東京在住のロシア人アーティスト、エレナ・トゥタッチコワは、自然と人間の関わりや文化的現象を通じて、人間の記憶がどのように形成されるかに関心を抱き、地域のリサーチを重ねることで土地や個人の物語を採集する作風で知られる。
NOMA t.d.で開催される個展「With Ice, Comes New Sun」では、北海道・知床半島で制作された新作の映像と写真作品を展示する。会期初日の18:00からはオープニングレセプションも開催予定。
「流氷の風景を眺めるたびにその風景の絶えない変化と、その変化を目の当たりにすることによって、天気、光、風という物質として眼に見えないものの存在を全身で感じ取れることに私はいつも感激する。流氷が知床半島に辿り着くまでのルート― 一定の範囲内だが、実際様々なパターンを作り出す氷の流れでできる海道― そのルートを線にして氷が描く海上の地図を想像してみる。
毎年、氷の泥から始まり、時間をかけて国境を超え、何キロもの距離を辿って、その間の全距離の海の宝物を吸収して、やがて1月末頃、流氷は知床半島の付け根にあたる斜里へとやってくる。風に流されて行ったり来たりもするが、冬の間はどこまでも広がる真っ白な雪原のようなオホーツク海を眺めることができる。
そして3月、春の気配を感じると氷が溶け始め、隙間に海が見えて、やがて一番大きい氷の板だけが真っ白な島のように海に浮かぶ。流氷の時期でこの季節が一番好きだ。同じ形が一つもない、海上からその巨大な姿の一部をみせる氷の島は独立した意識を持つかのような、海から生まれた不思議な生き物に見える。耳をすませば小さな音が聞こえてくる。『プク、メリメリー、プクプク』。もう春が近い。だんだん暖かくなっていくと、この島たちはそのまま湖のように真っ青なオホーツク海に溶けて沢山の栄養分を残して消えていく。
流氷の風景を眺めていると、過去の人間や動物が厳しい冬の間に雪で閉ざされた地上の道を通過できなくなり、岩場のように歩きづらく、常に動く氷上の道を作りながら移動したことを私は想像する。想像力はこのような風景から生まれるものだと思う。私たちは風景を眺め、想像し、その風景の中を辿って、世界との繋がりと自身の存在を確かめ、自分の世界地図を創り出していく。大移動や小さな道作り、生まれては消えていく、あるいはともに生きる命。それは全て絶えない変化と移動とともに何にも邪魔されることなく見えてくるものであり、そして物語となっていく。」―エレナ・トゥタッチコワ
タイトル | 「With Ice, Comes New Sun」 |
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会期 | 2018年5月26日(土)~5月27日(日)、6月2日(土)~6月3日(日)、6月9日(土)~6月10日(日)*土日のみ開催 |
会場 | NOMA t.d.(東京都) |
時間 | 13:00〜19:00 |
休館日 | 月~金曜 |
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