東京には、個性的なセレクトが光るブックショップが数多く点在する。その中で、アートに力を入れる大型書店や個性的なアートブックやZINEを扱うインディペンデントブックショップなど、写真集を扱う4店舗の書店員が、毎月おすすめの写真集を3冊ずつピックアップ。
セレクト・文=錦多希子(POST)
テーマ:鳥瞰的視点を与えてくれる写真集
スイス出身のミッシェル・コントは、芸術作品の修復家を経て写真の世界に転向した来歴を持ちます。その後、著名人のポートレイトやファッション写真で瞬く間に世界的な写真家となりました。そんなコントは熱心な登山家でもあり、スイス、ネパール、アメリカといった世界各地の雄大な山々を被写体に撮影を重ねてきました。彼がとらえる景観は思わず息を呑んでしまうほど圧巻で、自然が決して人間的な生易しいものではなく、崇高で近寄り難い存在だということを教えてくれます。10年以上同じ場所を繰り返し訪れた賜物である本作では、刻一刻と変化する動的な光のパターンが、写真という静的な表現へと落とし込まれてゆく。ページをめくるごとに迫りくるダイナミズムを体感していただきたいです。
タイトル | ミッシェル・コント『Light』 |
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出版社 | Steidl |
価格 | 15,700円+tax |
発行年 | 2017年 |
仕様 | ソフトカバー 3冊組/ボックス入り |
URL |
イタリア出身の写真家、ウォルター・ニーダーマイヤーの作品を象徴づける要素、それはハイキー(露出オーバー)でしょう。幻想的な白い世界を見たら最後、仮に既視感のある場面であったとしても、途端に時代感や方向感覚が消失され、その情景が脳裏に焼き付いて離れません。
2011年に開催された個展は複数の作品群で構成されましたが、なかでも雪山を被写体にしたシリーズは、ことさら強い印象を与えます。1980年代以降、彼は人間と山の環境との間にある関係性について探究してきました。その一例として、マスツーリズムの拡張という現象により、本来の山の姿が大きく変容したという因果が挙げられます。白銀の美しい景色を捉えた本作には、実は自然環境下における景観の認識や人間の行動がもたらす影響についての問いかけが暗に含まれているのです。
タイトル | ウォルター・ニーダーマイヤー『Appearances』 |
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出版社 | SKIRA |
価格 | 3,800円+tax |
発行年 | 2011年 |
仕様 | ハードカバー |
URL |
カナダ出身の写真家、ロバート・ポリドーリは、私たちもよく知っているような世界各地の都市を旅して周り、写真を通じて観るものが抱いているであろう先入観に新たな気付きをもたらそうと挑んできました。2014年にアメリカで開催された彼の初となる美術館での回顧展では、1984年以降、25年の歳月をかけて撮影された作品から選りすぐりの100点あまりが発表されました。本書の後半に登場する街の景観を俯瞰でとらえた作品群は、その街に身を置いて肌で感じるのとはまた一味違った醍醐味を引き起こします。いまにも音が聞こえてきそうなほどひしめく建造物の密集区域は、まるでなにかの有機的な生態のように見えてくるから不思議です。街そのものを客観視するというユニークな角度から見つめることで、またひとつ別の観点から、その街の魅力を教えてくれます。
タイトル | ロバート・ポリドーリ『Chronophagia』 |
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出版社 | Steidl |
価格 | 6,800円+tax |
発行年 | 2014年 |
仕様 | ハードカバー/クロス装丁 |
URL |
POST(limArt Co., ltd)
恵比寿にあるブックショップ。定期的に取り扱っている出版社が変わり、出版社の個性を感じる事の出来るセレクトになっている。また書店だけではなく、トークショーや展覧会なども開催、本の売り場のコーディネートや本のアーカイブ作成も手がけている。
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