写真のプロセスは果たしてどの時点で始まり、どの時点で完結するのか。
一般的には、写真の工程はシャッターが切られた瞬間からはじまり、撮影されたイメージをそっくりそのまま印画紙に焼き付けることで完了するといった、一定のプロセスを経過する行為と考えられている。しかし、写真家・横田大輔の作品と方法論は、このような一般論を根底から覆す。横田は写真とその記録性における根本的な原理に対して徹底して疑問を呈し、既成概念を説き伏せる。横田の作品では、イメージが現像される過程が最終的なプリント作品の一部を成すからだ。つまり、イメージがつくられるプロセスを隠そうとするよりも、むしろプロセスそのものを顕在化させているのだ。
横田は、何度も写真のスキャンを繰り返し、モノクロームのイメージをつくりあげている。大抵の場合、このような作品に使われる画像は、横田が数年前に撮り溜めておいた画像から選ばれている。当然のことながら、プリント、スキャン、プリント、再スキャンと繰り返していくうちに、画像は変容していく。シャープネスが失われ、コントラストは強まり、画像にノイズが入り込んで誇張されるといった、さまざまな段階でイメージは劣化していくことになる。ある意味、横田は繰り返されるスキャンとプリントの工程によって生じた劣化を1枚のイメージに集約し、イメージの異形化を図っているのだ。最終的なイメージは、繰り返され、排除できない決定的な一連の作業の痕跡を残している。このようにして、横田はネガを現像するといった閉ざされた暗室作業の発想を取り入れつつも、その工程を最終的な写真作品に取り込むことで、写真のプロセス自体が持つ表現の可能性を格段に拡張した。
横田による近年のカラー作品についても、同様のことがいえる。
巨大なライトボックスの作品では、熱い湯に晒されたときにカラーネガの感光材が段階的にどのような変容をするかを見せている。感光する段階は意図されずに断片化され、光源を用いるよりもさらに純粋な化学反応として、いかに像が生成されるかを表現している。これは、いわゆる「カメラレス(カメラを用いない)」の写真作品の好例である。視覚的に感知できない写真の感光現象を曝すことによって、写真とは光に反応した薄っぺらい表層でしかないという事実を突きつけることになった。
写真は真実そのものになり得るのか?
真実の提示ではなく、つまり、写真に映されたイメージが究極のところ幻想でしかないことを実証することで、横田は写真に映されたイメージよりも、写真は物質でしかなく、そのイメージは幻想であるという事実を明かそうとしているのではないだろうか。われわれが生きるポストデジタル、それは情報が生活の隅々まで浸透しきった時代において、横田の作品は、われわれがいかに仮想イメージを現実のものとして受け入れてしまっているかを知らしめる。その一方で、横田がつくりだし、暴いた写真のプロセスで生じる化学反応は、その色彩、形状、そしてグラデーションの比類なき繊細な美しさは、イメージによる仮想ではなく、目の前の実体としての美しさを見せつける。
―アマナコレクションディレクター:アイヴァン・ヴァルタニアン
アマナコレクション(the amana collection)とは
2011年に株式会社アマナがスタートした、日本の現代写真を中心とした企業コレクション。現在、日本の現代写真作品の卓越性が表れる約900点の多彩な作品を収めるまでになりました。本コレクションには、既成の概念や視点に疑問を投げかけ、新たな創作への道を開こうとする写真家たちの作品が集結しています。これからもthe amana collectionは、現代写真への認知と理解を高めるさまざまな活動に取り組み、現代、そして未来の日本人写真家の支援を続けてまいります。
タイトル | 「アマナコレクション展 05 ― 横田大輔」 |
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会期 | 2019年12月14日(土)~2020年1月20日(月) |
時間 | 11:00~19:00 |
会場 | IMA gallery(東京都) |
休廊日 | 日曜・祝日、年末年始(2019年12月27日~2020年1月5日) |
入場料 | 無料 |