24 November 2021

ラセット・レダーマン
「日本人女性による戦後の写真集」

24 November 2021

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20 Photobooks Around Gender ラセット・レダーマン「日本人女性による戦後の写真集」【IMA Vol.36特集】 | 20 Photobooks Around Gender ラセット・レダーマン「日本人女性による戦後の写真集」【IMA Vol.36特集】

IMA Vol.36「流動するジェンダーの時代」の関連記事第4弾は、ユニークな視点をもつ4人の選者が、ジェンダーにまつわるテーマで5冊ずつ写真集をセレクトした企画「20 Photobooks Around Gender」より、ラセット・レダーマンのセレクトを取り上げる。これまで見過ごされてきた日本人女性による戦後の写真集から、当時の女性たちの日常や、カメラを通して開放されていく彼女たちのまなざしを見てみよう。

セレクト=ラセット・レダーマン

私はこの1年間、What They Saw: Historical Photobooks by Women, 1843–1999』の出版に向けて取り組んできた。写真のはじまりから21世紀初頭までに世界各地で出版された256冊を網羅する本書のリサーチと編集を通じて、写真集というかたちで作品を発表していた無名の、あるいは正当な評価を受けていない才能あふれる女性写真家たちについて深く知ることができた。1999年以降、比較的近年になって研究されるようになった写真集の歴史は、当初は主に欧米諸国の男性写真家による写真集が対象とされてきた。しかし、それから20年以上の月日が流れ、研究対象は拡大したものの、専門の研究者はこれまでは存在しなかった、あるいは見過ごされてきた視点を探し求めるようになった。彼らは女性、同性愛者、ノンバイナリー、欧米以外の写真家たちによる、疎外され忘れ去られた声に耳を傾け、写真集史を書き換えている。ここで紹介する戦後の女性写真家による5冊の写真集は、より包括的な写真集史に含められるべき、見落とされてきた女性写真家による写真集のほんの一部である。歴史的な写真集をより広範な視点から民主的に分析するには、彼女たちの多様で幅広い視点とその重要性を理解することが必要なのだ。

1.『危険な毒花』常盤とよ子(三笠書房、1957年)

危険な毒花

写真家・常盤とよ子(1930〜2019年)自身が構えたカメラのレンズに、男性に無理に引っ張られている女性のイメージを重ね合わせた表紙が印象的な『危険な毒花』は、戦後日本社会の辺縁で働く女性たちのルポルタージュである。主に港町、横須賀で撮影された写真は、売春婦、看護師、教師、販売員、パフォーマーなど、伝統的な職業から、当時は比較的新しかったものまで、さまざまな職業の女性たちの日常を写し出している。


2.『遠近』山沢栄子(未来社、1982年)

遠近

日本と米国で美術を学んだ山沢栄子(1899〜1995年)は、長いキャリアを通じて商業写真と芸術写真の両方を撮り続けた。1942〜1962年にかけて撮影した写真を巧みなシークエンスで魅せる『遠近』では、モノクロのポートレイトと鮮やかな色彩の抽象写真が交差している。緻密にトリミングされた型破りな後期のカラー作品は、植物や花をタイトな構図に収められた写真と紙で作った彫刻的な形を通して、フォルムと質感へのこだわりが感じられる。


3.『新宿コンテンポラリー』渡辺 眸(自費出版、1968年)

新宿コンテンポラリー

1960年代後半の日本のカウンターカルチャーを記録した『新宿コンテンポラリー』は、新宿駅周辺に集まる人々と活気あふれるストリートシーンを描写している。当時、東京綜合写真専門学校を卒業したばかりの渡辺眸(1930年生まれ)は、街中でゲリラ的に始まる反戦コンサート、アヴァンギャルドな劇場の舞台、学生であふれ返るジャズカフェなどを切り取った。きっちりと焦点を合わせた写真の中に時折混じるピンボケしたワイドアングルのイメージには、伝説の写真雑誌『Provoke』の影響が見受けられる。


4.『しきしま』西村多美子(東京写真専門学院出版局、1973年)

しきしま

東京綜合写真専門学校を卒業し、『Provoke』のメンバー数人の暗室アシスタントを掛け持ちしていた西村多美子は、1970年代に国鉄が始めた「ディスカバー・ジャパン」キャンペーンを利用して、戦後日本の社会の変化を見つめる旅に何度も出かけた。1969〜1972年にかけて、主に電車やバスの窓からソフトフォーカスで撮られたざらざらした質感の写真は、消え去った田舎の暮らし、加速する近代化、伝統的な役割から解放され、拡張された女性の自由を記録している。


5.『ハーレム 黒い天使たち』吉田ルイ子(講談社、1974年)

ハーレム 黒い天使たち

フルブライト交換留学生として渡米し、ニューヨークのコロンビア大学でフォトジャーナリズムを学んでいた元NHKアナウンサーの吉田ルイ子(1938年生まれ)は、キャンパスのすぐ北に広がる黒人のスラム街・ハーレムに居を定めた。ここで彼女は、アフリカ系アメリカ人男性と結婚した日本人女性、そして二人の間に生まれたバイリンガルの少年ズールーと親交を深める。愛らしいズールーのアップを表紙に据えた『ハーレム 黒い天使たち』は、ハーレムに生きる子どもたちと、彼らの両親やコミュニティの人々の日常、ベトナム反戦運動の様子を伝えている。

タイトル

『WHAT THEY SAW: HISTORICAL PHOTOBOOKS BY WOMEN, 1843–1999』

出版社

10×10 PHOTOBOOKS

価格

11,000円

発行年

2021年

仕様

ソフトカバー/300mm×240mm/352ページ

URL

https://ja.twelve-books.com/products/what-they-saw-historical-photobooks-by-women-1843-1999

ラセット・レダーマン|Russet Lederman
ニューヨークを拠点に活動するライター、メディアアーティスト、写真集コレクター。また、写真集の魅力を伝えるためにさまざまなイベントを行う「10×10 Photobooks」プロジェクトの共同創設者でもある。共著に『How We See: Photobooks by Women』(10×10 Photobooks、2018年)など。

  • IMA 2021 Autumn/Winter Vol.36

    IMA 2021 Autumn/Winter Vol.36

    特集:流動するジェンダーの時代

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