Photobooks: Evolving by Rebirth

復刻によって蘇る写真集 vol.1
復刻によって写真集マーケットをさらに拡張する マイケル・マック インタビュー

© Alec Soth

© Alec Soth

名作の復刻は歴史を受け継ぎ、再考し、また掘り起こす行為でもある。復刻によって写真集は何度でも生まれ変わり、そして蘇る。何をもって名作とし、復刻されていくのだろうか。その背景と意義を探る。

深井佐和子=インタヴュー・文

現代の写真集専門出版社として世界のトップを牽引する、イギリスのMACKの代表マイケル・マック。2011年の設立からこれまで世界の名だたるアーティストと次々タッグを組んできた彼だが、近年そのラインナップにひときわ復刻版の刊行が目立つようになった。

自身を復刻の刊行に駆り立てるものは一貫して「写真集市場に対しての民主主義的アプローチ」と語るマック。現在でも冷めやらぬブームが続く、いわゆる「レアブック市場」に対しては、かねてより不快感を持っていたという。「僕は何かをより多くの人に届けることに興味があります。少ない人数の顧客だけを対象に少部数のものを作り、すぐに品切れにして値をつり上げるような市場形成をしたくないとずっと考えていました。それではコミュニティ全体がつぶれていくだけだし、より広いマーケットを創生していくことはできません」。

『Kodachrome』ルイジ・ギッリ(MACK、2012)

『Kodachrome』ルイジ・ギッリ(MACK、2012)

『Kodachrome』ルイジ・ギッリ(MACK、2012)

『Kodachrome』ルイジ・ギッリ(MACK、2012)

『Kodachrome』ルイジ・ギッリ(MACK、2012)

『Kodachrome』ルイジ・ギッリ(MACK、2012)


復刻版刊行にのめり込んだきっかけを聞くと、意外にも設立当初に取り組んだルイジ・ギッリの『Kodachrome』(2012)だったと教えてくれた。「MACKを設立したばかりでタイトルも少なかったのですが、この本は復刻版を刊行することの意義を、自分の中で明確にしてくれました。当初絶版だった初版本をオークションで入手。印刷も用紙も安っぽく、ボロボロの状態だったという。「どんなに優れた名作でも、こんなにコンディションが悪くて2000ドルもしたら、いったい誰が買って喜ぶのでしょう? 発売当初に買いそびれてしまっただけで、人々が素晴らしい写真集にアクセスできないのは不公平だと思いました」。そこで財団と交渉を進めて、ギッリ自身によるオティのテキストを加える形で復刻。これにより一躍ギッリの名は若い世代にも知られることになる。若手キュレーターを執筆者として迎えたのには、「往年の名作を復刊する際に、すでにエスタブリッシュした学識者が語るよりも若い人がストレートに良さを語ってくれる方が、いまの言語的な感覚が反映されて良いと思ったから」という明確な理由があった。

『TRANSPARENCY IS THE NEW MYSTERY』細倉真弓(MACK、2016)

『TRANSPARENCY IS THE NEW MYSTERY』細倉真弓(MACK、2016)


また復刻で重要な要素のひとつに、技術面でのアップデートがある。作家、もしくは財団との関係を大切にするマックは、存命作家の作品集の場合は本人と、故人の場合は財団とガッチリと手を組んで復刻に取り組む。その過程でオリジナルプリントやネガを通して改めて作品を見つめ、再スキャンなどのプロセスを経てイメージに新しい命を吹き込む。「昔は印刷コストが高かったし、特に自費出版の場合、経済的な事情でベストな印刷手段が選ばれていないこともあります。適正なコストと現在の技術をもってすれば、この先も長く読まれる質の高い写真集が作れるのです」。『Kodachrome』のあと、写真集に限らず、例えばアラン・セクーラの名著『Photography against the Grain』なども相次いで刊行。この本はオリジナルが80年代にアメリカで刊行された後、長く絶版になっていたにもかかわらず、アメリカで写真を学ぶ学生の必読書として知られており、コピーが出回っている状態だった。「そのように読み継がれる、写真史にとって重要な一冊を復刊させないという選択肢はないですよね」。また、ギッリのエッセイ集も復刻しているが、こちらは来年、日本語版をMACKから刊行予定だという。写真集だけではなくアートブックやテキストブックも、それが美術史にとって重要な本であると判断すれば、刊行をためらわないと熱く語る。

『Photography against the Grain』アラン・セクーラ(MACK、2016)

『Photography against the Grain』アラン・セクーラ(MACK、2016)

『Photography against the Grain』アラン・セクーラ(MACK、2016)

『Photography against the Grain』アラン・セクーラ(MACK、2016)

『Photography against the Grain』アラン・セクーラ(MACK、2016)


将来的に出版したい本のリストは膨大かと尋ねると、「そういうわけではないんです。日本や特定の国の作家に集中しようと思っているわけでもないし、刊行リストをガッチリ決めているわけではない。復刻写真集と、すでにキャリアのある現代作家と、例えば細倉真弓のように、まだ欧米ではあまり知られていない作家の写真集をバランス良く出していこうとは思っています。世界各国に流通しているので、うちで本を出すと過去の本でも必ずどこかで誰かの目に止まります。だからよく作家からも、良い宣伝になるといわれますね(笑)」。MACKのもうひとつの特徴はその流通力。現代写真という専門性をニッチなものにせず、高いマーケティング力でより多くの人に届けるという明確なビジョンが、復刻写真集をレアなお宝ではなく、公共性の高い文化的財産に昇華させている。

『TRANSPARENCY IS THE NEW MYSTERY』細倉真弓(MACK、2016)

『TRANSPARENCY IS THE NEW MYSTERY』細倉真弓(MACK、2016)

『TRANSPARENCY IS THE NEW MYSTERY』細倉真弓(MACK、2016)

『TRANSPARENCY IS THE NEW MYSTERY』細倉真弓(MACK、2016)

『TRANSPARENCY IS THE NEW MYSTERY』細倉真弓(MACK、2016)


どんな作家も、いつかはここから出したいと夢見る出版社にまで成長したMACK。しかし「あくまで民主的に」と繰り返し口にする、リラックスし、自信に満ちあふれたマックの語る展望を聞いていると、やみくもに手を広げて、いわゆるマスアート出版社を作ろうという意図などみじんも感じられない。エッジの効いた作家のみずみずしい作品と、誰もが知る巨匠陣の新しい挑戦、そして多くの人が初めて目にする名作写真集の復刻。バランスを驚くほど巧妙にとりながら波乗りを楽しむ姿に、ますます他の追随を許さぬ出版社の本質を見た。

『Sleeping by the Mississippi』Alec Soth(MACK、2017)

『Sleeping by the Mississippi』Alec Soth(MACK、2017)


MACKから刊行された近刊の復刻写真集を紹介

『Sleeping by the Mississippi』
Alec Soth(MACK、2017)


2004年に初版が刊行された際、当時Steidlにいたマックが担当した名作写真集。ミシシッピ川沿いのロードトリップを中心に、アメリカのアイコニックでありながらも忘れ去られた「サードコースト(第3の海岸)」をとらえた本作により、ソスは一躍スターダムを駆け上がり、現在では現代写真を代表する作家に。その後、第3版までは毎回異なる表紙で同社から出版されたが、今回はソス一番のお気に入りという初版本の表紙を踏襲している。最初と最後に、2点の未発表作品が加わっている。現存する作家の初期写真集を復刻という珍しいパターンだが、ソスとは二人三脚での制作過程だったと振り返る。故人の場合は正解は手探りのため最後まで不安が残るが、今回は作家と出版社双方納得がいくまで詰められたと語る。

『鴉 Ravens』
深瀬昌久(MACK、2017)


自身の「民主主義的アプローチ」の代表的な例として挙げた、この一冊。「驚異的な名作」とマックが手放しで称賛する深瀬の『鴉』は、初版が高価格で取引され、実物を見たことがある人はほとんどいないという、もはや伝説化した存在だった。鴉をまるで深瀬自身の化身のように撮り続けた狂気的なまでの写真家のまなざしと、その孤独が淡々としたレイアウトから立ち現れてくる。今回は深瀬昌久アーカイブスの協力を得て新装版を刊行。同アーカイブのトモ・コスガのテキストが新たに加えられたほか、デザインは初版を踏襲している。またMACKの出版物の中でも最も印刷部数が多いタイトルのひとつとなっているのは、絶版による価格高騰を避けるため。「すべての人が見るべき名作だと思うから」と、最も成功した写真集出版社であるMACKならではの決断だ。昨年は深瀬の『HIBI』を刊行したが、今回の『鴉』刊行によって、深瀬作品をさらに広く世界へと羽ばたかせている。

『Pictures From Home』
Larry Sultan(MACK、2016)


ラリー・サルタンが自身の両親を実家で撮影したポートレイトと、両親へのインタヴューの引用で構成されているパーソナルな一冊。ドキュメンタリーとステージドフォトグラフィーの間をたゆたい、写真集の中でひとつの家族の物語が浮かび上がってくる。家族写真の金字塔ともいえる名作だが、トリミングやデザインなどが古めかしく感じられたため、今回の新版では編集とレイアウトを大幅に変更している。本文フォントは元の持ち味を生かしつつ現代的にアップデートし、ページ数も127ページから196ページへと大幅に増やされた。サルタンの財団でオリジナルのフィルムとじっくり向き合い、元の構図が良いものはトリミングしないなど、1ページごとに丹念に再編集されている再スキャンにより色も鮮やかに蘇り、全く新しい一冊へと生まれ変わった。「サルタンの写真の素晴らしさが、より明確になった」。

Michael Mack

© Torbjørn Rødland, Courtesy of Mack Books

マイケル・マック|Michael Mack

ロンドンを拠点とする出版社MACK代表。ドイツの出版社Steidlで、約15年間にわたって写真集部門のディレクターを務めたのち、2011年独立。著名・若手問わず明確なヴィジョンをもつアーティストや作家、キュレーターと共に編集・制作されるハイクオリティかつ美しい写真集は、毎年数々の賞を受賞し、国際的に高く評価されている。