本展ではまず、鷹野隆大による二つのシリーズの作品をご覧頂けます。正面の壁に展示されている作品は、35mmのネガフィルムを引き延ばしたゼラチンシルバープリントによるもので、写真家自身の影が写されています。かすかに見て取れるのは写真家の姿ですが、それはぼんやりとした輪郭となって身近な場所の床に写り込んでいます。これらの作品の左の壁には、3つのフォトグラム*から構成される作品が展示されています。この作品もまた写真家の姿が写されています。鷹野は暗室の一角に印画紙を設置し、これら3つのフォトグラムを同時に感光しました。
反対側の壁には津田直の作品が一直線に並び、水平線がさまざまな風景の中で続いていきます。2枚が対になる4作品が展示されていますが、それらの構図はわずかに重なり合っています。この連続性は、どのように私たちは世界を見ているのか、独立した二つのカメラのように、両目は風景をとらえていることを示唆しています。津田はこれらの作品シリーズを遠く離れた3カ国(中国の黄山、モロッコの山峡や砂漠、そしてモンゴル北部地域など)で撮影しました。撮影場所は個々に記されていませんが、津田は旅の中での偶然の出会いに導かれながら、自身が三脚を置く場所を明確な意思で選んでいきました。それは作家が、風とともに暮らす遊牧民たちを訪ねる旅でもあったと語るように、津田が「風の河」と呼ぶ流れは、遠く離れた場所をつなぐ帯のような存在として地上に浮かび上がりました。
二人の写真家は、抽象と具象どちらかの表現に傾くのではなく、その間にしか立ち上がらないものをとらえています。またどちらの写真家も、撮影条件や撮影された像を操作することはありません。つまりともに「ストレート写真」ではありますが、その手法はコンセプチュアルです。鷹野の展示作品は部屋の中で撮影されたものですが、部屋は鷹野の作品の中で繰り返されるモチーフとなっています。鷹野は撮影場所としてたびたび「私の部屋」を用いますが、そこには個人を知るすべは写されていません。一方、津田の作品はすべて屋外で撮影され、偶然に導かれ辿り着いた遠く離れたさまざまな場所から成り立っています。津田において、カメラはその場の神秘の在り処を見出すものであり、そして写真でこそ、その気配をとらえることができるのです。
二人の写真家は、非常に洗練された選択と制約がともにあるなかで、写真にそれぞれの豊かさと奥深さを刻んでいます。そして、写真とはつまるところ、かすかな気配を記録するひとつの手法に過ぎないと投げかけています。写真家、カメラ、写された像の結びつきがどのように写真に表出されるかとの問いに加え、この展示を通じて、写真家、カメラ、そして知覚の曖昧さと写真との関係性にも思考を傾けていただければと思います。
*「フォトグラム」とは カメラを用いずに、印画紙の上に直接物を置いて感光させるなどの方法によって制作された写真作品。印画紙と光源の間にあるものはすべて、白い形態として写ります。
―アマナコレクションディレクター:アイヴァン・ヴァルタニアン
【the amana collection(アマナコレクション)とは】
2011年に株式会社アマナがスタートした、日本の現代写真を中心とした企業コレクション。現在、日本の現代写真作品の卓越性が表れる約900点の多彩な作品を収
タイトル | 「アマナ コレクション展 04 ― 鷹野隆大、津田直」 |
---|---|
会期 | 2019年9月2日(月)~9月30日(月) |
会場 | IMA gallery(東京都) |
時間 | 11:00~19:00 |
休廊日 | 日曜・祝祭日 |
観覧料 | 無料 |