新型コロナウィルス、Black Lives Matterなどさまざまな苦境に翻弄された2020年。この一年を振り返りながら、出版、展示、賞の受賞など各方面で活躍してきた写真家たちを紹介しよう。
スティーブン・ショア
1947年アメリカ・ニューヨーク生まれ。幼少より写真を撮り始め、1971年にはメトロポリタン美術館で写真家として初の個展を開催。以降、ニューカラーの代表的旗手として活躍する。1982年より、バード・カレッジの写真学部長を務めるほか、2010年には英国王立写真協会より名誉フェローが授与された。今年は、代表作『Uncommon Places』制作時にコダクロームで撮影していたフィルムが写真集化された『TRANSPARENCIES: SMALL CAMERA WORKS 1971-1979』がMACKから、そして新たな作品構成に挑み、実験的な意識の捉え方を目指すべく1969年2月4日に撮影された写真をほぼ全て収録した『Los Angeles, CA, February 4, 1969』を刊行している。同時に、8月末に刊行された『IMA vol.32』の総特集では、作品アーカイブやエッセーを通してこれまでの自身のキャリアを包括的に振り返った。
ソール・ライター
1923年、アメリカ・ピッツバーグ生まれ。2013年没。47年にニューヨークへ渡る。絵画から写真に移り、ユージン・スミスらと知り合う。48年からカラースライドを撮り始め、実験的作風をスタイケンも認識。 50年代から80年代にニューヨークで第一線のファッション写真家として活躍したものの、自らの制作活動に専念するために商業写真から立ち退いた。カラー写真のパイオニアとも呼ばれたこの一人の写真家の個展が初めて日本で行われたのが2017年。それが今年また、同じ渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで開催され、そこにはニューヨークの膨大なアーカイブから未だに世界未公開であったモノクロ・カラー写真の数々が連なった。
シャルロット・デュマ
1977年、オランダ、フラールディンゲン生まれ。2000年にヘリット・リートフェルト・アカデミーを卒業後、ライクスアカデミーで学ぶ。20年以上にわたり、現代社会における動物と人間の関係性を作品化してきた。2014年より日本全国の在来馬を撮影するプロジェクトに携わり、北海道、長野、宮崎、与那国島などを巡って撮影。その過程で生まれた作品を展示したのが、今年メゾンエルメス フォーラムで行われた「ベゾアール(結石)」展。会場を手がけた建築家の小林恵吾と植村遥によって、写真や映像の他に埴輪や結石など馬にちなんだ展示物に加え、沖縄で出会ったテキスタイルデザイナー、キッタユウコの藍染のインスタレーションなどメディアの垣根を超えた展示構成となっている。
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ヴォルフガング・ティルマンス
1968年、ドイツ・レムシャイト生まれ。現在、ベルリンとロンドンを拠点に活動。英国ボーンマス&プール・カレッジを1992年に卒業した後、『Purple』などのファッション誌で活躍する。壁に直接写真プリントを貼る独自のインスタレーションや、同世代の若者やカルチャーそしてセクシャルマイノリティに目を向けた作品などで注目され、2000年にターナー賞を受賞。カメラを通じて現代社会のさまざまな側面を切り取りながら芸術の可能性を追求している。近年は、社会問題へのアクションや音楽活動にも注力する。毎年目覚ましい活躍が目立つティルマンス。彼にとって2020年は、舞台美術を担ったベンジャミン・ブリテン作の『戦争レクイエム』の2月の台湾上演を皮切りに、新型コロナウィルスの影響により経済的打撃を受けたアート・音楽施設をサポートする「2020Solidarity」、作品集『Today is the First Day?』の刊行、そして年末にワコウ・ワークス・オブ・アートで開催された「How does it feel?」の個展など新たな試みを含む、多くのプロジェクトに携わった一年である。
タイラー・ミッチェル
ジョージア州アトランタ生まれ。2017年5月にニューヨーク大学のFilm & Television学部にて学士号を取得。『Foam Magazine #53』のファッション特集では、ロンドンのサーペンタン・ギャラリーのディレクターである、ハンス・ウルリッヒ・オブリストによるインタヴューが掲載された。これまでにAperture Foundation、Red Hook Labs、Artsyでのグループ展に参加。昨年、オランダのFoam 写真美術館で初の個展「I can make you feel good」を開催している。その展示のパート2が今年ニューヨークのInternational Center of Photographyで行われ、展示作品をまとめた『I Can Make You Feel Good』もPrestel社から出版。前年に続いてJWアンダーソンやロエベの撮り下ろしなども手がけており、今後も目が離せない若手作家の一人である。
アレック・ソス
1969年、ミネソタ州ミネアポリス生まれ。2008年よりマグナム正会員。ロードトリップ系のアメリカ現代写真を継承し、早くからコンテンポラリーアートの世界で注目を集める。ニューヨークのホイットニー・ビエンナーレ(2004)、パリのジュ・ドゥ・ポム(2008)など、世界各地で数多くの展覧会を開催し、『Sleeping by the Mississippi 』(2004)、『I Know How Furiously Your Heart Is Beating』(2019)など多くの写真集も出版している。2020年にはPictures for ElmhurstやThe Anti-Racism Photography Fundraiserなど複数の社会貢献ファンドレイジングにも自身の写真を提供し、Foam写真美術館での「I Know How Furiously Your Heart Is Beating」展、そして中国の初展覧会「The Space Between Us」も開催した。12月にはオンラインフォトコンテスト IMA nextの審査員も務めている。
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ヴィヴィアン・サッセン
1972年、アムステルダム生まれ。幼少期をアフリカで過ごし、ユトレヒト芸術大学、アーネム芸術アカデミーでファッションデザインと写真を学ぶ。その後、ファッション写真家として『Purple』『VOGUE』『Dazed &Confused』などの雑誌で活躍するほか、Miu Miu、ルイ・ヴィトンほか数々のファッションブランドのキャンペーンビジュアルを撮影。2013年に第55回ヴェネチア・ビエンナーレ「The Encyclopedic Palace」に出展し、2015年にはドイツ証券取引所写真財団賞にノミネートされた。主な作品集に、『Flamboya』( contrasto、2008年)、『Parasomnia』(Prestel、2011年)、『Umbra』(oodee、2014年)、『Pikin Slee』(Prestel、2014年)、『Of Mud and Lotus』(アートビートパブリッシャーズ、2017年)などがある。今年は2019年にヴェルサイユ宮殿で撮影されたシリーズである「Venus & Mercury」の展示がハイス・マルセイユ写真美術館で行われ、全14室に加え美術館の庭にも展開された大規模な展覧会となった。そのほかには『IMA vol.34』で総特集を行い自身のキャリアを振り返っている。
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