アートに力を入れる大型書店や個性的なアートブックやZINEを扱うインディペンデントブックショップなど、写真集を扱う4店舗の書店員が毎月おすすめの写真集を3冊ずつピックアップするこのコーナー。3月は季節が変わり、新生活がスタートする春にぴったりのおすすめ写真集を3冊ずつピックアップ。
セレクト・文=森屋恵美(Shelfオーナー)
これでもかとページを埋め尽くす桜とその合間から囁かれる怪奇な物語…これは森山大道の撮り下ろし作品と無頼派の作家、坂口安吾の傑作『桜の森の満開の下』を組み合わせ、グラフィックデザイナー町口覚が編集造本した「書物」です。見わたす限り満開の桜は他の存在を許さず、散ってなお地面を覆い尽くします。そこには桜以外には何もない冷たい虚空がはりつめるばかり。この「書物」は目には見えない虚空を見るための装置なのです。
本書は町口が2014年より続ける森山大道×戦後日本文学プロジェクトの『Dazai』『Terayama』『Odasaku』に続く第4弾となります。この4冊は集められるなら全部持っていたい4冊です。
タイトル | 森山大道『Ango』 |
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出版社 | bookshop M |
価格 | 5,800円+tax |
発行年 | 2017年 |
仕様 | ハードカバー/240mm×170mm/188ページ |
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ドイツの写真家ザッシャ・ヴァイドナーが、桜の季節の日本独特の文化「花見」をテーマにした作品です。ザッシャ・ヴァイドナーは2013年に京都の鴨川に滞在して本シリーズを撮影しました。夜空というよりは暗黒の宇宙というにふさわしい漆黒を背景に超然と咲く桜、白木蓮、桃、そして無数の星のように飛び散る花びら…その中に別冊子を付属させたような形で日本の家族のアルバムを複写したシリーズがインサートされます。桜の下に立つ家族を撮った写真は昭和中期のものでしょうか。年に数回、何かちょっとした特別な機会があったときのみ写真を撮っていた時代の写真です。写真家は桜が日常のなかに突然引き起こす異空間体験に魅了されたのみならず、その体験が普通の人の間で普通に繰り返されてきたという事実に引き込まれたのかもしれません。
ザッシャ・ヴァイドナーは本シリーズを撮影したちょうど2年後に38歳の若さで急逝します。彼の最後のプロジェクトとなったこの作品は、昨年、故人が希望していたとおり町口覚の手によりアートブックとして完成しました。
タイトル | ザッシャ・ヴァイドナー『The Far Flowered Shore』 |
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出版社 | KOENIG BOOKS |
価格 | 8,500円+tax(輸入書籍につき円価は変動」 |
発行年 | 2018年 |
仕様 | ハードカバー/260mm×190mm/84ページ/スリップケース入り |
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2011年春、震災から間もない桜の季節。写真家、大森克己は「放射能、撮らなきゃって」と福島へと向かい、その道中で見た桜を撮影します。自宅のある都心の桜、千葉の散り終えた葉桜、まだ固い蕾の飯舘村の桜、瓦礫の中で咲く桜…都心を過ぎれば人影もない静かな風景ですが、どの風景にも共通して不思議なピンクのハレーションが映り込んでおり、それがこのシリーズを決定的に印象づけます。ところどころ視界を抜き取るような透明で虚ろな何かが、あの頃の風景には確かに存在していた。2011年の春を今改めて思い出すとそんな気持になってくるのです。
タイトル | 大森克己『すべては初めて起こる』 |
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出版社 | マッチアンドカンパニー |
価格 | 18,000円+tax |
発行年 | 2011年 |
仕様 | 380mm×470mm/スリップケース入り |
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Shelf
外苑前にあるブックショップ。写真集を中心とした洋書を専門に取り扱っており、店内には希少な本から絶版書までさまざまなジャンルの写真集が所狭しと並べられている。
〒150-0001
東京都渋谷区神宮前3-7-4
tel / fax: 03-3405-7889
http://www.shelf.ne.jp/
2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。