猛暑の中でも避暑地の森の中でのアートフォト展示ということで、開幕以来、毎日多くの来場者が訪れている浅間国際フォトフェスティバル。今年は3年ぶりの開催となったが、休止中に開催地であるMMoPにはさまざまなショップなども続々オープン。朝食から夕食までさまざまなシーンに合わせた食事やコーヒータイム、さらにはショッピングも楽しむことができるとあって、1日滞在しながらゆっくりアートフォト鑑賞を楽しみに訪れる人が増えている。静粛を求められる美術館やギャラリーとは異なって、わかりやすい屋外展示は子供も楽しめるし、犬を連れて来ることもできるので、夏休みにはぴったりのイベントだ。
現在計画中の方も、すでに鑑賞した方にも、今年の見どころをピックアップして紹介。
夏休みの避暑地の自然環境の中で楽しむアートフォト
まず、館内に入って目に飛び込んでくるのが、山型をした立体物だ。建築家・工藤桃子の設計による浅間山を模した造形にシンガポールの作家ロバート・ザオ・レンフイの作品「A Guide to the Flora and Fauna of the World」が展示されている。
この作品に写っている被写体は金魚やバナナ、肉など、「この写真のどこがアート?」と聞きたくなるような動植物ばかり。でもタネを明かすと、すべてが人工的な作為が介入したもの。人間の欲望の深さを思い知ると同時に、私たちの日常を取り巻くものに本当の自然物がどれくらいあるだろうかと考えさせられる。デジタル加工が当たり前になった、「写真」も然り。もはや虚実を問うこと自体が意味がないのかもしれない。
大型のビジュアルで目を引くのが、イタリア人作家のロレンツォ・ビットゥーリの8枚の作品。こちらの「Dalston Anatomy」は、ロンドン近郊のダルストン地区にあるマーケットで買ってきたり拾ってきたものをオブジェのように組み合わせた彫刻の静物写真と市場にいる住民たちをスナップした写真で構成されたシリーズ。ジェントリフィケーションと呼ばれる施策で下層階級の住宅地が高級化されていく様子を表現したこの作品は、ものが作られ、崩壊し、また再生するという人間の営みを。
メインスポンサーGUCCIによる圧巻の大型展示は必見!
会場であるMMoPの中心にある御代田写真美術館の空間では、GUCCIのためにIMAがキュレーションした展示「NEW GENTLEMEN」を開催。7名の写真家、木村和平、小林健太、沢渡朔、野村佐紀子、細倉真弓、水谷吉法、森山大道らが、井浦新(俳優)、石上純也(建築家)、金子ノブアキ(ミュージシャン/俳優)、久住有生(左官職人)、志尊淳(俳優)、森岡督行(森岡書店代表)、吉田修一(作家)ら7名の現代のジェントルマンたちの姿をとらえたプロジェクト。
豪華写真家と豪華キャストの顔合わせによって、全く異なる作風と全く異なる展示で、新しい時代の紳士像が表現されている。
写真史の中でも古くからもっとも重要な表現である「肖像」という観点から、幅広い年代にわたって活躍する日本人写真家たちの表現を同時に鑑賞できる貴重な体験は、ファッション写真の枠組みを超えて写真ファンにはこたえられないはずだ。
二人の女性写真家たちによるジェンダーイシュー作品の競演
MMoPの一番奥手にある館内では、二人の女性写真家による展示を展開している。
まずヴィヴィアン・サッセンは、IMA本誌でも特集で紹介したことのある「Venus&Mercury」を一枚の長いロール紙に出力して、立体的にインスタレーションしたスケールの大きな展示になっている。2019年にヴェルサイユ宮殿に招聘されて制作したこのシリーズは、マリー・アントワネットが恋人に宛てた手紙を発端にはじまったもの。宮殿内に残された男性の石像をとらえた写真に彩色を施したり、宮殿近くの街の若い現代女性たちをモデルに撮影したりしながら構成された作品群と向き合うと、私たちの既成概念の中にある男性像と女性像を、自分自身と照らし合わせながら考えされられるきっかけになる。
もう一人が石内都。今回の「連夜の街」というシリーズは、「絶唱、横須賀ストーリー」「アパート」と並ぶ初期三部作のひとつで、カラーで展示されるのは初めてとなる。敗戦後、進駐軍から婦女子を守るために作られた赤線地帯。その建物跡を記録していった写真だが、この空間で巨大な写真によって「ここに、写真で再び赤線の建物を建てたかった」(石内)という言葉の通り、カーテンを潜って展示室に入るとまるで赤線の中に迷い込んだような気分になる。女性が売り物になるという事実の前で、自分はその向こう側かこちら側かと考えた時にこの作品が生まれたという作家の言葉の重みを改めて感じることができる。
今年のフェスティバルのテーマである「Mirrors&Windows」は、「自分自身を映し出す鏡であり、同時に社会を覗く窓でもある」という写真の本質を表している。ジョン・シャコーフスキーによって1978年にニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催された同名の展覧会に想を得たものだが、同時代に生きる写真家たちの写真を見ながら、このフェスティバルで自己の内面と向き合い、また世界で起きているさまざまな事象と向き合ってみる体験をしていただきたいという思いが込められている。
ここに紹介した写真家の他にも、エリック・ケッセルス(9月26日までフォトコンテストも開催中:IMA nextテーマ「MISTAKE」)、トーマス・マイランダー、吉田志穂ら、IMA本誌でもお馴染みの作家による展示が屋内外でたくさん出会えるこの機会に、ぜひ足を運んでいただきたい。
タイトル | 「浅間国際フォトフェスティバル2022 PHOTO MIYOTA」 |
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会期 | 2022年7月16日(土)~9月4日(日) |
会場 | メイン会場「御代田写真美術館」|MMoP(モップ)周辺(〒389-0207 長野県北佐久郡御代田町馬瀬口1794-1) |
時間 | 10:00~17:00(屋内展示は最終入場16:30まで) |
定休日 | 水曜(8月10日を除く) |
入場料 | 一部有料 |