モデル、女優として国内外で活躍する水原希子。日本を代表するファッションアイコンの彼女は、写真を愛する一人のクリエイターでもある。前編で盟友・茂木モニカとのエピソードを語ってくれたが、後編では世界のトップフォトグラファーたちとのコラボレーション、そしていまやりたいことを熱弁してくれた。美しく、アートな水原希子の素顔、後編。
取材・文=IMA
撮影=織作麻衣
―荒木経惟など大御所と撮影を共にしてきました。
荒木さんはモニカとは違う次元で特別な写真家です。不思議なんですが、撮影されるときはすごく緊張するんですけど、確実に自分の女の部分を引き出されるんですよね。女優じゃない人も女優にさせちゃうんです。
過去ご一緒した撮影で、あまりの緊張で極限状態になって、脳内がトリップしたというかオーガズムを感じたんですよ。終わった後に幸福感で満たされて、ハイになっちゃって、家から遠いスタジオだったんですけど、歩いて帰っちゃった!シューティングハイというんでしょうか(笑)。レディ・ガガも同じだったと聞いたことがあります。
これは荒木さんにしか経験したことないです。本当に特別な写真家ですね。撮られる側としてああいう体験をするのはこれからもないんじゃないかと思います。こんな写真家はいません。荒木は荒木ですね。
ほかにも大御所というと、アンバサダーを務めているコーチでユルゲン・テラーとスティーブン・マイゼルに撮っていただいています。マイゼルは目を見たら殺される!と思うくらい緊張するので目を合わせられませんでした(笑)。好き過ぎるのかもしれませんね。
ユルゲンとは、コロナ禍のためZoomでシューティングしたのが面白かったですね。東京とロンドンを繋いで、ユルゲンが日本のアシスタントにZoomで指令してカチカチカチって撮った。ロケだったんですが、速いからすぐ終わっちゃいました。彼はほめて、上げてくれる気さくなおじさんです。写真とか肖像からは怖いイメージだったんですが、いいね、いいねってもち上げてくれてすごく良い人でした。
ほかにもマリオ・ソレンティ、エレン・フォン・アンワース、ニック・ナイト……伝説の人たちにいっぱい撮ってもらいました。ライアン・マッギンレーも、あ、カール・ラガーフェルドにも!
シャネルの写真集『The Little Black Jacket: CHANEL’s classic revisited by Karl Lagerfeld and Carine Roitfeld』(Steidl刊、2012)でカールに撮ってもらいました。荒木さんにインスピレーションを得たような設定で、和服にリトル ブラック ジャケットを羽織りつつ手首を縛ったカットでした。スタイリングはカリーヌ・ロワトフェルドで、現場はファッション業界の頂点!
そしたら、突然おかっぱの人が入ってきて、それがアナ・ウインター(米『ヴォーグ』編集長)だったんです(笑)!彼女も被写体の一人としてやって来たんですが、そういう貴重な体験を結構させてもらいましたね。
直近では、篠山紀信さんと撮影したんですが、とても元気でした。あの時代の人ってフィルムで撮ってきたから、とらえる瞬間が見えているというか、デジタルでも無駄にシャッターを切りません。数枚しか撮らないで大丈夫なんですよね。
―現代の著名フォトグラファーはほとんど総なめですね!
多くは広告でご一緒させていただきました。まだ森山大道さんには撮っていただいたことがないので、いつかぜひ!
コロナ禍じゃなかったら、もっと世界でいろんなフォトグラファーと仕事したい。いま、若いフォトグラファーがすごいことになっていて、才能が爆発しているんです!
中国だとレスリー・チャン、いま一番仕事したい写真家です。アメリカだとチャーリー・チョップス、何が起きているんだろうと思う。スペインのキト・ムニョスやマレーシアのゾン・リンなど世界中に仕事したい若手の写真家がたくさん。
インスタ見てると、何これ!?という才能がスペイン、フランス、中国など世界からわんさか出てきます。若い子、なんでこんなことできるの!?って。彼らとコラボできるのを楽しみにしています。
残念ですが、日本にはいない。それは仕事の自由度が少ないせいかもしれません。日本にもこういった若手が出てきて欲しいと思います。才能があるのに、日本の環境ではくすぶっている子はいると思うので。
―かなり写真が好きなんですね。
写真……好きですね。撮られることも好きですが、作品を見て圧倒されて、すごい!というピュアな気持ちで好きです。
―その中でも最高といわれる茂木さんは、相当ですね。
私にとって別次元で撮ってくれているということが特別なんです。数々の大御所と撮影したときは、モデルとして頑張んなきゃ!と肩に力が入ったことが多かった。
でもモニカは普通の、何気ない日常であってもすごく良い瞬間を切り取ってくれるというのが、特別なんですよね。誰も撮ったことのない私をモニカは撮っている。
あと、これだけフィルムが流行っている中で、客観的に見ても彼女の写真は美しく、光る部分があるんですよね。彼女特有のパーソナルな部分があるというか。モニカは自分の心に正直な仕事しかしないから。
例えば子どもって自分の好きなものにがむしゃらじゃないですか。思い通りにならないと大騒ぎしたり、大泣きしたり。モニカはそういうピュアなところが残っていて、その感性を大事にしてあげたいし、縛られずに才能を生かせる場所をつくれることがいまの自分の課題でもありますね。
私は自分のブランド「OK」を運営しているんですけど、これは自分を表現する場所としてつくりました。自分は被写体として、クライアントから求められたことをするというのがお仕事ですが、自分で表現したいという欲もあります。また同時に自分と同じような感性を持っている人や尊敬するアーティストたちが自由に自己を表現できる場所、という意図でつくったブランド兼プロジェクトです。
もっと世界中の色々な人とコラボしたい。フォトグラファー、アーティスト、ミュージシャンたちとの実験的なプラットフォームです。こういう場所があれば、声を掛けられますから(笑)。
―水原さんも、アーティストですね。
今年コロナ禍で、そして映画の撮影もあり、大変で、極限状態になって自問自答していました。自分は何が好きなのか深く考えたんです。そこでアートなど芸術的な表現が一番好きだと気づきました。
ファッションはすごく力強い。洋服を着て化粧して全然違う自分を見出せ、人格も変わる。その感覚も好きだし、人間の多面性に気付かされることがあって、それが心地良い。そして、写真芸術が好き。1枚で伝えることのできる、言語を必要とない視覚言語です。私はこういう強い媒体に惹かれてきたんだなあと実感しました。
今後はもっと自分の好きなこと、もっと芸術的な表現を突き詰めていきたい。モデルとして広告のお仕事はやらなきゃいけないんですが、自分がやりたいこと、誇れる作品をもっともっと残していきたいととても感じています。
―クリエイティブな現場にずっといたい、と。
女優としてというより、クリエイティブな世界にいたい。自分にとって欠かせないものです。
表に立つ存在である前に、裏方意識があります。私を撮って!ではなく、一緒につくっている感じ。だからフォトグラファーがライティングに時間をかけてさんざん待たされたとしても、良い作品になれば全然オッケー!いくらでも時間かけて、と思います。ものづくりが好きなんですよね。
いずれ被写体として携われなくなったとしても、クリエイティブに関わっていたい。アイデアを考えるのがすごく好きで、この人とこの人を掛け合わせたらすごいことになる!とかっていう企画がいっぱい湧き出てきます。
ファッション界では村上隆さんが注目されてるじゃないですか。私はビューティの企画で彼にボディぺイントしてもらう企画をやりたいんですよね。チェリーとかお花を身体に描いてもらったり。私もモデルになって。
―それはすごいアイデア!バズること間違いないですね。
モデルとして求められているイメージを演じることはとても重要です、それと同時にやりたいこともめちゃくちゃたくさんあります。誰にどう思われてもいいから、やりたい!やりたいことがありすぎる!というのが今年の気付きです。芸術的な方の自分をもっと出していきたい。
いつかヌードも出したいけど、いままではそれはダメーーー!という感じだったんです。でももうそこも超えたいなと。ヌードがダメという概念がおかしい。みな生まれたときは裸じゃないですか。そういう既成概念を変えて、表現として突き詰めていきたいですね。
水原希子|Kiko Mizuhara
1990年生まれ。モデル、女優として世界で活躍。2003年よりモデル活動スタート。2010年『ノルウェイの森』で映画デビュー。ファッション誌やファッションショーのモデル、コーチやディオール ビューティーなどグローバルブランドのアンバサダー、国内では資生堂、パナソニックビューティー、サントリーなどのアイコンを務める。2021年映画『あの子は貴族』が公開される。
2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。