ニューヨーク在住時代から、アイデンティティと自らを取り巻く社会との関わりについて問う作品「Mayu」を発表し、精力的活動し続ける市田小百合。昨年ロンドン、ウェストミンスター大学の造形美術学部写真学科修士課程を終え、卒業と同時に発表した「Absentee(不在者)」が現代美術写真に特化したウェブマガジン「1000 Words」で取り上げられるなど、ヨーロッパの写真界で話題を呼んだ。そのシリーズ「Absentee」が、現在パリのサン・ジェルマン地区のアート写真書店Le Plac’artにて展示されている。
2020年から世界がパンデミックに見舞われ、過去を振りかえり自分の人生を見つめ直すものも少なくはなかっただろう。新型コロナウイルスの蔓延により、死が日常のものとなり、「生死」の存在がより一層際立った時期に市田は、高校卒業後に亡くなった母について考えることが多くなり、封印していた悲しみが再び蘇ったという。パンデミック期間、制作をしようと思ってもなかなか思うようにいかず、どうすれば良いかと自問自答を繰り返すうちに自身の身体を被写体とし、作品として少しずつ撮りためていくことで生まれた本シリーズ。「死」を想うこと、不安定な環境の中、自分自身の心理状況を描写したのがこの新作「Absentee」である。
Le Plac’artでは、50部限定で手製本した自主出版の写真集も披露。アーティストでブックデザイナーのTomasz Lacznyのディレクションで制作され、丹精に練り上げた構成と洗練されたデザインで観るものを魅了する。写真集は展覧会が始まる前に完売となったが、写真集の中からイメージを厳選し楮紙に印刷したプリントを展示している。オープニングレセプションでは多くの人が市田の作品を観に足を運んだ。
文=Kyoko Kasuya
タイトル | 「Absentee」 |
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会期 | 2022年3月4日(金)〜3月28日(月) |
会場 | Le Plac’Art Photo(パリ) |
時間 | 13:00~20:00 |
休廊日 | 日曜 |
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