フランス北部にあるリールを拠点に活動する石橋英之は、ファウンドフォトを使ったコラージュやアプロプリエーションの手法を用いた作品を制作しています。2013年に個展「Présage/予兆」をBTギャラリー(東京)で開催し、2015年には同作の写真集『Présage』をIMA Photobooksから刊行しました。海外での活躍も目覚ましく、同年Gallery Vol de Nuits(マルセイユ)で個展「Présage」を開催、UNSEEN(アムステルダム)にて、新作「Connotations」を発表し高い評価を得ています。
「Présage」は、蚤の市で購入した古写真やポストカードの断片を精巧に繋ぎ合わせ、コラージュによってひとつのイメージを作り上げた作品です。本来のコンテクストから切り離された写真の断片は、石橋の手で再構築され、リアルとファンタジーの間を浮遊する世界を生み出します。一見すると複数のイメージで構成されていることが分からない程に手を加えることで、一枚の絵としての完成度が高まります。一方、制作の過程で入ったホコリなどの異物はあえてそのまま残し、作品に奥行きを与えています。
新作「Connotations」は、「Présage」で用いた「イメージの盗用」と「再構築」というアプローチをさらに発展させたシリーズです。詩の言葉から紡ぎ出した虚構のポートレイトは、友人であるアメリカ人女流詩人が自身の恋愛経験を綴った極私的な詩から喚起されたもの。石橋はインターネットのイメージを用い、架空の男性をコラージュによって具象化していきます。画像共有アプリの登場で、写真がキーワードによって分類されている現象から着想を得た石橋は、インターネットのハッシュタグ検索で無数のイメージを抽出します。そこに典型的なファッション広告のようなイメージをも加えることで、個人の私的な経験を超えてより社会に対して開かれたイメージへと昇華させています。その試みは、文学と写真の融合のみならず、現代社会における写真と集団的記憶の関係を問いかけているのです。
無数のイメージが氾濫し、消費される現代社会において、ひとつのイメージを作り上げることにあえて複雑なプロセスを踏むことは、イメージに重層性を与え、鑑賞者に“見る”という行為を改めて問い直します。今回の展示では、ふたつのシリーズのもととなった写真のオリジナルコラージュも同時公開し、その制作の軌跡をたどります。
私は、上記のような複雑なプロセスを経て完成したこれらのイメージを鑑賞者が見る事で、イメージが氾濫する今だからこそ、純粋に、ものを見るという行為の多義性を考え直す為の時間を与えたかったのです。―石橋英之
会期 | 2016年7月29日(金)~9月24日(土) |
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会場 | |
時間 | 11:00~19:00 |
休館日 | 日月曜・祝日 |
観覧料 | 無料 |
イベント | ・2016年7月29日(金)19:00~21:00 |