11 March 2021

New Voice ニューヨークの若手写真家ファイル
#06 グレース・アルホム

11 March 2021

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ニューヨークの若手写真家ファイル #06 グレース・アルホム | Photo: Daniel Rampulla

Photo: Daniel Rampulla

写真専門書店Dashwood Booksに勤め、出版レーベルSession Pressを主宰する須々田美和が、いま注目すべきニューヨークの新進作家たちの魅力をひもとく連載。世界中から集められた写真集やZINEが一堂に揃う同店では、定期的にサイン会などのイベントが開かれ、アート界のみならず、ファッション、音楽などクリエイティブ業界の人たちで賑わいをみせている。ニューヨークの写真シーンの最前線を知る須々田が、SNSでは伝わりきれない新世代の声をお届けする。

インタヴュー・文=Miwa Susuda

ヘルムート・ラング、アクネ・スタジオ、シュプリームなどファッションブランドのコミッションワークのみならず、自費出版したZINEなどを通して精力的に作品を発表するグレース・アルホム。現在、ニューヨークで注目を集める女性写真家は、どのようにして独自の表現を見いだしたのか?スケートボードカルチャーから学んだこと、同性愛者であることのカミングアウト、ライアン・マッギンレーのスタジオで働いた経験などについて話を聞いてみた。

Supremeのコミッションワーク

Supremeのコミッションワーク


―写真との出会いについて教えてください。

7歳のときに父が買ってくれた使い捨てカメラで、スケーターの友人たちを撮り始めたのがきっかけでした。そして大好きなスケボー雑誌『Thrasher』のレイアウトをマネしてみようと思いつき、自分が撮った写真とスケボーブランドのロゴステッカーやドローイングを組み合わせてスクラップブックを作りました。幼いながらも自分で写真を撮り、それらを編集して自分の世界観を表現することに夢中になりました。当時はInstagramも、iPhoneもなかったのでアルバムにまとめたのですが、クラスのみんなから大好評だったのを覚えています。

―スケートボートでの経験は、写真を撮ることと関係が深いでしょうか?

比較的裕福な家庭が集まるカリフォルニアの郊外で育ったのですが、スケボーを通して年齢も、肌の色も、経済的な環境も異なる友人たちと出会い、彼らとよく隣町の公園やスケボーショップまで出かけていました。スケボーのコミュニティでは、一緒に滑ることが大事で、表面的な見た目の違いや社会・経済的なステイタスなどは関係ないんです。まわりの男の子たちから女だからといって、軽くあしらわれたりすることもありませんでした。どんな時も対等に接してもらえたし、自分らしくいるだけで受け入れられたのがとても嬉しかったです。幼い頃から自分がレズビアンであると気づいていましたが、特に高校時代は自身のセクシュアリティについて親や学校の友人にバレるのが怖くてひた隠しにしていたので、スケボー仲間との時間が貴重でした。ニューヨークの大学に進学してから同性愛者であると公表できたのは、カリフォルニアのスケボー仲間が、ありのままの自分を受け入れてくれた経験があったからだと思います。自分の心に忠実であることの大切さを教えてくれたスケボーから、写真を撮る上でも自分らしくあることが第一だと学び、写真家としての精神的なベースを築いたと思います。また、多くのクリエイターたちと共同作業するエディトリアルの仕事では、スケボー仲間と一緒にいろいろな街をまわったときの感覚を思い出します。スケートしやすいスポットを見つけたときの高揚感と、限られた時間の中で撮影チームと最高の一枚が撮れたときの感覚は似ていると感じることがあります。

―カリフォルニアではスクラックブックを作りましたが、ニューヨークに移ってからは写真をどのように見せるようになりましたか?

STAPLES(アメリカの大手文具・事務用品店)や大学のコピー機を使って、ZINEを作り始めました。『Boys and Girls of Summer』は、大学4年生のときに大学のコンピューター室にあった写真用紙を使って25部のみ制作しました。表紙のデザインをスケボーのステッカーを貼り付けたようなデザインにしたのは、まさにカリフォルニアでのスクラップブック作りから来ていると思います。自分でも納得できる仕上がりだったので、ニューヨークの写真専門の書店Dashwood BooksにZINEを持ち込み、オーナーのデヴィッド・ストラテルに見てもらいました。その後、Dashowood Booksから4冊のZINEを出版してもらったので、あのときに勇気を出してよかったなと思います。

『Boys and Girls of Summer』(Self-Published, 2016)

Dasbwood Booksから刊行した4冊のZINE


―ZINEを通して写真を発表するメリットとは?

ある期間に撮った写真をまとめることで、自分の経験や撮り方を客観的に見直すのに役立っています。本という物理的なものを通して、自分がその時に一番興味を持っていたことをより深く理解することができると思います。ZINEを作り続ける小さな積み重ねが、写真家としての土台を築いていますし、作品の進化の記録にもなっています。『Dig in Your Heels, Stick to Your Guns』、『To Live and Die a Legend』など初期のZINEでは、ロー・エスリッジやトロビョロン・ロッドランドのスティルライフ写真に影響を受けていたため、撮影はもっぱらデジタルカメラを使ってスタジオで行い、コマーシャルフォトっぽく、塵ひとつないクリーンな写真を撮ることにこだわっていました。

初期作品「Dig in Your Heels, Stick to Your Guns」のインスタレーションビュー

初期作品「Dig in Your Heels, Stick to Your Guns」のインスタレーションビュー

『Dig in Your Heels, Stick to Your Guns』(Self-Published, 2016)

『Dig in Your Heels, Stick to Your Guns』(Self-Published, 2016)

『Dig in Your Heels, Stick to Your Guns』(Self-Published, 2016)

『To Live and Die a Legend』(Self-Published, 2017)

『To Live and Die a Legend』(Self-Published, 2017)

『To Live and Die a Legend』(Self-Published, 2017)


卒業後は、ライアン・マッギンレーのスタジオでインターンとして働き始め、ライアンの作品をデジタルファイルとして保存する作業を主に担当しました。ライアンがフィルムで撮影した初期作品『Irregular Regular』、『I Know Where the Summer Goes 』や『Moonmilk』の豊かな色彩、熱気あふれるスピード感に感動しましたね。ライアンのプリントはブレていることもありますし、粒子が大きくて粗いのですが、斬新かつ洗練されていると思いました。クリーンで完璧なイメージを目指していた学生時代の自分から脱皮できた出来事でした。より実験的なチャレンジをするようになり、ライアンのようにカラフルで動きのある作品を作るようになりました。Dashwood Booksから出版した4冊のZINEは、まさにその当時受けた影響が表れていて、ドキュメンタリータッチで構図に勢いがあると思います。

Why Can’t We Be Friends? Dashwood Books in 2017

Why Can’t We Be Friends? Dashwood Books in 2017

Why Can’t We Be Friends? Dashwood Books in 2017

Music for My Eyes Dashwood Books in 2018

Music for My Eyes Dashwood Books in 2018

Music for My Eyes Dashwood Books in 2018

CDMX Dashwood Books in 2020

CDMX Dashwood Books in 2020

CDMX Dashwood Books in 2020


―コマーシャルの仕事では、時代のアイコンたちを撮影されています。大きなコマーシャル案件での心構えや気をつけていることはありますか。

編集者やクリエティブディレクターとの打ち合わせには、必ず約50枚のCプリントを収めたブックを持参するようにしています。まわりの写真家の仲間には、やり方が古いと笑われるのですが、ブックには自分の作品の良さが詰まっていると信じています。コマーシャルの世界では流行の移り変わりが速く、そのサイクルの中で自分写真が消費されていくことに虚しさを感じることもありますが、今後も商業写真はチャレンジし続けたいと考えています。

撮影現場をより楽しむ工夫のひとつとして、自分の洋服をモデルに着てもらうこともあります。私物を使うことで商品をただ撮影している感覚から、セルフポートレイトを撮っているという意識にシフトすることができるんです。例えば、オランダの人気モデル、サスキア・デ・ブロウを雑誌『i-D』のために撮影したときは、家からフェンダー・ジャガーのエレキギター、ビンテージのTシャツと帽子を持って行きました。多くのプロフェショナルに囲まれ、大掛かりなセッテングの撮影でしたが、オートフォーカスのコンパクトカメラのヤシカ T4とコンタックスGを使用し、ハイとローの混ざり合う雰囲気を創り出しました。イギー・ポップ の撮影でも感じたのですが、時代のアイコンとなっている有名な被写体を撮影する時には、とにかくリラックすることが重要。相手が誰であっても写真家として持っているものを出し切り、被写体と一緒にひとつのものを作る感覚を持つようにしています。

『i-D magazine』 Spring issue, 2020 私物のTシャツやギターを撮影に持ち込み、サスキア・デ・ブロウを撮影。

『AnOther Magazine』Autumn / Winter Issue, 2020

『i-D magazine』 Autumn / Winter issue, 2020

VAQUERA SS 2021 Collection

VAQUERA SS 2021 Collection


―新型コロナウイルスはニューヨークのクリエイティブに影響を及ぼしていますが、ニューヨークを拠点にすることは、写真家として大事でしょうか?

パンデミック後も、ニューヨークが発するエネルギーは失われたと思いません。確かに商業写真の依頼が大幅に減少したことは否めず、不安になることはあります。でも、困難な状況にも果敢に立ち向かう人たちが集まる都市がニューヨーク。例えば、ライアン・マッギンレーやダシュ・スノーが歴史に残る活動をしたのは、まさに2001年にニューヨークで起こった同時多発テロの後でした。いまの状況は当時と似ていて、この混乱を社会的なドキュメンタリーとして直接的に撮影する写真家と、アートフォトを制作する写真家とに2極化しています。私自身は後者で、現実の混乱や不安をそのままとらえるのではなく、新しい表現方法を模索している最中です。今後、新作を写真集にしてまとめたいと思っていますので、どうか楽しみにしてください。

―若い世代の写真家にアドバイスをお願いします。

尊敬する人と仕事をし、自分の背中を押してくれる友達を作ることは大事だと思いますし、自分の作品を世に広めるには、タイミングと状況をうまくマッチングさせる必要があります。自分しか表現できないものがあると信じ、ZINEなどを作ったら大事にしまっておくのではなく、まわりに配ってください。Instagramにデジタル写真をあげるだけで満足しないで、印画紙や紙に写真をプリントし、フィジカルな世界でも自分の写真を広めることをお勧めします。

グレース・アルホム|Grace Ahlbom
1993年、カリフォルニア州サンフランシスコ生まれ。2016年、プラット・インスティチュート写真学部卒業。2012年よりニューヨークに拠点を移し、ファッションブランドからのコミッションワークを手がけるほか、『GQ』『AnOther』などの多くの雑誌でも活躍する。2016年、『New York Times』の次世代の写真家の一人としてフィーチャーされる。これまでにDashwood Booksより4冊のZINEを刊行している。
https://www.graceahlbom.com/
https://www.instagram.com/sk8rmom420/

須々田美和|Miwa Susuda
1995年より渡米。ニューヨーク州立大学博物館学修士課程修了。ジャパン・ソサエティー、アジア・ソサエティー、ブルックリン・ミュージアム、クリスティーズにて研修員として勤務。2006年よりDashwood Booksのマネジャー、Session Pressのディレクターを務める。Visual Study Workshopなどで日本の現代写真について講演を行うほか、国内外のさまざまな写真専門雑誌や書籍に寄稿する。2013年からMack First Book Awardの選考委員を務める。2018年より、オーストラリア、メルボルンのPhotography Studies Collegeのアドバイザーに就任。
https://www.dashwoodbooks.com
http://www.sessionpress.com

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