将来、御代田町に設立される写真美術館を見据えてスタートする写真の祭典「浅間国際フォトフェスティバル」。記念すべき第一回目が、8月11日(土・祝)から長野県・御代田町で開催されている。オープニング当日の様子と、展覧会の見所をピックアップしてレポート。
文=IMA
写真=宇田川直寛、大竹ひかる、金成津
8月11日(土)、長野県・御代田町でアート写真を楽しむ祭典「浅間国際フォトフェスティバル」が、ついに開幕した。国内外からは31名の写真家が参加し、アート写真が巨大バネルや立体作品、ムービー、スライドショー、インタラクティブな撮影体験まで、5,300坪におよぶ敷地の中にさまざまな形で点在し、フェスティバルならではの写真の面白さを競い合っている。
オープニング当日、御代田町長のご挨拶で始まったレセプションには、地元名士の方々に加えて、内外から参加アーティストが集い、華やかな開幕となった。国内作家では小山泰介と小林健太、海外勢はカナダ出身のジェシカ・イートン、イギリスからルーク・ステファンソン、スウェーデンからモーテン・ラング、アメリカからはチャーリー・エングマン、フランスからダミアン・プーランの5名。さらには二人の写真家とコラボレーションした建築家の元木大輔も駆けつけた。
撮影:金成津
体験を通して知る写真のもうひとつの面白さ
式典後、会場には地元の町民の方を中心に続々と来場。
人気は、撮影体験型のプロジェクト。撮影体験広場では、アニエス・ヴァルダとJRによるフォトトラックでのポートレイト撮影やダミアン・プーランの猫のオブジェによるセルフィー撮影に大勢の人が集まった。
アニエス・ヴァルダとJRによるフォトトラックは、フォトトラックの後部から大型紙にプリントされた顔写真は敷地内に設置された壁に貼り出されながら、展示期間中に続々と増えていくというプロジェクト。ダミアン・プーランの猫のオブジェは、猫が撮影した写真はスマホでQRコードを取り込むと撮影データが自分のデバイスに送信され、持ち帰れるという仕組みだ。多様化する写真のアウトプットを楽しめるふたつのセルフィー体験は好対照ながら、現代におけるポートレイト写真のありようを提示してくれている。
室内でも、参加型の展示が注目を集めた。そのひとつが、ホンマタカシのカメラオブスキュラ作品の構造をリアルに体験することができる、ピンホールカメラの茶室。真っ暗な庵ににじり口から一人ずつ入り、小さな穴から差し込む光で投影された屋外の景色を鑑賞しながら、カメラの原理を実感できる。
撮影:宇田川直寛
美術館内では、鷹野隆大による「Green Room」での自らの影をストロボで撮影する体験と、チャーリー・イングマンのVR作品に、驚きの声が上がっていた。フォトグラムという古い技法とVR(ヴァーチャルリアリティ)の最新テクノロジーによる全く両極の展示だが、どちらもこれまで見たことのない視覚体験という点と「カメラへ帰れ」というテーマを最も実感できる展示かもしれない。
環境の中で変わる写真の魅力
昨今、デジタルテクノロジーの進化と共に、日常的にはビジュアルはデジタルで、しかも掌に収まるデバイスのサイズで見ることが多くなっている。しかし、この写真フェスティバルでは、さまざまな支持体にプリントされ、普段接することのないスケールの写真に出会えることもまた魅力のひとつだろう。今回のフェスでは、ユニークなスタイルでの写真の見せ方に出会うことができる。
たとえば、建築家・谷尻誠が手がけた水盤の中の水底に、ビーチを写したマッシモ・ヴィターリの作品が沈められたユニークな展示。木々の間にカーテンのように吊るされ風に揺れるモーテン・ラングと元木大輔のコラボレーション作品。巨大なターポリンに印刷された藤原聡志のインスタレーションなど。表面にジェシカ・イートン、裏面にロジャー・バレンの写真を配した39枚のA型パネルが散策路の丘に並ぶのも圧巻の光景だ。
どれも、普段のプリントや写真集とはまったく異なる見え方で、写真の別の魅力を訴求してくれる。写真を見上げる、写真の間を練り歩く、空や連峰を背景に写真を鑑賞する、揺れる水面越しにさまざまな表情を見せるイメージに目を凝らす……都市における写真鑑賞とはまったく異なる、五感を駆使しながらの写真との出逢い。その瞬間、その場所でしか味わえない一回きりの写真との関係性を結びに、ぜひ御代田町まで出かけて欲しい。
タイトル | |
---|---|
会期 | 2018年8月11日(土・祝)〜9月30日(日) |
会場 | 旧メルシャン軽井沢美術館 周辺エリア(長野県) |
時間 | 10:00~18:00(最終入場は閉場の30分前まで) |
入場料 | 無料(イベントは要参加費) |
URL |
2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。