「イメージの実験場」を今年のテーマに掲げ、第4回浅間国際フォトフェスティバル2023 PHOTO MIYOTAが、避暑地で知られる長野県御代田市の美しい自然の中で開催されている。大型の屋外展示や立体作品、観る者の動きによって映し出されるイメージが変わる作品など、今年もフェスならではのユニークな鑑賞体験を楽しむことができるコンテンツが目白押しだ。今年はどんな作品と出会えるのだろうか? 編集部によるオンラインガイドツアーで会場をレポートする。
色鮮やかな作品がお出迎えする、PHOTO MIYOTAの幕明け!
まず来場者を出迎えるのが、大きな5枚の布にプリントされた濱田祐史の作品〈R G B〉だ。光の三原色R(赤)G(緑)B(青)をテーマに色と光を考察した実験的なシリーズで、カラフルで抽象的なイメージは、RGBのフィルターを使い白色の背景に写る影を多重露光で撮影することで生まれた。
濱田の写真へのあくなき探究心から生まれた、美しい光と影の色がプリントされた布の下をくぐりながら、会場の奥へと進もう。その際に、壁画には未発表作品〈R G B〉が展示されているのでお見逃しなく。
美術館の前にある大型作品は、ハナ・ウィタカーの〈Ursula〉。デジタル加工されたかのようにグラフィカルで鮮やかな色が目を引くが、実際は照明や小道具、衣装、背景などが綿密にセッティングされ、スタジオで撮影されたアナログな写真である。作品に登場する人物ウルスラは、現代技術によってジェンダー化された架空のキャラクターであり、これまでアートや広告で描かれてきた女性像が表されている。ウィタカーは、社会性に富んだ写真を用いて、これまで女性に押し付けられてきたステレオタイプなイメージに対する疑問を投げかけているのだ。
手前の芝生に並ぶのは、障がいを持つクリエイターたちとアトリエリスタと呼ばれる支援員とが共に創作を行うアトリエ、konstによる9名のクリエイターの作品だ。展示作品は2023年に軽井沢町地域活動支援センターで行われたワークショップで制作されたもので、豊かな発想力から生まれた作品は観る者を明るい気持ちにさせてくれることだろう。今後もkonstは、クリエイターたちの障害の有無にかかわらず、作品が平等に評価され、作り手に適切な報酬を還元する仕組みを目指し、アートを通して社会とつながる活動を続けていく。
自然の中を歩きながら屋外展示を楽しもう
さらに奥へと進むと、傾斜がある丘にジュリー・コックバーンの作品が見えてくる。コックバーンは学生時代に専攻していた彫刻が制作の原点にあり、現在はファウンドフォトや印刷物などに刺繍やペイントなどの装飾を施し、それらに新しい価値を与え、アート作品へと昇華させることで知られている。それぞれのファウンドフォトに写されているものの色やかたち、そして余白などから受ける印象をインスピレーション源に、イメージと対話をしながら施された手作業の精巧な技術を間近で見つめてみてほしい。
コックバーンの作品を鑑賞しながら丘を登り、後ろを振り返ると、その裏にガラリと違ったモノクロでプリントされたドーラ・ライオンストーンの作品〈Nachtluftschlösser〉が見えてくる。“夢の再構築”を試みたこのシリーズは、フィンランドの自然の中で夜中に撮影されたもので、写真、コラージュ、アニメーション、プロジェクション、インスタレーションなど多様なメディアや技法を用いた複雑なプロセスを経て、2次元と3次元、光と闇、幻想と現実といった複数のレイヤーが織り交ぜられている。暗闇の中に浮かび上がる幻想的なイメージが、こうして遠く離れた異国の森の中に佇んでいることもまた、作品の新しいレイヤーのひとつになっているのかもしれない。
その横にあるのは、本フェスのキービジュアルとしても作品が用いられているクリスト&アンドリューの展示。彼らは、写真、インスタレーション、映像などの多様なメディアを用いて、歴史、政治、経済、ポップカルチャー、そして社会的規範の構造がもたらす日常生活への影響を、鮮やかな色やシュールなスティルライフなどを使って表現してきた。過去に思い描いた未来像をノスタルジックに再解釈する作品からは、新たな技術が刻一刻と誕生する今日、描いていた未来と現実とのギャップに思いめぐらせるきっかけとなることだろう。
インタラクティブに鑑賞する新しい写真体験
会場の一番奥にある美術館前で思わず立ち止まってしまうのが、西野達によるフォトスポットだ。
自らの作品と共に立体物の一部分になってくれた西野。
西野は、公共空間での大型プロジェクトを展開する作家として国際的に活躍しているアーティスト。ものが本来持つ意味や機能から解放し、「屋外と室内の逆転」「プライベートとパブリックの逆転」を起こす。アートを日常にねじ込み、観客を揺さぶりながら新しい世界を再構築していく作品は、アートシーンの裾野を広げ、多くの人々がアートに興味を持つ機会を創出している。このフォトスポットでは、西野が御代田町で探してきた日用品が積み上げられている。ぜひ一番下に立って、作品の一部としてポーズを決めてみては?
美術館内では、鈴木崇、ニコ・クリジノ、MAZDA+柿本ケンサク、リュウ・イカ、アントニー・ケアンズ、苅部太郎、岡田舞子の7組の作家の展示が行われている。中でも柿本ケンサクの作品はスポンサーであるMAZDAとのコラボ作品で、鑑賞者がMAZDA2の前に立つと足元に光が現れ、立つ位置に合わせて車体と壁面に作品がプロジェクションされると共に、鑑賞者が歩いた軌跡に合わせて音が合成されることで、イメージと音によるオリジナルな組み合わせを体験することができる。また、苅部はAIを用いて生成されたデジタルヒューマンのポートレイトを展示している。年齢や人種、性別、場所などの属性を全て取っ払い生まれたはずの人物像との対面は、私たちに社会に根付く常識をユーモラスに問いかけるだろう。「写真とは何か」を常に考え制作するリュウが本フェスで展示するのは、家族を通して自己と向き合った新作だ。コロナ禍を経て故郷に帰省したことで気づいた自身の作品と家族写真との共通点を紐解きながら、写真と記憶の関係性を掘り下げた。
そのほかにもグレゴリー・ハルペーンや、マックス・ピンカース&ヴィクトリア・ゴンザレス=フィゲラス、安齋重男、大辻清司らが本フェスに出展しており、合計20作家、23展示で構成されている。作家たちが写真と向き合い挑戦し続けている姿勢にふれることは、わたしたちに新しいひらめきを与えてくれるきっかけとなるに違いない。酷暑が続くこの夏、浅間山を望んで長野の涼やかな風を感じながらアートフォトを楽しむことのできるフェスティバルにぜひ訪れてみては?
タイトル | 「浅間国際フォトフェスティバル2023 PHOTO MIYOTA」 |
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会期 | 2023年7月15日(土)~9月3日(日) |
会場 | MMoP(モップ)周辺(〒389-0207 長野県北佐久郡御代田町馬瀬口1794-1) |
時間 | 10:00~17:00(屋内展示は最終入場16:30まで) |
定休日 | 水曜(8月16日を除く) |
入場料 | 1,000円(一部建物のみ有料、中学生以下無料) |
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