東京には、個性的なセレクトが光るブックショップが数多く点在する。その中で、アートに力を入れる大型書店や個性的なアートブックやZINEを扱うインディペンデントブックショップなど、写真集を扱う4店舗の書店員が、毎月おすすめの写真集を3冊ずつピックアップ。
セレクト・文＝錦多希子（POST）
テーマ：写真を用いた個人史の編纂の可能性を探る
写真家のアンネ・ジーネとアーヤン・デ・ノーイは、その疑似科学的な取り組みを通じて、斬新かつユーモアな視点から世界を見るよう仕向けてくれます。
野鳥観察者のための新しい可能性を秘めたガイドとして発表された前作「Ornithology（鳥類学）」に続く本作は、1955年から2016年に生きたと設定した架空の写真家・U.についてのもの。彼らは自ら撮影した写真やファウンド・フォトをベースとして、多岐にわたるイメージを展開していきます。あらゆる芸術様式の時代やアート・ムーブメントにまつわるイメージを引用した本作は、いわば写真の「百科事典」そのもの。一方で、架空とはいえ、一般的な写真家のごく個人的な生涯の物語でもあるのです。
| タイトル | アンネ・ジーネ、アーヤン・デ・ノーイ『The Universal Photographer』 |
|---|---|
| 出版社 | De Hef |
| 価格 | 6,800円＋tax |
| 発行年 | 2018年 |
| 仕様 | ソフトカバー |
| URL |
写真家のペトラ・スタヴァストは引っ越しが契機となり、その家の元主人であるラムヤという女性の生活を記録することに多大な関心と努力を費やすようになりました。カメラは両者間のコミュニケーションツールとなり、やがてこの家とその居住者の静かで親密な写真シリーズが繰り広げられます。
この取り組みはラムヤの他界を境に、新しい局面を迎えることになりました。スタヴァストは自身がラムヤの生前に撮りためていた写真に加えて、故人の私的なアーカイブやかつての仲間たちが撮影した写真に至るまで、多種多様な記録や資料を織り交ぜながらこの人物について徹底的に掘り下げました。こうして発展した本作は、スタヴァストによるラムヤの伝記であり、またこれまで表立って語られてこなかったラムヤの非凡な人生の記録でもあるのです。
| タイトル | ペトラ・スタヴァスト『Ramya』 |
|---|---|
| 出版社 | Fw: Books |
| 価格 | 5,500円＋tax |
| 発行年 | 2014年 |
| 仕様 | ハードカバー |
| URL |
マーは親しいひとたちの間では、実際のたたずまいにおいても、また比喩的な意味合いにおいても、人生をカラフルに彩る特別な女性として知られていました。ビジュアルアーティストのマライン・バックスは、マーが身に纏う洋服の生地や色に感動したのと同じくらい、彼女自身とその家の壁紙や家具とがうまく溶け合っているさまに魅了され、彼女の家で写真を撮るようになりました。こうしてふたりの間には友情と協働制作者という関係性が芽生えていきます。
出逢いから10年が経つ頃、102歳でマーは息を引き取りました。そのとき、バックスは確かに悟ります。生前マーがいつも言っていた「私がここからいなくなったら、これで何かをして」の「何か」とは、アーティストブックだったのです。挟み込んだまま綴じない製本によって、彼女の鮮やかな存在感が記憶の断片としてたゆたうように、読者の目に、心にと迫ってきます。
| タイトル | マライン・バックス『MAR』 |
|---|---|
| 出版社 | Fw: Books |
| 価格 | 6,000円＋tax |
| 発行年 | 2018年 |
| 仕様 | ソフトカバー |
| URL |
POST（limArt Co., ltd）
恵比寿にあるブックショップ。定期的に取り扱っている出版社が変わり、出版社の個性を感じる事の出来るセレクトになっている。また書店だけではなく、トークショーや展覧会なども開催、本の売り場のコーディネートや本のアーカイブ作成も手がけている。
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