アート写真ってなんだかちょっと難しいでしょ? 『IMA』vol.9では、そんな子どもたちのために写真の学校をオープンしました。実はアート写真には、日常が豊かになるような身近なヒントがたくさん隠れています。大人も一緒に学べる特別授業となりました。ここでは、「子どものための写真学校」より一部のコンテンツをご紹介します。Lesson 3では、写真研究家の小林美香先生がピックアップした写真絵本を2回に分けてお届けします。世代を超えて愛されている名作もあれば、気鋭のフォトグラファーによるユニークな写真絵本も! 物語を伝えるために写真がどのように使われているかチェックしてみよう。
小林美香=文
Lesson 3
写真がもっと楽しくなる、写真絵本の世界 Part 2
まだまだあるよ!Part 1に引き続き、さまざまな写真絵本をご紹介します!
見つけてみよう
いつもの道ばたで、家で、公園で、じーっと観察すると発見がいっぱい。
■『みてみて!』 谷川俊太郎=文 小西貴士=写真 (福音館書店『こどものとも』2013年6月号)
子どもたちが森の中で見つけた昆虫や動物、植物などを誇らしげに差しだす手をクローズアップでとらえた写真で構成。「みてみて! こんなの見つけたよ!」という弾んだ声が聞こえてきそう。 見つけたものにそっと触れたり、思い切りよくつかんだりする手の仕草や、子どもらしい手の形も目を引きます。
■『まちには いろんな かおが いて』佐々木マキ (福音館書店『こどものとも』2010年10月号)
家の近所を散歩していると、マンホールや建物の壁、標識、公園の遊具といったさまざまなものの中から、いろんな「 かお 」が出現。街の中の顔に挨拶をしたり、話しかけたり、対話したりするような文章が、写真にとらえられた「 かお 」の表情の豊かさを際立たせ、読み終わると、街の中に顔探しに出かけたくなります。
■『かくれんぼ』 岩瀬成子=文 植田正治=写真 (福音館書店『たくさんのふしぎ』2005年12月号)
植田正治の写真の中には、お面をかぶったり、顔が隠れていたり、シルエットになっている人の姿をとらえたものが数多くあります。児童文学作家の岩瀬成子は、そんな「 かくれんぼ 」している人たちに語りかけたり、「 かくれんぼ 」している人の心の中にあるような言葉を紡ぎだし、植田正治の写真との対話から、写真の中に潜む深い魅力を引きだしています。
■『石のたんじょうび』 スティーヴン・ギル (福音館書店『たくさんのふしぎ』2002年11月号)
「石のたんじょうび」とは、石が自然の中から生まれたときと、石を見つけて拾い上げたときの両方のこと。スティーヴン・ギルは、石を生け花のようにアレンジする「生け石」の作品を作っています。小さな石ひとつひとつに目を凝らすことから、広大な自然の世界の営みに想像を巡らせたり、さらに石を組み合わせて新たな美しさを発見したりすることができるのです。
■『街は生きている』小山泰介 (福音館書店『たくさんのふしぎ』2013年7月号)
見開きの片方のページには街中の風景が、反対のページはその風景の一部にぐっとクローズアップした写真が組み合わせられています。クローズアップした写真は、一見すると何が写っているのかわからない顕微鏡写真や、抽象絵画のよう。見慣れた街の光景の中に潜むディテールを注意深く見つめることで、それまで見えなかった街の表情に気付くはず。
■『こっぷ』 谷川俊太郎=作 今村昌昭=写真 (福音館書店/2008)
ガラスのコップを主人公に見立て、「こっぷ」にできることや、状態の変化を観察しています。正方形の画角の白黒写真(数点がカラー写真)が、「こっぷ」の形や感触を際立たせていて、谷川俊太郎の言葉が、「こっぷ」に対する新しい見方を作りだしています。
動物がいっぱい
動物たちは時に物語の主人公。 写真だから伝えられる仕掛けがたくさん。
■『せかいをみにいったアヒル』 マーガレット・ワイズブラウン=文 イーラ=写真(徳間書店/2009)
旅に出かけたアヒルが、出会った犬から世界はとても広いことを教わり、動物園でさまざまな動物たちに出会うストーリー。動物写真の先駆者である写真家のイーラは、動物たちの生き生きとした表情や強い眼差しを見事にとらえており、あたかも動物たちが本当に会話をしているかのように写真と文章が組み合わされています。
■『けものたちのみち』宮崎学(福音館書店『かがくのとも』1979年3月号)
人が通ることのない夜明けや夜の山道には、いろいろな動物たちがやってくる。闇を背景に現れる動物たちの姿が、地面に近い視点からとらえられており、物音を立てずにじっと観察しているような緊張感が漂っています。読み進めていくと、秋から冬、春へと季節の移ろいの中で山道の表情の変化もたどることができます。
■『原寸大 どうぶつ館』 (小学館/2008)
動物の全体像をとらえた写真と、動物の一部分を実寸大に拡大した写真が組み合わされていて、実際には間近に見ることのできない動物のリアルな大きさがわかるだけではなく、顔の表情、毛並みや肌の質感、角や脚のような動物のディテールなどを見ることができます。観音開きのページもあり、動物たちが大迫力で迫ってくる一冊。
詩と写真
大人だって出会うことができる。 調和の始まりを予感させる美しい読み物。
■『絵本』谷川俊太郎 (澪標/2010)
谷川俊太郎が自ら写真を撮影しており、見開きで一篇の詩に向き合うように組み合わせて構成。写真は、手や腕がモチーフになっていて、断片的にとらえられた仕草やジェスチャーが想像力をかき立てます。詩には英語の対訳も添えられているため、日本語と英語の言葉と写真それぞれが、互いに補完して響き合うことで、立体的な詩の空間を作りだしています。自費出版で1956 年に刊行された写真詩集の復刻版。
小林美香|Mika Kobayashi
写真研究者。国内外の各種学校・機関で写真に関するレクチャー、ワークショップ、展覧会を企画するほか、雑誌への寄稿も多い。著書『写真を〈読む〉視点』、訳書に『ReGeneration』 『MAGNUM MAGNUM』『写真のエッセンス』などがある。2010年から東京国立近代美術館客員研究員。
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