まず眼差しを向けると、今回展示する2人の写真家の作品はいずれも似かよった印象のひと気のない風景に映ります。その構図に徐々に視線を進めると、それぞれの作品は慎重に考え抜かれた独自の手法で撮影されていることを感じます。そして展示空間全体を見渡すと、写真家は自身の思考をかたちづくり、観客がそれを体験する方法として、写真プリントという媒体を利用していることにも気付くのです。ですが今回の展覧会では、そのような共通点ではなく、撮影手法の違いを通じて、それぞれの写真家の固有性を明らかにしてみたいと思います。
松江泰治の作品では、世界中のさまざま土地が、被写体に影が生じない順光での撮影や地平線がない構図など、一貫した制作手法によって撮影されています。撮影場所の判別は一見つきませんが、作品タイトルに地名や都市コードが用いられていることに気が付くと、旧知の場所が新たな風景となり交差します。今回展示する作品は、マクロとミクロが呼応する、視線そのものを示しているかのようです。松江は形態が持つ表層性に徹底することで作品の地理的特定を排除していますが、笹岡啓子の作品では場所と時間が明確に提示されています。岩手、宮城、福島で撮影された作品は、3.11の震災と時間的にも距離的にも関連付けられ、今回展示40点の作品も震災後の時間の流れに沿って展示されています。
これらの作品を通じて、水平線というものを抽象化してみましょう。水平線とは、目に見えながらも誰もがそこに行きつくことができない本質のない存在ですが、それゆえに、私たちは自らの視線と知覚に限界があると気付くのです。そしてまた水平線は、私とその周りの環境との間の距離や関係性をかたちづくる存在でもあります。それぞれの作家が構図の中でどのように水平線を捉えているか、そこから作品のひとつの解釈が生まれてくるでしょう。これらの作品には、カメラ的な意味での決定的瞬間は残されていませんが、すべての露光には作家が伝えようとするものの切実さが刻まれています。今回の2人の写真家は、撮影場所を無作為に決めていません。つまり、自らの決意をもとに被写体を選択しながらも、主観を超える新たな風景に出会い、写真としてそれらを表現しているのです。
変わりゆく世界のなかで私たちは世界にどのように向き合い、それを写真はどう捉えてゆくのか、これはthe amana collectionの収蔵作品に繰り返し見られるモチーフです。見るということと写真 – 観察力や技術の進化とともに私たちの知覚は個々に変容してゆきます。そうして、私と世界を繋ぐ新たな現実感もつぎつぎと生まれ続けてゆくのです。
―アマナコレクションディレクター:アイヴァン・ヴァルタニアン
【the amana collection(アマナコレクション)とは】
2011年に株式会社アマナがスタートした、日本の現代写真を中心とした企業コレクションです。現在、日本の現代写真作品の卓越性が表れる約800点もの多彩な作品を収めるまでになりました。本コレクションには、既成の概念や視点に疑問を投げかけ、新たな創作への道を開こうとする写真家たちの作品が集結しています。これからも、the amana collectionは現代写真への認知と理解を高めるさまざまな活動に取り組み、現代そして未来の日本人写真家の支援を続けてまいります。
タイトル | 「アマナ コレクション展 03 ― 笹岡啓子、松江泰治」 |
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会期 | 2019年3月23日(土)~4月26日(金) |
会場 | IMA gallery(東京都) |
時間 | 11:00~19:00 |
休廊日 | 日曜・祝祭日 |
観覧料 | 無料 |