Interview
Charlotte Dumas

シャルロット・デュマインタヴュー
メゾンエルメス フォーラム「ベゾアール(結石)」展で提示された
自然と人間の対話と共存、そして生と死

AREA

東京都

11 September 2020

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シャルロット・デュマインタヴュー「『ベゾアール(結石)』展で提示された自然と人間の対話と共存、そして生と死」 | Yuzu and Urara | 2017 | 80 x 1109 cm | High pigment inkjet print © Charlotte Dumas, Courtesy of the artist and andiesse eyck gallery, Amsterdam

Yuzu and Urara | 2017 | 80 x 1109 cm | High pigment inkjet print © Charlotte Dumas, Courtesy of the artist and andiesse eyck gallery, Amsterdam

オランダを代表する女性写真家であるシャルロット・デュマは、これまで20年間にわたってニューヨーク同時多発テロで救助犬として活躍した犬たちの肖像や、アメリカ・アーリントン国立墓地で葬儀のために働く馬車馬など、人間のために従事する動物たちを被写体として活躍し続けてきた。その作品はオランダ国内だけではなくフランスやアメリカなど世界中で高い評価を獲得している。そんなデュマの展覧会「ベゾアール(結石)」が、現在銀座メゾンエルメス フォーラムで開催されている。この展覧会では、作家の長年のキャリアの中でもとりわけターニングポイントとなった、2014年よりデュマが取り組んできた日本を題材としたプロジェクトの集大成を見ることができる。本展では、会場構成を建築家の小林恵吾と植村遥が手がけ、その中でデュマの作品と呼応するようにテキスタイルデザイナーのキッタユウコによる藍染めの布のインスタレーションが展開されたが、そうした協働もまた見所のひとつだ。オープニングには来日が叶わずアムステルダムにとどまったデュマに、今回の展示とそこに至るまでの過程についてインタヴューを行った。

インタヴュー&文=深井佐和子

Bezoar|2018| intestinal stone of horse | 19th century | 50 x 40 cm | High pigment inkjet print|Musée Vétérinaire in Paris © Charlotte Dumas, Courtesy of the artist and andiesse eyck gallery, Amsterdam

Bezoar|2018| intestinal stone of horse | 19th century | 50 x 40 cm | High pigment inkjet print|Musée Vétérinaire in Paris © Charlotte Dumas, Courtesy of the artist and andiesse eyck gallery, Amsterdam
Image from Yorishiro | 2020 | 19'35'' | 4K video | Japan

―2014年に始まったプロジェクトが「Work Horse」「Stay」、そしてこの展覧会「ベゾアール」へと発展していきました。どのように作品が発展していったのかをお聞かせください。

日本でのプロジェクトの起点は、全国に現存する8種の希少種の馬たちを撮影するというごくシンプルなものでした。2014年に長野で木曽馬を撮影し、翌年以降も頻繁に日本を訪れては各地の馬を撮影し続けていました。宮古馬(宮古島)、与那国馬(与那国島)、道産子(北海道)。続いて御崎馬(都井)、野間馬(今治)、対州馬(対馬)、そしてトカラ馬(トカラ列島)へ。6年の歳月をかけて日本をめぐるうち、それは日本という「土地」、そして「地域」「人々」との出会いへと広がっていったといえます。その中で私にとってとても重要な二つの場所、北海道と沖縄にたどり着きました。私が東京で発表した作品を見た北海道・大沼にある牧場が、そこの馬を撮影して欲しいと依頼してくださったのです。自身のプロジェクトがコミッションワークへと形を変えた瞬間でした。そして、そこで出会った人々が、私を今度は沖縄の地へと導いてくれたのです。そのようにして出会ったのが少女ユズ、そして今回展示協力をお願いしたキッタユウコさんを含む、たくさんの人々でした。

Wave | 2017 | 80 x 109 cm | High pigment inkjet print  © Charlotte Dumas, Courtesy of the artist and andiesse eyck gallery, Amsterdam

Wave | 2017 | 80 x 109 cm | High pigment inkjet print © Charlotte Dumas, Courtesy of the artist and andiesse eyck gallery, Amsterdam

―馬を撮影していたはずが、その土地そのものの肖像をとらえていた、ということですね。

8種の馬が生存していたエリアは、それぞれ多様な馬との関係性を持っていました。綺麗事ばかりではなく、馬にとって厳しい環境のところも多くありました。例えば撮影の中心であった与那国は地理的に日本の最西端に位置し、そこに野放しになっているたちは自由なようでもあり、地の果てに見捨てられ、孤独に暮らしているようにも見える。そういった様々な土地には愛着や批判や様々な感情を抱きましたね。

Near the coastline, Yonaguni | 2015 | 112 x 140 cm | High pigment inkjet print  © Charlotte Dumas, Courtesy of the artist and andiesse eyck gallery, Amsterdam

Near the coastline, Yonaguni | 2015 | 112 x 140 cm | High pigment inkjet print © Charlotte Dumas, Courtesy of the artist and andiesse eyck gallery, Amsterdam


―沖縄の地で、あなたの作品にとって新しい変化が訪れます。これまでドキュメンタリースタイルを貫いてきましたが、初めてフィクションの映像作品に着手しました。これはどのような変化だったのでしょうか?

沖縄に何度か撮影のため訪れるうちに出会ったユズという女の子がきっかけでした。彼女は自分の子供以外で初めて、「撮りたい」と強く惹かれる子供でした。堂々としていて、あるがままの姿で、動物や自然と完璧に調和している。子供と動物の共通点は、100%今を生きていることだと思うのです。取り繕ったり、実存について悩むこともない。自然にその場所に存在している。大人になり、社会に出ると、いつしかその自然な振る舞いや考えがだんだんぎこちなくなり、私たちは不器用さを埋めようとセラピーに通ったりして苦心する。現在という瞬間を生きること、それが動物を撮影している動機だったということを、彼女を見た瞬間に強く思い出したのです。

同時に、与那国島で希少馬の撮影を続けるうちに、島を取り巻く霊的な強さにも強く感じ入るところがありました。海に浮かぶ火山である与那国は暗い過去と複雑な政治的な事情が今も入り組んでいることもあり、重い印象を受けました。男性社会である島の住民との対話、厳しい嵐で閉ざされる海……この重苦しい風土に生きる馬の肖像を伝える上で、ふと、ユズのように自然の力そのもののような幼い少女が「目」となり、この島を描き出してくれたら、という構造が思い浮かんだのです。

依代| 4K ヴィデオ| 2020 | 19’35”/ Image from Yorishiro| 2020 | 19'35''| 4K video  ©Charlotte Dumas, Courtesy of the artist and andriesse eyck gallery, Amsterdam  ©Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d'entreprise Hermès

依代| 4K ヴィデオ| 2020 | 19’35”/ Image from Yorishiro| 2020 | 19'35''| 4K video ©Charlotte Dumas, Courtesy of the artist and andriesse eyck gallery, Amsterdam ©Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d'entreprise Hermès

―与那国と沖縄、それぞれの土地が持つ力と、それぞれに生きる少女と馬。それらを組み合わせる方法として、自然に映像作品という形に至ったということですね。

その通りです。そして沖縄に暮らす染色家であるキッタさんとの出会いも重要でした。オランダ、ライデンにある日本博物館シーボルトハウスで2018年に行った展覧会「Het paard in de kalebas / A horse appearing from a gourd(瓢箪から駒)」のために日本の馬にまつわる歴史的な資料を手広くリサーチをする中で、興味深いオブジェクトをたくさん発見しました。その中のひとつが謎に満ちた「腹帯」でした。西洋には見られない慣習で、布で馬の腹を包むのですが、それは保護目的だけではなく、馬に対する装飾や愛着をも想起させるため、馬と人間の共存関係を伝えるのに格好の題材でした。キッタさんにはそれを再現していただき、そこから衣装制作などの協働し続けてきたのです。

―今回の展示ではその「帯」を含め、エルメスコレクションから《黄金の木馬》、埴輪、特別に作ってもらった馬屈など12点のオブジェ、キッタさんの布のインスタレーションなどが豊かに空間を彩っています。

ひとつひとつのアイテムについて、なるべく説明しすぎないように心がけています。鑑賞者がひとつひとつの点を想像力の中で結んでいき、作品が頭の中で出来上がるべきだと思っているからです。でもその全てが人間と馬の共存の「証」であり、いかに私たち人間は単独では生きられないかということを表しています。そして埴輪に見られるような、馬が人間社会の中で果たしてきた死後の世界とこの世の橋渡しという役割や、題名となったベゾアール(馬の消化器官である腸や胃にできる結石)や映像作品《Anima》が象徴するような死や眠りなども、オブジェを通して表現したかったことです。目に見えないウィルスに苦しむ私たちもまた、いままで以上に人間の脆さ、死の世界を身近に感じている時期を過ごしていると思います。

《潮》展示風景/ Installation view of Shio 潮| HD ヴィデオ|19’49”| 2018 / Shio | HD video | 19’49” | 2018  ©Charlotte Dumas, Courtesy of the artist and andriesse eyck gallery, Amsterdam  潮| オーガニックコットン・琉球藍| 2020 / Shio | Organic cotton, ryūkyū indigo | 2020 デザイン・監修・制作:キッタユウコ、染色:澤野孝(Kitta)シャルロット・デュマとのコラボレーション © Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d'entreprise Hermès

《潮》展示風景/ Installation view of Shio 潮| HD ヴィデオ|19’49”| 2018 / Shio | HD video | 19’49” | 2018 © Charlotte Dumas, Courtesy of the artist and andriesse eyck gallery, Amsterdam 潮| オーガニックコットン・琉球藍| 2020 / Shio | Organic cotton, ryūkyū indigo | 2020 デザイン・監修・制作:キッタユウコ、染色:澤野孝(Kitta)シャルロット・デュマとのコラボレーション © Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d'entreprise Hermès


―先ほど島の男性中心の文化について触れていましたが、展覧会ではたゆたう海のような布のインスタレーションや映像作品の主役が全て少女だったりと柔らかで力強い女性的な力を感じます。それは意図されていることですか?

日本の社会が男性主体ということは、旅を通じて端々に感じています。だからといって無理にそれに言及したいと考えていたわけではないのですが、女性の強さということは少女たちを撮影していて自然と感じていたことでした。自分らしくあること、自分の体や内面に自信を持つこと。それはこれから成長していく女性たちにも感じていて欲しいことですよね。まだ製作中の3本目の映像作品も、その要素は強くあるので、やはりそのようなメッセージは私の中に内在化されているのかもしれません。

―コロナウィルスについても聞かせてください。今回のような状況を通じて、私たちはいかに脆く、また地球と人間のバランスというものの不均衡が問われた現象だったと述べていましたね。同時にこの気づきをいかに活かし、大切な人同士が手を繋ぐかがこれからの社会を形作っていくのだと。現在考えていることについて教えていただけますか?

現実的な話をすれば、本当は撮影のために日本に渡航しなければならないのに、いまは叶いません。主役である私の娘もユズも、離れた場所でどんどん成長していきます。二人が出会う筋書きを、離れ離れでどのように実現できるのか?課題は大きいです。今回も展覧会のオープニングを見ることはできませんでした。アートの世界は、クリエイティブの世界はどうなっていくのでしょう?社会は、世界全体は?焦ったり、不安に思うことは山のようにあります。だけど、どんなときでも前を向いてできること、最善の方法を探っていくしかないのです。

このような状況の中にいると、原点に戻ることが出来るとも感じています。人は社会的な生き物です。大切な人と共に生き、共に働く。今回離れていても日本のチームが完璧に展覧会を完成に導いてくれたことに強い感動と信頼を覚えます。オープニングが終了して、改めてこの展覧会は私のキャリアにとって最大のインパクトであり、人生を変えるような重要な出来事だと強く感じました。私だけではなく、人が人と築いている「関係」とは、抽象化されて触れることができなくても確かにそこにあり「共にある・いる」と感じることができる。それは生きる者と死者との関係性でも同様です。それは人間の能力です。それには、ただそこにあるものを信じるということが大切です。それはあらゆる生き物や環境にも通じることですし、私にとってのマインドセットのようなものなのです。

展示風景 © Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d'entreprise Hermès

展示風景 © Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d'entreprise Hermès

―この状況下で開催されたことすらも運命的に感じますし、人間についての本質的な何か、人間と社会についての何か、自然と地球の関係について多くのことを展覧会が語ってくれていると感じます。たくさんの人が、あなたのメッセージを作品を通して受け取ってくれるといいなと願っています。

Photo by Martine Stig

Photo by Martine Stig

タイトル

「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展

会期

 2020年8月27日(木)〜11月29日(日)

会場

銀座メゾンエルメス フォーラム(東京都)

時間

11:00~20:00(日曜は19:00まで/入場は閉館30分前まで)

URL

https://www.hermes.com/jp/ja/story/maison-ginza/

シャルロット・デュマ|Charlotte Dumas
1977年、オランダ、フラールディンゲン生まれ。2000年にヘリット・リートフェルト・アカデミーを卒業後、ライクスアカデミーで学ぶ。20年以上にわたり、現代社会における動物と人間の関係性を作品化してきた。2014年より日本全国の在来馬を撮影するプロジェクトに携わり、北海道、長野、宮崎、与那国島などを巡って撮影。近年では、映像作品も手がける。主な個展に、「Yorishiro」(アンドリエッセ・エイク・ギャラリー、アムステルダム/デ・ポン美術館、ティルブルグ、2020年)、「Anima and The Widest Prairies」(フォトグラファーズ・ギャラリー、ロンドン、2015年)、「Paradis. Charlotte Dumas」(Foam写真美術館、アムステルダム、2009年)など。浅間国際フォトフェスティバル(2018年)にも参加するなど、世界各地で作品を発表。現在、アムステルダムを拠点に活動を行う。