財産や時間を費やしてきた人間はいつの時代にも存在した。解読は真剣に取り組まれてきたのだろうが、その根底にあったのは、見返りも効率も求めないある種純粋な閑暇の愉しみだったのではと想像する。16世紀に大枚をはたいてこの本を手に入れた物好きなローマ皇帝も、17世紀に友人から解読を託された高名な司祭も、20世紀に軍務のかたわら組織的に研究しようとした暗号解読の天才も、21世紀にウェブ上で公開されたデータにアクセスする世界中の有名無名の人々も皆、時代を超えて同じ煙に巻かれている。

―清水はるみ

タイトル

「The plants in the Voynich Manuscript」

会期

2019年8月1日(木)~8月31日(土)

会場

IMA gallery(東京都)

時間

11:00~19:00(IMA cafe:8月1日はイベント開催のため17:00閉店)

休廊日

日曜・祝祭日

観覧料

無料

イベント

8月1日(木)19:00〜:オープニングレセプション
*出展作家参加予定

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