東京・御徒町の229galleryにて、写真家・岩井龍星による個展「痕跡」が6月10日から開催される。
2000年生まれの岩井は、ファッションブランドのビジュアル撮影やエディトリアルを手がける一方で、写真というメディアの本質を問い直す個人制作を続けてきた。本展「痕跡」で主題となるのは、写真が持つ「記録性」と、人間の脳が行う「忘却」や「記憶の改竄」のあいだに存在する乖離。
写真は一般に事実を保存するメディアと考えられている。しかし私たちの記憶は、時間の経過とともに変質し、時には失われ、あるいは無意識のうちに書き換えられていく。岩井はその不確かな領域に着目し、薬品による変色や着色、像の消失といった不安定なプロセスを用いながら、人間が生き延びるために行う忘却のメカニズムを可視化しようと試みる。
作品に写し出されるのは、身近な人物やどこか見覚えのある風景だ。しかしそれらは現在を記録した写真ではない。むしろ、「いつかその人の声や肌の質感を思い出せなくなった未来の自分」が振り返る過去の断片として提示される。現在と未来、記録と記憶が交錯する視点が、本展の根底に流れている。
展示空間において重要な役割を果たすのが、作品の上に重ねられた三層のガラスである。透明なガラスは写真を見ることを可能にしながらも、その奥にある像へ直接触れることを拒む。かつて確かに存在した記憶へ近づこうとしても決して到達できない——その距離感そのものが、作品の構造として組み込まれている。
また、薬品による変色や消失は単なる視覚効果ではない。それは、人が苦痛や葛藤から身を守るために過去を再編集しながら生きていく営みのメタファーとして機能する。鮮明な記録として存在する写真と、曖昧に変容していく記憶。その二つのあいだで鑑賞者は、自らの記憶についても問い直すことになるだろう。
展覧会タイトルの「痕跡」が示すのは、失われたものの残像だ。作家が記した詩的なステートメントには、鏡面の向こう側へと遠ざかる風景や、触れようとしても届かない記憶のイメージが繰り返し現れる。写真を見る行為を通じて、私たちは自身の過去や忘却のあり方と向き合うことになる。
| タイトル | 痕跡 |
|---|---|
| 場所 | 229gallery(東京都台東区台東4-24-2) |
| 会期 | 6月10日(水)〜28日(日) |
| 時間 | 12:00~19:00(土日20:00まで) |
| 休み | 6月23日(火) |
| 料金 | 1ドリンクオーダー制 |
| URL | https://www.instagram.com/229.4242 |
