Interview
Daisuke Yokota

横田大輔インタヴュー
予感に満ちた“暗い部屋”

横田大輔

写真家・横田大輔にとって日本では約3年ぶりとなる個展「Room. Pt. 1」。近年は、海外を中心に展示等の活動を続けてきたが、その間は「地下に潜る気分でやっていた」という。そして現在、ついに浮上を果たした彼はどのような変化を遂げたのだろうか。今回の展示で新たなマテリアルを用いるなど、次なるステップへと足を踏みいれつつある現状について、そして、写真とは何かを問い直し続けてきた彼が予感する、あるひとつの可能性について話を聞いた。

文=酒井瑛作
写真=高橋マナミ

ラブホテルの部屋に充満する「写真的」な現象

―横田さんは、これまで写真を繰り返し複写、加工することで写真の「肉体」ともいえる物質性を前面に押し出してきました。フィルムを作品化した「Color Photographs」(2015年)は、その取り組みのひとつの到達点ともいえるものです。ここから次へと展開していくができるのだろうか?と感じていたのですが、今回はその後に制作された完全新作ですね。

「Color Photographs」では、僕がやれることって状況をセッティングするくらいなんです。もちろん多少の関与はあるんですけど、基本はフィルムの反応に任せて、あとは出来上がってくるものを見て喜ぶみたいな。その上で発展させていくとなると、こっちでやれるのは事後的に操作していくこと。あるいは、素材として扱うこと。ただ、そうなってくるとわざわざ「Color Photographs」を使う必要がなくなってくる。あれはあれで完成している感じは、たしかにありました。このシリーズを続けていくことは、無駄だとは思わないんですが、ずっと続けていくことには発展性がないなと。そういう意味では、苦しかったですね。もう一度、写真へのとらえ方を組み立てる方法を別ルートで見つけなければと、それこそ3年くらい前から感じていました。

横田大輔 Untitled, from《Color photographs》, 2015

横田大輔 Untitled, from《Color photographs》, 2015

―今回の展示「Room. Pt. 1」でモチーフとなっている「部屋」は、まさに「別ルート」を開拓するための足がかりとなるものだと思うのですが、その「部屋」ではどんな発見があったのでしょう?

部屋に関しては、3、4年前から一人でラブホテルに泊まるのが趣味だったんです。そこでは時間のリミットが来るまで、ただぼーっとしているだけなのですが、結構リラックスできるんですよ。なぜかというと、一人で泊まるラブホテルって目的がない。例えば、ビジネスホテルに泊まる場合は、次の日に仕事があるとか、旅行をするとか、何か目的があるから泊まりますよね。ラブホテルの場合は、その部屋にいるという目的以外はないわけです。写真は行くたびに撮っていましたが、作品としてまとめるつもりはなかったので、意識的に何かを撮ろうとしていたわけでもなかった。

―作品をつくるために滞在していたわけではなかったんですね。

ただ、年々ホテルに行く頻度は増えていって、去年は、ある種の家出のように2カ月ほど滞在したこともありました。渋谷に古いラブホテルがあって定期的に行っていたのですが、そこで感じたのは、10年間くらい前からまったく変わらない空間だということなんですね。冷蔵庫とベッドがあるくらいで本当に簡素な部屋なのですが、まったく時間が動いていない感覚がある。あとは、部屋の形は正方形だったと記憶しているのですが、ただ、それってたぶん脳の中で修正されていて、実際の部屋はもうすこし歪な形をしている。この停滞している時間と空間のズレというのが、僕の中でずっと引っかかっていました。

横田大輔

―これまでの作品で扱ってきた時間の感覚や記憶の変容といったテーマと繋がってきそうです。

僕が興味のある時間のあり方は、生活する中で感じる線的な時間ではなく、点のような時間のあり方。ある会話の中で「アボリジニにとって時間とは穴らしい」という話を聞いて。彼らは神話に記憶された出来事の中で生きているから、すべては過去に決められていて、過去、現在、未来の距離がほとんどない。ゆえに、時間は線ではなく、点として存在している。その点に深みがあって、時間の厚みになっていくという感覚らしいんですよ。それはまさにホテルの密室で体験できる時間の感覚に近かった。そういう空間で目的もなくぼーっとしていると、大げさにいえば白昼夢のように、頭の中と直接コネクトしやすくなってくる。何か過去の記憶を思い出したりするのですが、これはある種写真的だなと。

―「写真的」ですか?

写真を見るとき、その絵柄を見ているけれど、もちろんそこには実際の風景はないわけです。その代わり、見ている人間の脳内の類似した記憶を引き出させる。それは現在と過去、または現在とそれ以外といった複数の時間が交錯する現象でもある。そういったことが生じる場を、写真的なものだととらえているんです。なので理想をいえば、今回の展示では作品がトリガーとなって、そのような複合的な空間を展示空間に見い出せるようにできるといいなと。


写真を問い直す土壌をつくるために

―ここ2、3年の作品の変化として、例えば「Matter」(2014年)シリーズに見られるように、展示の形態が平面から立体へと移行しているように思います。今回の展示でもその変化は同様に感じられました。

そうですね。考えていることは変わってないかもしれませんが、手段は変わってきています。当然ですが、カメラで記録したときに視覚情報以外は漏れ出るじゃないですか。だけど、実際にその場所に行けば視覚以外の情報がある。じゃあ、そうなったときにカメラに収めたイメージから漏れ出たものをどうやって変換して、もう一度写真の中に置き換えることができるか。それはジレンマでもあるのですが、結果的に写真は視覚メディアであるという前提から考え直さないといけないと思っています。

GP Galleryでの「MATTER /   」展示風景(2016年)

GP Galleryでの「MATTER /   」展示風景(2016年)

―今回の展示では、新しい素材や展示方法が取り入れられていますが、どういった意図だったのでしょう?

今回はモニター、印画紙、パネル、PVCを用いた作品があるのですが、それぞれをひとつの空間(部屋)ととらえて、さらに同一の画像を定着させています。同じ画像を複数バリエーション用意することで、一般的にオリジナルとされるカメラで撮影されたときの画像の所在を霞ませようと考えていました。ここで考えたかったのは、写真が現実を記録するという側面から切り離され、独自の世界を獲得することができるのではないかということ。いままでこういったことは、複数の写真集の間で表現しようとしてきましたが、今回はひとつの会場内で表すことができるかもしれないというヒントを得られたと感じています。

―写真集から空間へと表現の方法が移行していったと。今回の展示では当初写真集をつくる予定だったそうですが、インスタレーションに変更されました。どのような経緯で展示を構成していったのでしょうか?

写真集を用いるには、まだ自分なりの方法論が確立していないと判断したんです。制作の途中で興味関心が変わってきたこともあって、最終的にムービーを中心に展示を考えていくことにしました。展示内で複数台のモニターを使ったのは「自分が見ている」という認識を、はっきりとした視覚の延長ではなく、記憶に近い曖昧な形として提示したかったから。ただ目の前で垂れ流される映像群が、写真を並べることで生まれる画像同士のシークエンスや関係性を散らし、ひとつの物語として提示されてしまうことを避けられるのではないかと考えました。

展示風景

それと、すべてを把握できない量を一度に提示することも重要な点なのですが、そういった意味でムービーは、画像の枚数と物量は関係ないので「Matter」のように物を氾濫させるのではなく、整理された形でアンコントロールな状態を示せると考えました。「Matter」のときは、制御されないものを過剰な物量として提示したいと思ってやっていたのですが、それをやっていったら調子が狂うと思って。単純に体調が悪くなるというか。なので今回は、土壌をつくりたかったんです。僕が考えている写真について分類して、なるべくコントロールしようとした。そして、整理したうえでこれからまた混乱させればいいやと。

―「視覚以外の情報をいかに写真に変換するか」という問題意識が横田さんの根底にずっとあり、今回の展示ではそれらを問い直すための土壌をつくろうとしたということですよね。このトライアルは、今後もしばらく続いていくのでしょうか?

今回の作品は、「完成された新しい表現だ」というわけではないのですが、今後やっていくうえで、発展していくための経路を見つけたかもしれないという予感があるものです。そのうえで最後は破綻させたい。それまでは続けると思います。

横田大輔


―最後に、現在の写真をめぐる状況に対して、横田さんが感じていることがあれば教えてください。

3、4年前は、作品をつくるうえでコンセプトや出てくるイメージが世界的に急成長していた時代だったと思うんです。一方でその結果均一化が起こった印象があります。仕上がってきたイメージを単体で見たときに、どこか似ているというか。もちろんその中で優れている人はいますが、情報過多の時代に起こりうる現象なんだろうなと。現在は、落ち着いていますよね。なんとなく何も起こらないといような前提がある気がして、そういう意味でここ数年は地下に潜る気分でやっていました。

個人の活動の傍ら続けてきたSpew(※1)は、いままでやってきたマーケットの上の活動の否定形として存在するような、ある種のアンダーグラウンドな活動から自分を解体していきたいという認識がありました。Spewはいま一旦休止中で、Culture Centre(※2)という新しい活動が始まっています。これも作家が主体となって活動するための土壌となるものですね。個人としては、こうした活動を経由したうえで、もう一度外に出ていこうと意識し始めているところです。ただ、いまは本当に探る時間ですね。来たるべきときに対して、用意する時間ととらえています。

※1
3名の写真家・横田大輔、宇田川直寛、北川浩司からなるグループ。2016年より活動し、ZINEの制作や音楽パフォーマンスなども行う。

※2
写真家によるコレクティブ。参加メンバーは、横田大輔、宇田川直寛、築山礁太、中野泰輔、渡邊聖子。TOKYO ART BOOK FAIR: Ginza Editionでは、ブース展開を行った。

▼展覧会
タイトル

「Room. Pt. 1」

会期

2019年5月14日(火)~6月22日(土)

会場

ガーディアン・ガーデン(東京都)

時間

11:00~19:00

休館日

日曜

URL

http://rcc.recruit.co.jp/gg/exhibition/gg_sec_ph_201905/gg_sec_ph_201905.html

横田大輔|Daisuke Yokota
1983年、埼玉県生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。2010年「第2回写真1_WALL 展」グランプリ受賞。2013年、パナソニック株式会社 / LUMIX特別協賛のもと、IMAプロジェクトが開催した「LUMIX MEETS JAPANESE PHOTOGRAPHERS 9」に出展。同年、アムステルダムのUnseen Photo Fairにおいて「The Outset I Unseen Exhibition Fund」初受賞者となり、 翌年2014年にFoam写真美術館にて個展を開催。2015年、Photo LondonにてJohnKobal Residency Awardを受賞、2016年にはPaul Huf Awardを受賞。これまでに出版した写真集が、2年連続Aperture Foundation PhotoBookAwardsにノミネートされている。主な写真集に『VERTIGO』、『垂乳根』など。写真家の北川浩司、宇田川直寛とともに「Spew」を結成し、ZINEの制作や音楽パフォーマンスなど幅広い活動を行う。